地域おこし協力隊10年 派遣数5千人、外国人隊員も

仕事より生活の質を大切にするため地方暮らしに興味を持つ若者が増えています。そんな人たちを人口減少が進む地方の市町村に助っ人として派遣してきた総務省の「地域おこし協力隊」が創設10年を迎え、派遣数を増やしています。最近は外国出身の若者も増え、地域の伝統工芸やグローバル化を支える役割を担い始めました。
地域おこし協力隊は3年間、国が1人あたり年間400万円を出して地域で活動する制度です。スタートした2009年度の派遣は31自治体に89人でしたが、18年度は約1000自治体、5000人規模に広がっています。派遣期間が終わった後、起業したり就職したりして引き続きその地域に住む人は約6割。政府は地方への人の流れをつくる一定の効果があるとして24年度に8000人に増やす目標を掲げています。
桜の美しい奥吉野の奈良県川上村には18年度、11人の地域おこし協力隊員がいます。米国出身のエリック・マタレーゼさんは40人ほどの集落に住み、ミニコミ紙を発行。雑誌「ソトコト」に定期コラムを持つなど執筆活動を通じて日本の農村の豊かな暮らしを国内外に紹介しています。木工作家の平井健太さんは吉野杉を使った家具のブランドをつくり、伝統産業の吉野林業の一翼を担っています。
2人は任期が終わる4月以降も引き続き川上村に住むことにしました。エリックさんは4月から奈良県ビジターズビューローのスタッフとして吉野の魅力を世界に発信する仕事も始めます。村の協力隊員にはホテルで訪日客に応対しているモンゴル人女性もおり、人口1400人の村のグローバル化を外国人の協力隊員が支えています。
8000人に増やすには裾野を広げる必要もあります。2月に開いた地域おこし協力隊全国サミットでは、青年海外協力隊から地域おこし協力隊に転じ、千葉県御宿町で移住相談や国際交流に携わる三次恵美子さんが、2つの協力隊について「現地に溶け込み、地域の発展に寄与するという根本の目的は同じ」と説明していました。途上国での経験を地方で生かす人も増えています。
ただ数が増えるにつれ、田舎暮らしへの若者の覚悟も自治体側の受け入れ体制もまちまちになり「こんなはずではなかった」と途中で帰る例も出てきました。川上村のように定着率のよい自治体は首長が隊員を常に気にかけています。隊員同士で悩みを相談できる横のつながりも大切です。地域活性化センターの椎川忍理事長は「隊員のケアを充実させるネットワークづくりや研修で県の役割は大きい」と課題を指摘しています。
椎川忍・地域活性化センター理事長「隊員のケア充実を」
総務省時代に地域おこし協力隊の創設にかかわった地域活性化センターの椎川忍理事長に10年間の評価と今後の課題を聞きました。
――定着した要因は何ですか。

「若者の地方志向が高まってきたときに制度を作ったこと、制度としては市町村を補助金でなく、地方交付税で支援したのがよかった。特定の事業のための補助金だと単年度主義で実際に活動する期間は7~8カ月になってしまう。定着するには不十分だ。漠然と田舎暮らしをしたいという人には、やはり助走期間にある程度、所得がないと難しい。そこで使途自由な地方交付税を使って3年間、1人あたり年間400万円を支援する仕組みにした。何にでも使える地方交付税だと『もらったのか、もらわなかったのか、わからない』と言ってくる自治体がずいぶんあったが、『これは本来、自分たちの財源でやるべきことだから地方交付税にした。国が補助金を出してやれと言っているからやるという話ではない』と説明した」
――制度が広がると、応募する人も受け入れる自治体も温度差が出てきます。
「隣がやっているからとか、議会に言われたからとか、という理由で始める自治体もある。人を扱う制度だから、ケアが足りないとミスマッチが起きる。最初のうちはかなり濃密な話し合いをして、若者も覚悟をもって応募していたが、最近は3カ月で帰ってくる例も出てきている。反対に『経験のために行ったけれど、どっぷりはまった』という人もいる。そこは確率論だが、6割が定住しているというのは成果といえるのではないか」
――8000人に向けた課題は何ですか。
「自治体が隊員のケアを充実しなければならない。親戚を受け入れるような気持ちでやってもらわないと。受け入れるなら同時に3人は受け入れた方が悩み事があったときにまず隊員の間で相談できる。隊員OBらによるネットワークをつくり、経験者が相談に乗るようにすることも大切だ。岡山などはOBのネットワークがあるが、そこに県が少しお金を出すようにするのがよい。これからはネットワーク作りや研修で県の役割が大きくなる」
「5000人規模になると、交通事故や火事、犯罪などいろいろなことが起こる。困っている人、トラブルに遭っている人のサポートが重要になる。この制度がよりよい効果を上げていくには、身近なところに相談に乗ってくれる人がいるのが大事だ。『困ったら私のところに相談に来なさい』という人が首長などの幹部にいるかどうかによって全然違ってくる」
(編集委員 斉藤徹弥)
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