スイングは型ではなく感覚で身につけよう(1)
(日本経済新聞出版社「書斎のゴルフ VOL.41」から)
人気インストラクターのヨッシー小山さんに、「新宿インドアゴルフ」の代表でヘッドプロの長井薫さんを紹介いただいた。聞けば、長井プロは様々な練習器具を自ら開発して感覚重視のレッスンを行っていて、特にスイングに悩みを抱えている人にお薦めとのこと。しかも屋内で行うので冬季の練習にはうってつけだと思い、早速「新宿インドアゴルフ」をお訪ねした。
「新宿インドアゴルフ」はJR新宿駅(東京都新宿区)から徒歩10分、大通りから路地を入ったビルの1階にある。入るとすぐに鳥かごが2打席あり周囲の壁には所狭しと練習器具が並ぶ。ゴルフ好きにはたまらない雰囲気だ。奥から長井プロが出迎えてくれた。ニコニコととてもフレンドリーな第一印象。レッスンの合間を縫っての取材なので、あいさつもそこそこに本題に入った。

――早速ですが、長井プロは感覚重視のメソッドでレッスンを行っているそうですが、感覚重視メソッドの由来というか、経緯についてお聞かせください。
長井 私が感覚重視メソッドを開発したのは、このインドア練習場を開設したときのあるお客様の一言からでした。当時、私はこの練習場をオーナーの義兄から任されて支配人を務めていました。レッスンは外部のプロにお願いし、毎日プロが行うレッスンを眺めていました。そのプロは素晴らしい方で教え方も上手、スイング理論も確かなものでした。ところがある日、レッスンを終えた生徒さんが私のところにきて「いまのってどういう意味だかわかりますか?」と聞いてこられたのです。
――プロの話が難しかったのでしょうか。
長井 そうかもしれません。気になった私はレッスンを終えたほかの生徒さん全員にヒアリングしてみました。
――お客さまの声に耳を傾けたわけですね。
長井 悪い予感は的中して、ほとんどの生徒さんがプロの言っていることがわからないか、もしくは勘違いをしていました。レッスンプロの言っていることやゴルフ理論は間違いありません。むしろ素晴らしいものでした。でも生徒さんには伝わっていなかった。そういった経験から私は指導者と生徒さんのギャップを痛感しました。
――そのまま放置すればインドアゴルフの存続も危うくなります。支配人としてはどうなされたのですか。
長井 何とかそのギャップを埋める手立てはないものかと、ほかのレッスンスクールを見学したり様々な教本を読みあさったりしましたが、その答えはどこにもありませんでした。どうやったら生徒さんにうまく伝えられるのか。埋まらないギャップにもんもんとした毎日でした。そんなある日、私に衝撃を与えたある出来事が起こりました。
――感覚重視メソッドが誕生するきっかけになった出来事ですね。
長井 はい。それは初めて子供に自転車を買ってあげたときでした。購入した自転車屋さんが自転車の乗り方を教えてくれるというのです。どのように教えるのか興味津々でした。とりあえず補助輪を付けて、子供が慣れてきたら補助輪を外し、後ろで支えてあげて練習させると思っていたら、自転車屋さんの練習方法はまったく違っていたのです。「お父さん、補助輪とペダルを外してサドルを目いっぱい下げてください」というのです。そして自転車を子供に渡し自由に遊ばせるわけです。そうすると子供は喜んで自転車にまたがりながら、まず足で歩くように自転車を進め、次に両足で地面を蹴って自転車を進ませるようになった。そこまで子供は何も教わっていません。そうこうしていたら自転車屋さんは、バランスがとれるようになったのを見計らって自転車にペダルを付けました。そして1時間もしないうちに1人で自転車に乗れるようになったのです。自転車屋さんが教えたのはペダルの最初の一こぎだけでした。
――目からウロコが落ちるというものですね。私も子供に自転車を教えたときは補助輪を付けました。結構長い間、補助輪を外せなかったという覚えがあります。
長井 自転車屋さんにお聞きすると、自転車に乗れる最大のコツは、自転車が倒れないように左右のバランスをとれるようになることだそうです。補助輪を付けたり、後ろで支えたりすると自分でバランスを取る感覚が養われなくて自転車になかなか乗れるようにならないと。私はハッとしました。自転車の練習で補助輪を付けるということは、ゴルフの練習でいうところの「型を教える」ことではないか。ゴルフ上達の近道と思えるこの練習方法が、実は上達を妨げているのではないか、と考え始めたわけです。
――確かに、テークバックはここに上げて、ダウンスイングはこうして下ろして、フィニッシュはこういう形でと、レッスンでは「型を教える」のが普通ですね。
長井 そうですよね。しかし、それがいけないわけです。そこで私はインドアの練習でも生徒さんに伝わりやすいメソッドを開発することにし、自らコーチになることを決心しました。内容も教えるというより、生徒さん自らが感覚を養えるようなメニュー開発を心掛けました。
――それが長井プロが編み出した感覚重視のメソッドというわけですね。
考えるな、感じよう!
長井 そうです。「型を教える」のではなく「感覚を養う」ことを目的としたレッスンです。「考えるな! 感じろ」はブルース・リーが映画「燃えよドラゴン」で拳法の極意を教えるときに用いた有名なセリフです。ゴルフも型を考えながらスイングするのではなく、気持ちよく振れる感覚でスイングしたほうがうまくできるのです。
――型を再現するのではなく、感覚を再現するのですね。よく、「左脳のゴルフ、右脳のゴルフ」という表現をしますが、左脳は論理脳、右脳は感覚脳だとすると「右脳のゴルフ」を目指すわけですね。
長井 その通りです。ラウンドでショットを打つときに「アドレスに入る前に考え、アドレスに入ったら何も考えるな」と言います。型からスイングを覚えるとアドレスに入ってからも、バックスイングはこう引いて、トップの位置はここで、ダウンスイング、フォローはこうしてと、どうしても左脳が働いてしまいます。ところが、感覚で覚えると右脳を使ってスイングができるようになるのです。
――人間は歩いたり走ったりするときは、右脳のプログラムに従って体を動かすそうです。右足を前に出したら右足に体重を移動させて、次に左足を前に出し、と考えながら歩くことはしません。
長井 赤ちゃんが歩けるようになるのも、子供が自転車に乗れるようになったのも理論や型を覚えたからではなく、感覚で覚えたからです。私はゴルフも同じだと考えました。スイングを感覚で覚えてもらう。そのために様々な練習器具やメソッドを開発しました。きょうは感覚重視メソッドの中核的な部分である「軸づくり」と「力の出し方」について、感覚重視メソッドを体験していただこうと思います。
(次回掲載は3月17日付予定、文:並木繁、協力:新宿インドアゴルフ)