2019年8月23日(金)

簡素な美 格調高く 滋賀県庁舎本館
時の回廊

関西タイムライン
2019/3/13 11:30
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滋賀の県政運営の拠点となる県庁舎本館(大津市)。鉄筋コンクリート造り4階建てで、1939年(昭和14年)5月に竣工した。正面中央に塔屋がそびえ、左右に翼部を伸ばすその姿はモダンだ。80年を迎える今も、現役の庁舎として県民に親しまれている。

1939年に竣工した滋賀県庁舎本館。滋賀県を代表する近代建築の一つとされる

1939年に竣工した滋賀県庁舎本館。滋賀県を代表する近代建築の一つとされる

■居住性を優先

設計は日比谷公会堂(東京・千代田)などを手がけた佐藤功一と建築装飾を得意とする国枝博の2人が担当した。石田潤一郎京都工芸繊維大学名誉教授(近代建築史)は「早稲田大学教授などを務めた佐藤と民間で鍛えられた国枝の2人の知恵が合作した近代の自治体庁舎の総決算ともいえる」と評価する。2014年には国の登録有形文化財に指定された。

特に石田名誉教授が注目するのは佐藤の古いものを守りつつ、自分なりの新しさを試みた点だ。

例えば窓。滋賀県庁舎よりも古い県庁舎などでは「顔」となる正面部分の窓にはアーチをつけたり、枠に華麗な装飾がなされたりしている。それに対して滋賀県庁舎は枠の中にただはめられているだけ。石田名誉教授は「簡素化というか、すっきりさせるという点に現在に通じるセンスを感じさせる」と話す。

建物の形態もそうだ。中庭を囲み、口字形に左右対称性に整えているのは古めかしい。ただ廊下の配置は当時としては合理的な手法がとられている。通常なら、中庭に沿って廊下を設置する。だが西側のエリアは西日が当たることを考慮。あえて中庭に面して事務室を置き、廊下が外に取り巻くように設計した。

形の約束事より、機能性や居住性を優先させた感覚。石田名誉教授は「そこに佐藤のこだわりがあったのでは」と推測する。合理的な手法と格調の高さが調和してできた庁舎なのだ。

建物の内部に目を移すと重厚な外観とは対比するように繊細な意匠がこらされている。正面中央階段にはステンドグラスが施され、そこから柔らかな陽光が注ぐ。階段手摺(す)りの腰壁には滋賀の伝統工芸品、信楽焼のテラコッタのパネルがはめこめられるなど豪華さを演出している。

古い建物の雰囲気がある地下はテレビ番組の刑事ドラマなどのロケで使われることもある

古い建物の雰囲気がある地下はテレビ番組の刑事ドラマなどのロケで使われることもある

■謎めく構造も

県庁舎本館はミステリアスな一面を持つ。庁舎は南から北に下る斜面に建てられている。南にある新館の入り口は実は2階。1階と勘違いし、渡り廊下を伝わり、北側の本館に行く。そこは2階だが、1階と間違う人も多い。県職員でも新人の頃は階数がわからなくなり、迷子になることもあるという。

本館1階西玄関にあるトイレも興味深い。ここには男性用のみで、申し訳なさそうに小便器が2つあるだけ。庁舎を管理する総務課の担当者も「なぜこうなったのか、誰もわかる人がいない」と首をひねる。

謎の地下通路もある。かつて本館の地下にはクリーニング屋や喫茶店、紳士服店があった。今はすべてシャッターが閉まり、少し不気味な雰囲気を醸し出している。庁舎を訪れた際、内部の細かい意匠とともに、こうした不思議なものを探索するのも面白い。

最近では外観の重厚さからテレビドラマのロケで使われることも多い。ある県職員は「滋賀県庁ではなく、京都周辺の建物として放送されている」と不満げだが、滋賀のPRに貢献していることは確か。滋賀を代表する近代建築物は、今なお現役の庁舎として意気軒高だ。

文 大津支局長 橋立敬生

写真 松浦弘昌

《交通・ガイド》大津駅から徒歩約5分。開庁時間は平日午前8時半~午後5時15分まで。60分、90分の県庁見学ツアー(無料)も開催されている。問い合わせは広報課県民の声係まで。2018年は2000人を超える参加があった。
 これからの季節は中庭にあるしだれ桜が見どころ。だれがどのような経緯で植えたかは不明という。

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