2019年4月20日(土)

ゴラン高原、新たな火種に
トランプ氏「イスラエルの主権認定」

トランプ政権
中東・アフリカ
北米
2019/3/22 21:30
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【ワシントン=中村亮、カイロ=飛田雅則】トランプ米大統領は21日、イスラエルが1967年の第3次中東戦争で占領したゴラン高原について同国の主権を認めると表明した。50年以上にわたって主権を認めていない国際社会に背を向け、親イスラエル路線を一段と鮮明にした。同高原周辺にはイランが軍事拠点を設けているとされ、イスラエルとの緊張が高まるリスクがある。

イスラエルを訪問し、ネタニヤフ首相(右)と握手するポンペオ米国務長官(21日、エルサレム)=ロイター

イスラエルを訪問し、ネタニヤフ首相(右)と握手するポンペオ米国務長官(21日、エルサレム)=ロイター

「イスラエル史で最も偉大な友人だ」。イスラエルのネタニヤフ首相は21日、エルサレム訪問中のポンペオ米国務長官との夕食会で、ゴラン高原の主権認定に謝意を繰り返し伝え、トランプ氏を持ち上げた。ポンペオ氏も「本当に歴史的なことだ」と応じた。

ゴラン高原は第3次中東戦争でイスラエルがシリアから奪った領土だ。81年に併合を一方的に宣言したが、国連はイスラエル軍の撤退を求めて主権を認めていない。同高原は標高300~1200メートルの丘陵地帯にあり、軍事上の要衝と位置づけられている。過去にはイスラエルとシリアが進めた和平交渉で扱いを議論したが、現在は話し合いが頓挫している。

イスラエルは、シリアのアサド政権支援を口実にゴラン高原付近で勢力を強めるイランを警戒している。同高原近くにはイラン傘下でレバノンに拠点を置くイスラム教シーア派武装組織ヒズボラの戦闘員が配置されているとみられている。

ネタニヤフ首相はイランからの防衛を理由に、ゴラン高原の主権を認めるよう米国に迫ってきた。3月中旬にはトランプ氏に近いリンゼー・グラム上院議員とともに同高原を視察し、安全保障上の重要性を訴えた。

トランプ氏が中東地域の混乱を招くリスクを冒してでも、イスラエルの主権を認めた理由は2つある。

一つは4月9日に総選挙を迎えるネタニヤフ氏の支援だ。イスラエル検察は2月末、汚職疑惑で同氏を起訴する方針を決めた。第1党であるリクードの地位は揺らぎつつあり、同氏の首相続投には黄信号がともる。同氏はゴラン高原の主権認定を外交政策の成果として支持者に訴え、巻き返しを図る見通しだ。

トランプ政権にはネタニヤフ氏の続投を後押しすることで、4月以降に予定するパレスチナ和平案の発表を円滑に進める思惑もある。米CNNテレビによると、イスラエルの主権認定を進言した一人はトランプ氏の娘婿クシュナー上級顧問だった。クシュナー氏は中東和平を担当し、ネタニヤフ氏と緊密な関係を築いている。仮にネタニヤフ氏が退任すれば、和平案も練り直しを迫られる可能性がある。

もう一つの狙いは、トランプ氏の大統領当選を導いた米国内のキリスト教福音派の支持を固めることだ。福音派の多くは親イスラエル政策を支持する。トランプ氏が2017年12月にイスラエルの首都としてエルサレムを承認したのも、福音派への配慮が大きな理由だった。

トランプ氏は政府閉鎖やロシア疑惑捜査などで不安定な政権運営が続き、共和党内にはトランプ氏に反旗を翻す動きも出ている。再選戦略を有利に進める上でも、福音派の支持固めを再度迫られていた。

だがトランプ氏の決断は、ゴラン高原周辺での緊張を高める可能性がある。シリアの国営メディアは22日、外務省筋の話として「シリア国民はあらゆる手段を通じた貴重な国土の解放を一段と決意している」と奪還への決意を示した。イランの外務省報道官も同日、「米国の認定は違法で受け入れられない。ゴラン高原がシリアに帰属するという事実は変えられない」と発言した。

シリアのアサド政権とイランが協調してイスラエルに対抗措置をとれば、中東情勢の混迷が深まる。イスラエルと対立するトルコのエルドアン大統領もイスタンブールで開いたイスラム協力機構(OIC)の会合で「地域を新たな危機の瀬戸際に追いやる」と危機感を表明した。

武力による国境線変更を容認することで、国際秩序が一段と揺らぐのも避けられない。米政権はウクライナ領クリミア半島を武力で併合したロシアを非難してきたが、ゴラン高原の主権をイスラエルに認めたことで「米国の主張は明らかに矛盾する」(ワシントン駐在の外交官)。国際法を軽視するトランプ氏の姿勢は他国のさらなる武力行動も誘発しかねない。

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