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「初」の敵対的TOB 光と影 (一目均衡)

編集委員 松崎雄典

伊藤忠のデサント株の保有比率は4割に高まった

伊藤忠商事によるデサントへの敵対的TOB(株式公開買い付け)が成立した。外資や小規模の企業が買い手となった成功例はあったものの、大手企業同士では初めて成立した案件になった。

株主には期待と不安が入り交じる。ある英系運用会社はTOBに応募して保有株の一部を現金化したうえで、株主として残るという。卸を経由した販売から自社店舗販売に比重を移して株価が大幅高となったゴールドウインのような改革を望んでいる。一方で「経営の混乱が続けば追加売却に動く」と話す。

日本市場で敵対的な買収が成立する機運が途絶えたのは2006年、旧王子製紙による旧北越製紙の敵対的TOBだった。三菱商事が北越の第三者割当増資を引き受け、旧日本製紙は北越株を市場で買い集めてTOBを阻止した。資本の論理より業界の秩序の維持が優先された。

あれから13年。市場環境は変わった。他社を守ろうと持ち合い株を買い増せば資金の無駄遣いと自身の株主に問われる。社外取締役は株主の利益につながる買収提案なら賛成しなければならない。社会的にも買収を「乗っ取り」と受け止める風潮が和らいだ。

日本では伊藤忠とデサントのように関係は深くても資本関係が曖昧な企業は多い。今回のTOBを機にグループ強化や多すぎる企業の整理が資本の力で進めば、13年前に止まった時計が動き出す。

今回のTOBには影の側面もある。第2位株主が伊藤忠に賛同しており40%しか持たなくても議決権の過半を握ることが可能だ。10%の買い増しという最小限の資金で実質的な支配権を買った。伊藤忠にはうまい投資だが、裏を返せば他の株主は損を被る。

TOBでは他の株主に売却の機会を与えるため、応募株は全て買い取らなければならないとの考え方が大原則だ。だが、3分の2以上を取得しなければ、上限を区切ることも認められている。欧州では30%以上を買ったらすべて応募株を買わなければならず、日本のルールは緩いとの指摘はかねてある。

伊藤忠は10%しか買わなかったため、株主の売却機会は限られた。今回の事例が模倣されると価格が高くなるTOBでは買い付け株数を抑え、実質的に経営権を握った後に第三者割当増資を決議させて過半を握るような制度の乱用も起きかねない。

政府の未来投資会議では上場子会社の問題が取り上げられている。「少数株主の権利を守る点で、上場子会社とTOB制度は同根の問題だ」と早稲田大学ビジネススクールの鈴木一功教授は話す。

日立製作所はイタリアの鉄道信号大手アンサルドSTSの過半の株式を買いながら、米アクティビストに3割を取得されて経営が停滞した。つけいる隙を与えないよう米国企業はルールはなくとも100%を買いにいく。資本の論理を貫徹するなら、デサントのMBO(経営陣による買収)案と伊藤忠の完全買収案が競いあってこそ、「初」と呼ぶにふさわしかった。

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