宇宙を往復 極厚ボトル タイガー魔法瓶(もっと関西)
ここに技あり 「こうのとり」搭載の断熱容器

関西タイムライン
2019/3/25 11:30
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重さ10キロ、高さ34センチ。ずっしりとした重みのある円筒形の容器に、タイガー魔法瓶(大阪府門真市)の技術が凝縮されている。同社が開発したステンレス製の断熱容器が2018年11月、宇宙への長旅から帰還した。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の発注で無人輸送機「こうのとり」の7号機に搭載され、医薬品を開発するためのたんぱく質を容器に入れて持ち帰った。

断熱容器を手にする開発チームの中井さん

断熱容器を手にする開発チームの中井さん

14年、JAXAから難題が持ち込まれた。宇宙で結晶化したたんぱく質を地球に持ち帰るため、(1)容器内部の温度を4日間4度に保てる(2)地球に戻ってきた際に海に落とす時の強い衝撃にも耐えられる(3)重さ10キロ以下――などの条件をクリアした断熱容器の製造を求められたのだ。

飲料などに使われる一般的なステンレス製魔法瓶の保温時間は長くても24時間で、強度も誤って落とした時に壊れない程度だ。要求された品質は飲料用の魔法瓶とはかけ離れている。開発チームのリーダー、中井啓司さん(55)は「(求められた条件を満たす容器を)本当につくれるのか」と不安を抱えながら開発を始めたという。

飲料用の魔法瓶は内びんと外びんの二重構造で、その間が真空になっている。飲料用の一般的な構造は内びんが厚さ0.1ミリ、外びんが同0.4ミリ、真空部分が同1.5ミリ。この薄さでは当然、着水時の衝撃に耐えられない。強度や保温効果を高めるために厚みを持たせると、たちまち重さの要件を満たせなくなる。

本社内の一角で進めた研究開発は「経験と勘だけが頼りだった」(中井さん)。まず、内容器に外容器をかぶせることで保温の条件を満たす手法を考案した。魔法瓶に魔法瓶をかぶせるという発想だ。試作品の製造を繰り返すこと10回以上。外容器の設計は内びんと外びんの厚さを最大2ミリ、真空部分を同11ミリとすることで条件を満たせることを探り当てた。重さは外容器が6キロ、内容器が4キロだ。

真空状態を作り出す工程でも、通常の魔法瓶の製造時とは勝手が違った。高温で真空状態にする「真空炉」を7炉使って段階的に加熱する際、飲料用を製造する時の1炉あたり30分をかける方法では十分に真空にはできなかった。このため、この工程でも何度もテストを繰り返し、1炉あたりの加熱時間を45分にすれば可能なことも突き止めた。

開発陣の試行錯誤の末、18年9月23日に断熱容器を搭載したこうのとり7号機が国際宇宙ステーションを目指して旅立った。1カ月半後の11月11日、無事にたんぱく質を持ち帰り役目を果たした。魔法瓶の技術は我々の生活を便利にするのみならず、科学の進歩にも貢献している。

文 大阪経済部 川井洋平

写真 小川望

カメラマンひとこと 中央の円は容器の縁だ。JAXAが採用した断熱容器は内容器と外容器の二重構造になっている。一方に魚眼レンズを装着したカメラを置き、自動で撮影するようタイマーをセット。LEDライトで中を照らす。開発担当者が手にするもう一方には、シャッターに連動して無線通信で発光するフラッシュを当て、ステンレスの輝きを出した。
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