震災前の3倍 宮城で復興担う外国人(IN FOCUS)
「あなたたちの腕にかかっているからね」。宮城県産ブリの切り身を仕分けする生産ラインで朝礼の声が響き渡る。鋭いまなざしで聞くのはインドネシア人の技能実習生だ。
東日本大震災の津波被害を受けた宮城県塩釜市。しかし漁港や水産関連施設の損壊は限定的だったため、周辺地の生産も請け負う。震災翌年には食料品製造業の出荷額が以前の水準を超えた。一方、労働力不足は深刻で、外国人が穴を埋めている。
改正出入国管理法が4月から施行される。外国人の単純労働を認める「特定技能」の資格を新設し、許可された活動範囲内で転職も可能となる。受け入れる企業や日本という国が積極的に選ばれるためには喫緊の対策が必要だ。

「質の高い人材を毎年確保するのが大変」。同市に加工場を構える「ぜんぎょれん食品」では約90人いる従業員のうち2割が実習生。さらに増やすことも検討中だ。彼女たちはブリの三枚おろしも1分程度で手際よくこなす。
フィカ・スリスティヤニさん(21)は「日本人は協力して作業を早く終わらせる。勉強になります」とやりがいを感じている。貴重な戦力だが、20歳前後で多くが結婚などを理由に3年で国に戻る。
受け入れ拡大の陰で「失踪」は同県でも。ある企業では実習生が突然姿を消した。交流サイト(SNS)で高賃金をちらつかせ、別の職をあっせんするブローカーが暗躍。甘い言葉に誘われ、違法な仕事に従事させられることもあるという。失踪者を出した企業では、業務にゆとりを持たせ、より丁寧なコミュニケーションをとるなど腐心する。

宮城県内の外国人労働者は2018年に1万1千人を超え、震災前の約3倍。雇用する企業の評判は口コミで瞬く間に広がる。自社で生活全般をサポートするには限界もあり、地域社会で受け入れる態勢づくりが欠かせない。
塩釜市は18年度から外国人就労の担当職員を置いた。実態調査や交流を深めるイベントも開く。「単なる労働力とみるのではなく、互いの文化を理解して、隣人として迎え入れることが大切」(県国際化協会の大泉貴広氏)。ボランティアで日本語教室を開く安川一さんは、地域の行事に実習生を積極的に招いている。

ぜんぎょれん食品のフィカさんは、渡航を応援してくれた父を1月に亡くした。帰国も勧められたが、経済的な理由で塩釜にとどまる決意をした。「会社の先輩、実習生の後輩、日本語を教えてくれる先生も、みんな家族です」

(写真部 寺沢将幸、ドローン映像 浦田晃之介、震災当時の写真 塩釜市提供)