2019年3月24日(日)

米テスラ、新SUV中国量産 「モデルY」価格抑制

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アジアBiz
2019/3/15 19:30
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米テスラは14日、2020年に発売する小型の多目的スポーツ車(SUV)「モデルY」を初披露した。世界最大の電気自動車(EV)市場である中国の攻略を狙った戦略車。上海で建設中の新工場でも量産する計画だ。ただ中国では「テスラキラー」と呼ばれる地元新興勢が次々に台頭し、狙い通りに中国攻略を果たせるかは不透明だ。

米テスラが14日、初披露した新型SUV「モデルY」。中国市場での拡販を狙った戦略車となる=AP

米テスラが14日、初披露した新型SUV「モデルY」。中国市場での拡販を狙った戦略車となる=AP

現行のラインアップで4車種目となるモデルYは、部品の約75%を小型セダン「モデル3」と共通化した。価格は3万9000ドル(約430万円)からに抑えて、既存の高級SUV「モデルX」の約半分とした。

「中国市場向けの手ごろな価格のモデル3とモデルYを生産する上で非常に重要な拠点になる」。米ロサンゼルスで開いた発表会で、イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)はこう強調した。マスク氏の背後のスクリーンに映っていたのは年内にも稼働予定の上海新工場(当初は年産約25万台)の完成予想図だ。

モデルYは、20年に米カリフォルニア州の工場で生産を始めるほか、上海の新工場でも量産を始める。同工場は、中国政府が外資の自動車メーカーに単独資本での工場建設を認めた初めてのケース。マスク氏は1月の着工式後、李克強(リー・クォーチャン)首相と会談し感謝の意を示した。

米中貿易摩擦の緊張が解けない中、マスク氏があえて中国政府との蜜月ぶりを演出したのは、テスラにとり中国市場の攻略が欠かせないためだ。

18年、中国ではEVなどの「新エネルギー車(NEV)」の販売が62%増の125万台となった。同年の新車販売が2808万台で28年ぶりの前年割れとなるなかでも伸びは顕著だ。さらにEV販売を促進するため、中国政府は今年からメーカー各社に、生産・輸入車のうち1割程度をNEVにすることを義務化し、今後さらにEVの販売増が期待されている。

一方、テスラの18年の中国販売は約2万台で、世界販売(約24万台)の1割弱。米国での売上高が約7割を占める米国依存から脱却し、世界最大市場の中国でいかに販売を伸ばせるかがテスラにとっては大きな課題だ。

現状は、米国から中国へEVを全量輸出しており、中国メーカーに比べ関税や生産コストの面で不利。さらに米中貿易摩擦の影響で米国からの輸入車に追加関税が課されたこともあり、テスラの18年の中国売上高は17年比で13%減少した。

その状況を一気に変えようともくろむのがモデルYの投入だ。中国で人気の小型SUVで、現地生産も始めてテコ入れする考えだが、中国では台頭する新興EV勢との競争が待ち受ける。

筆頭は「中国版テスラ」と呼ばれる上海蔚来汽車(NIO、ニオ)。創業3年で新車販売にこぎつけ、18年9月に米ニューヨーク証券取引所に上場し勢いに乗る。独BMWの元幹部らが設立したバイトンは、19年中に南京市の工場で同社初の量産車となるSUVタイプのEVの生産を始める計画だ。中国と米国、欧州に開発拠点を構え、既に「約90の試作車を造ってきた」(車両開発責任者のデビッド・トゥーヒグ氏)と自信を見せる。

これら新興勢はいずれも、アリババ集団や騰訊控股(テンセント)、百度(バイドゥ)など中国ネット大手の資本の後ろ盾があり、技術開発面でも強い協力関係を築いているのが強みだ。自動運転などの開発、投資判断などのスピード感もテスラ以上との声もあがる。

テスラは中国での現地生産を始めるが、なおコスト競争力も課題だ。テスラ車のコスト構造を分析したスイス金融大手、UBSのコリン・ランガン氏はテスラの優位性について「主に安価な電池パックのデザインによるもので、時間とともに失われる」と指摘する。

米国でテスラ向けに多くのEV用電池を供給するパナソニックの幹部も「(中国で)テスラが描く成長曲線は急峻(きゅうしゅん)すぎる。(中国では)リスクを確認しながら次の投資を判断していく」と述べ、テスラの中国での積極姿勢とは一定の距離を置く。景気が低迷する中国に次なる成長の多くを託すタイミングにも危うさが漂う。

米テスラの中国傾斜には、ほかにも不安材料がある。1つは財務。米テスラの業績は2018年7~9月期から2四半期連続で黒字を達成した。ただ19年以降は廉価グレードの「モデル3」の量産が始まり、収益性は低下する見通し。中国新工場への初期投資20億ドル(約2220億円)は中国の金融機関からの借り入れで賄う方針だが、計画する生産拡大には20年までに100億ドル超もの資金調達が必要と指摘されている。

ただ、18年8月にツイッターで表明した株式非公開化計画をめぐってマスク氏を証券詐欺で提訴した米証券取引委員会(SEC)との対立が再燃している。SECはマスク氏が18年の訴訟の和解内容に違反したとして、同氏を法廷侮辱罪に問うよう求める訴訟を19年2月に起こしたばかり。証券当局とのトラブルを抱えた企業の資金調達を支援する金融機関は限られ、今後の資金繰りに影響する可能性がある。

もう1つが米政権の反応だ。業界では、米国での工場閉鎖や大幅な人員削減を決めた米ゼネラル・モーターズがこれまで批判の矢面に立っていたため、マスク氏とトランプ大統領との間では目立った対立はなかった。しかしテスラもここに来て米国で人員削減を進め始めた。中国への注力姿勢を鮮明にするなか、批判の矛先がテスラにも向かう状況が整い始め、予断を許さない。

(シリコンバレー=白石武志、千葉大史)

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