2019年4月23日(火)

中国の経常黒字消失、変化へ好機(The Economist)

中国・台湾
The Economist
2019/3/20 2:00
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The Economist

中国のオンライン旅行最大手、携程旅行網(シートリップ)の本社の管理室には、大きなデジタル世界地図がかかっている。その地図を横切るように毎秒、十数本の線が光る。同社のシステムを通じて国際航空券が売れるたびに光る仕組みだ。筆者が訪問した3月11日朝、最も人気の高い行き先はソウル、バンコク、マニラだった。リアルタイムで更新されるホテルの予約ランキングでは、欧州で一番人気の町は英リバプールだった。工業が盛んだったリバプールの粗削りな魅力が、ベネチアやバルセロナよりほんの短い間だったが勝っていた(この時、リバプールが特別価格の対象になっていたことが影響したようだ)。

中国は海外旅行者の急増で、早ければ今年、経常赤字に陥るとされるが、それは中国の金融システム改革につながりそうだ=ロイター

中国は海外旅行者の急増で、早ければ今年、経常赤字に陥るとされるが、それは中国の金融システム改革につながりそうだ=ロイター

21世紀に入って最初の10年の中国人の海外旅行件数は年平均3000万件弱だった。これが昨年1億5000万件に達し、その約4分の1はシートリップを通じて予約されたという。これは世界中のホテルや土産物屋がもうかるという話にとどまらない。世界の金融システムにおける重大な変化、つまり中国の経常黒字が消失していく要因でもある。

つい2007年までは、中国の経常黒字は国内総生産(GDP)比10%で、一般的に経済学者が健全とする水準を大きく上回っていた。それは当時、米連邦準備理事会(FRB)議長だったベン・バーナンキ氏が「世界的な過剰貯蓄」と表現した現象を象徴していた。中国のような輸出大国が、他国から収入を得る一方で支出をせずにため込んでいた状況を指す。中国の巨額黒字は、裏返せば米国の赤字を意味し、世界経済の均衡が取れていないことを象徴していた。

だが、それは過去の話だ。中国の昨年の経常黒字はGDP比0.4%。米金融大手モルガン・スタンレーのアナリストの予想によると、中国は今年、1993年以降で初めて経常赤字に転落し、それが今後何年も続くという。国際通貨基金(IMF)などは、わずかながら黒字を維持すると予測している。いずれにしても10年前よりグローバル経済のバランスが改善してきたことを示す。このことは、中国が自国の金融システムを近代化するきっかけにもなるかもしれない。

■昨年の中国の海外旅行収支は26兆円の赤字

経常収支悪化の基本的な理由は、中国が輸入を大幅に増やす一方で、輸出が苦境に直面しているためだ。世界輸出に占める中国の割合は2015年の14%をピークに少しずつ低下している。そこに米国との貿易戦争という逆風も加わった。同時に輸入は急増している。中国の財の貿易黒字は18年、過去5年で最低を記録した。

さらに驚くのはサービスの貿易、特に旅行収支だ。08年の北京オリンピックの際は、外国人による中国での支出が中国人の外国での支出を少し上回ったが、以来、外国人観光客数は伸びず、中国人の海外旅行は急増した。それだけではない。ロンドンのヒースロー空港で付加価値税(VAT)の払い戻しを受けるため長蛇の列に並んだ人なら知っているが、中国人観光客の爆買いはすごい。中国の旅行収支は18年に2400億ドル(約26兆円)の赤字を記録し、過去最大となった。

経常収支の変動は、景気に左右される部分もある。香港の調査会社ギャブカル・ドラゴノミクスのチェン・ロング氏は、中国の主要輸入品である石油と半導体は昨年、高値で取引されていたと指摘する。これらが今後、値下がりすれば、経常黒字が再び増加する可能性もある。

ただ、もっと深い要因もある。経常収支は基本的に貯蓄と投資の差額を表す。中国の投資率は、GDP比約40%という高水準だが、貯蓄率のGDP比は10年前の50%から40%程度に低下している。国民が財布を開く(スマホの決済アプリをタップすると言った方がいいかもしれない)楽しさを覚えてしまったからだ。高齢化で貯蓄率はさらに下がるだろう。多くの退職者を現役労働者が支えることになるからだ。よって黒字の消失は、中国がより豊かになり高齢化していることを反映しているとも言える。

とはいえ、こうした変化がもたらす影響を懸念する向きもある。新興国では、巨額の経常赤字は金融不安化の前兆となる場合がある。分不相応に支出を拡大し、その資金を調達するために移り気な外国人投資家に頼るケースだ。だが、中国はそうした危機には陥っていない。今後、赤字になっても、GDPのほんの一部にとどまると予想される。しかも、政府は3兆ドルに上る外貨準備高という潤沢なバッファーも抱えている。これで時間は稼げるはずだ。

重要なのは、中国がその時間をどう使うかだ。定義上、経常収支が赤字の国は、外国からの収入でそれを穴埋めする必要がある。海外から資本を自由に受け入れられ、為替が変動相場制の場合、中央銀行が特に介入しなくても収入と支出は均衡する。だが中国は、資本の流れも為替相場も政府が厳しく管理している。

■資本市場開放で金融システム近代化の好機

中国が経常赤字に転落する可能性に直面している以上、海外からの収入を増やすには管理の手を緩めるほかない。実際、その方向に進んでいる。中国は長く、外国人投資家に厳格な投資割当枠を設け、自国の資本市場へのアクセスを管理してきた。年金基金などの機関を優遇してきたが、近年は香港証券取引所を通じたルートなど、慎重に管理しつつも割当枠を拡大している。

こうした変化から、世界の投資家にとって重要なベンチマークとなる主要な株価や債券の指数の構成銘柄に、少しずつだが中国の資産が選ばれるようになっている。米MSCIは先月、新興国株指数に中国本土上場株を組み入れる比率を4倍以上の3.3%に増やすとした。ブルームバーグ・バークレイズ・グローバル総合インデックスは、4月から中国債を採用する。そうなれば、2年以内に約1000億ドルが中国債に投じられる可能性がある。

その結果、好循環が生み出される可能性があると、IMFは中国の債券市場に関する近著の中で指摘している。債券にもっと積極投資できるようになれば、金融政策としての金利を(昔ながらの行政指導ではなく)より強力な武器に使いたい政府の目標にもかなう。債券市場に海外資金が流れ込むのと同時に、為替レートも柔軟に変動するようになれば、中国はより近代的で効率的な金融システムを築けるかもしれない。つまり、うまく対処すれば、経常赤字は歓迎すべき現象になり得る。

■経常赤字拡大阻止にはサービス業の強化を

ただ、中国に徹底してやる覚悟がないのは明らかだ。外国人投資家を誘い込む試みが進む一方、中国人の海外投資を促す動きは見られない。中国人民銀行(中央銀行)の易綱総裁は、人民元の「基本的な安定」を維持すると何度も発言している。英シンクタンクのオックスフォード・エコノミクスのルイス・クイジス氏は、結局、どれほど自由化するかは考え方の問題だとみる。中国政府は、市場の動きに任せるには慎重だ。「つまり、開放するにしてもゆっくりだろう」と言う。

従って、中国の経常赤字対策のもう1つの手法は、赤字幅を大きくしすぎないことだ。それには中国はサービス業の競争力を高める必要がある、と元中銀幹部の管涛氏は指摘する。観光や大学、病院などのレベルを上げれば、もっと多くの外国人を引きつけるだけでなく、中国の国民ももっと国内で消費するようになるというわけだ。

第2の万里の長城と考えればいい。建設から2000年以上、何度も外敵に侵入され、要塞としてはほぼ機能しなかった。だが今回の万里の長城の役割は、中国ならではの独自性を生かし、維持することで、海外から観光客を大量に呼び込むことだ。この戦いの方が勝ち目はある。

(c)2019 The Economist Newspaper Limited. March 16, 2019 All rights reserved.

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