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アルジェリア大統領、5期目出馬断念表明

民衆の怒り体制揺さぶる 「アラブの春」9年目の余波

【カイロ=飛田雅則】北アフリカの資源国アルジェリアのブーテフリカ大統領(82)は11日、声明を発表し4月に予定していた大統領選への出馬を断念すると表明した。高齢で執務能力に疑問が向けられているのにもかかわらず5期目をめざすとした大統領の意向に対し、市民らによる抗議のデモが2月以降、首都アルジェなどで広がっていた。2011年の民主化運動「アラブの春」以降、石油収入を元手に国民の不満を抑え込む強権支配の限界が露呈した。

20年近く大統領の座にあったブーテフリカ氏の出馬撤回が伝わると、多くの市民が街に繰り出し国旗を振り歓喜の声をあげた。4月の選挙は延期が決まった。2月以降、数十万人以上が同氏の退陣を求めるデモを続け、治安当局に多数が拘束される事態となっていた。ロイター通信は「抗議が成果をあげた。5期目を阻むことができた」と市民の声を伝えた。

ブーテフリカ氏は1962年に独立を勝ち取った旧宗主国のフランスとの独立闘争に参加した。アルジェリアではその後、91年の総選挙でイスラム原理主義勢力が大勝。これに危機感を覚えた軍が介入し、内戦で10万人以上が犠牲となった。軍の力を背景に内戦を終結させたブーテフリカ氏は99年から大統領として国を率いてきた。

2013年に脳卒中で倒れて以来、車いすでの生活で入退院を繰り返し、ほとんど公の場に姿をみせてこなかった。話すことが困難との情報もあり、職務継続を疑問視する向きも出ていた。

病身のブーテフリカ氏を支えたのは、古参政治家や軍高官、実業家からなる「プーボワール(権力)」と呼ばれる少数のエリート集団だ。その支配構造はきわめて不透明だ。今回の同氏の出馬取りやめの経緯も、選挙の延期決定の背景も一切明らかになっていない。

石油輸出国機構(OPEC)加盟国であるアルジェリアは、輸出総額の約9割を石油やガスの収入が占める。政権はその輸出収入を背景に政治や経済を牛耳ってきた。

11年にチュニジアやエジプトで長期独裁政権の崩壊をもたらした「アラブの春」が押し寄せた際、ブーテフリカ政権は財政のバラマキによって、市民の不満を抑え込むことに成功した。

一方で、アルジェリアにもイスラム過激派が伸長。13年の人質事件では同国軍が鎮圧したものの、日本人駐在員10人を含む多数が犠牲となった。

強権支配は一定の安定をもたらしたが、改革は停滞し産業の多角化は遅れた。経済は14年以降の石油価格の下落に対して脆弱さを露呈した。18年の財政赤字は国内総生産(GDP)の6%。外貨準備は13年と比べ50%強も減った。資源ブームで潤沢だった資金繰りは一気に厳しくなり、財政の大盤振る舞いで市民の不満を封じることがもはや難しくなっている。

失業率は10%程度だが、特に若者の失業率は25%超と高止まりする。

問題は「プーボワール」が既得権益を守るために体制の延命を続けた結果、ポスト・ブーテフリカ時代の準備がほとんどされていないことだ。権力闘争による混乱や、そのスキを突いたイスラム過激派の活動が活発になる事態が懸念される。

ブーテフリカ氏は内戦で混乱した国家の治安を回復し、安定をもたらした功績があるが、その後の長期にわたる停滞も招いた。権威主義的な独裁体制下の安定か、テロと戦争による混乱か。極端なふたつしか国民の選択肢がないかのような状況は、多くのアラブ諸国に共通する。

アラブの資源国は、豊富な財政によって政府が教育や福祉など人々の面倒をみる一方、国民の政治参加や言論の自由が大きく制限されてきた。強権支配によるみせかけの安定には、もろさがある。アルジェリアの混乱はアラブ世界に共通する課題を映している。

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