2019年8月25日(日)

オーナー経営者、太平の眠りから覚めよ

2019/3/20 19:05
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「平成」の幕が下り始めるなか、企業経営の時代の変化を感じるニュースが飛び込んできた。英投資会社など複数の機関投資家がLIXILグループの創業家出身の経営トップに退任要求した。株主が企業統治(ガバナンス)の透明化を求める動きは強まる一方で、社内で絶対的な影響力を誇るオーナー経営者も安穏としてはいられない時代に突入している。

決算発表するLIXILグループの潮田CEO(19年1月)

「泰平の眠りを覚ます上喜撰(じょうきせん) たった4杯で夜も眠れず」。上喜撰は「蒸気船(黒船)」、4杯は「4船」を指した幕末の黒船来航を風刺した狂歌だ。機関投資家がLIXILグループの経営トップ、潮田洋一郎会長兼最高経営責任者(CEO)の退任を株主提案するという出来事は、日本の上場企業の経営者、特にオーナー経営者の太平の眠りを覚ますかもしれない。

住建業界を代表する上場企業の経営者で、しかも社内に絶大な影響力を誇る創業一族のオーナー系に対し、株主が退任を求めるのは極めて異例な事態だ。

創業家出身の経営トップは日本の上場企業に少なくない。創業家出身という求心力が、経営と従業員の一体感を生み出し、経営の実行力を高める効果を期待できる。それが創業家出身の経営トップの正統性のひとつだ。

ただ、経営の所有と分離を求める株主からすれば、それはあくまで社内論理に映る。有価証券報告書によると、潮田氏の個人のLIXILグループの持ち株比率は0.15%にすぎない。

今回、機関投資家は社内では絶対的な権力を誇るオーナー経営者に対し、資本主義の論理に基づき「王様は裸だ」と叫んだとも言える。上場企業向けの「コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)」が定められ、企業統治の強化が進むなか、株主が経営トップの選任に影響力を持ち始める段階に入った。

企業の命運を左右する経営トップの育成に対する株主の視線は厳しさを増している。改定コーポレートガバナンス・コードでは、取締役会にCEOらの後継者計画の策定や運用への関与も求めている。もはや、トップ人事は社長の専権事項とされた時代は過去のモノとなりつつある。

例えば、日本的企業の代表例とされてきた三菱重工業の今回のトップ人事も企業統治改革の流れを強く意識したものとなった。同社は4月、泉沢清次常務執行役員が社長兼CEOに昇格し、宮永俊一社長は代表権のない会長に就く。

2月6日に開いたトップ交代の記者会見で宮永氏は社長選任プロセスの詳細が書かれたA4用紙2枚の資料を配った。同社は16年に社外取締役全員と取締役社長のみで構成する「役員指名・報酬諮問会議」を発足し、役員候補は社長が社外取締役に示し、同会議の議論で選考される。

今回のトップ人事も同会議で数カ月かけて議論した。三菱重工には有力OBが経営へ影響力を行使してきた歴史があるだけに、透明性のあるトップ人事のプロセスを内外に示し、企業統治改革をアピールした。

上場企業するオーナー企業もこうした流れを無視できない。持ち分比率が少ないオーナー経営者はなおさらだろう。株主資本主義が強まるなか、「社内論理」を優先する時代ではなくなり、「外部への説明責任」や「資本市場の信頼」が重視される時代に変わった。

日本を代表する優良企業には創業家が経営トップを務めるオーナー企業が並ぶ。トヨタ自動車スズキキヤノン村田製作所などだ。長期的な視点での経営や大胆な選択と集中、果敢な投資姿勢などが投資家に評価される。東京海上アセットマネジメントのオーナー企業を中心にした投資信託は、17年年初から10%高の日経平均株価に対し、65%高となっている。

優良経営のオーナー企業といえども株主還元を充実させるだけでは、株主はもはや納得しないかもしれない。持続的な成長は経営のキーワードとして重要性が高まる。企業統治の透明性が株主との建設的な対話の前提条件となりそうだ。(星正道)

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