2019年3月20日(水)

大竹野正典、没後10年で連続上演 罪と日常描く劇再評価(もっと関西)
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関西
2019/3/15 11:30
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劇作家・演出家の大竹野正典の没後10年を記念した連続公演が始まった。来夏までに関西と東京の約10会場で20近くの公演を予定する。殺人などの犯罪に手を染める市井の人々に寄り添うような作品の数々。知る人ぞ知る存在だった演劇人の再評価が進んでいる。

くじら企画が再演した「海のホタル」(1月、大阪市のウイングフィールド、撮影=藍田マリン)

くじら企画が再演した「海のホタル」(1月、大阪市のウイングフィールド、撮影=藍田マリン)

■実際の事件題材

1月に先陣を切ったのが大阪市中央区のウイングフィールド。大竹野が主宰した劇団、くじら企画が2005年に初演した「海のホタル」を上演した。客席は連日満員の熱気で満ちた。

夫と関係がこじれた一人の女。別のきな臭い男に引かれるうち、浮気やギャンブル、借金などに絡め取られ、いつの間にか惨劇を招いてしまう。愛人と共謀した女が家族を殺害した実際の事件を題材にした。

警察で取り調べを受けるラストシーン。それまで質問に黙り込んでいた女が、おもむろに殺害の様子を語り出す。

執拗に犯行を迫る男からの催促に疲れ、心を鬼にして殺害したこと。手をかけた息子が最期、うっすらと目を開け「お母さん」と力のない声を漏らしたこと。真に迫る独白で詳細な殺人の描写が延々続き、息詰まるほどの緊張感が劇場に張り詰めた。

おぞましい事件が詩的なイメージや滑稽でコミカルな場面も交え、平凡な日常と地続きなものとして描かれる。実際の事件・犯罪を題材に、犯罪に手を染めていく市井の人々に寄り添う作品を多く残した大竹野らしい味わいがある。

12年から東京を拠点に大竹野作品の上演を続けてきた演劇プロデューサー綿貫凜は「(犯罪者を)断罪も擁護もしない独特の距離感で描ける作家は他にいない。現在の観客の目にも新鮮に映っているのではないか」と話す。

綿貫はこれまで大竹野の作品を12本上演。その存在を東京の演劇界に知らしめた。18年2月に上演した看護師4人による保険金殺人が題材の「夜、ナク、鳥」(瀬戸山美咲・演出)は読売演劇大賞の優秀作品賞などを受賞した。

今回の企画でも綿貫プロデュースで関連4作品を東西で上演する。関西では遺作「山の声」を初演時のキャスト、演出で再演。気鋭の劇作家・演出家の瀬戸山が「山の声」を出発点に大竹野の生きざまを描いた「埒(らち)もなく汚れなく」とともに、兵庫県伊丹市のアイホールで5月に上演される。

■幅広い劇団参加

突然の死から10年。描き続けた市井の人々は非正規雇用や貧困が一段と日常化した社会を生きており、その作品世界は古びるどころか、リアリティーを増しているようにも感じられる。

記念公演には幅広い劇団が参加する。同時代に並走した桃園会や虚空旅団、そして大竹野と同じく実在の事件をモチーフとする作品を手がける遊劇舞台二月病。大竹野の息子と同級生という阪本知によるプロデュース公演もある。若い世代の観客も含め、多くの人にその魅力が再発見される機会になりそうだ。

(大阪・文化担当 佐藤洋輔)

大竹野正典

大竹野正典

大阪中心に活動 兼業で演劇継続
 大竹野は不慮の事故により48歳で亡くなった。死後に刊行された戯曲集の刊行委員長を務めた編集者、小堀純は大竹野作品の魅力を「罪を犯した人の感情・感性にまで踏み込み、肉薄して描く造形力」とみる。
 大竹野は1983年の劇団「犬の事ム所」旗揚げ公演から、一貫して出身地である大阪の小規模な劇場を中心に活動した。2003年の「夜、ナク、鳥」が岸田國士戯曲賞の最終選考に残るなど一定の評価は受けたが、一般に広く知られる存在ではなかった。
 専業の作家ではなく、コンクリート技師として働きながら演劇活動を続けた。演劇の世界に閉じこもらず「仕事や日々の生活を通じて得た視点が、市井の人物を造形する細部を支えていた」(小堀)。
 死後にOMS戯曲賞大賞を受賞した「山の声」では仕事の傍ら演劇に取り組む自身の姿を孤高のサラリーマン登山家、加藤文太郎に投影するように描いた。結果的に遺作となった同作は、大竹野の代名詞とも言える犯罪ものから離れ「(大竹野という作家の)新たな世界を予感させる作品」(同)だった。

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