さよなら表計算、貿易事務をクラウドで ゼンポート
アパレルや雑貨などの輸入業者が海外から仕入れる際、注文の品がまとめて日本の倉庫まで届くわけではない。別のコンテナ、違う船、到着日は別々。表計算ソフトで複数のシートを使い分ける煩雑な事務作業をなくすため、立ち上がったのがZenport(ゼンポート、東京・港)だ。一括管理ソフトをクラウドで提供し、貿易革命を仕掛ける。

「表計算ソフトとの格闘になってしまっている」。加世田敏宏最高経営責任者(CEO、30)は、貿易事務の現状をこう表現する。荷動きをパッケージごとに追わなくてはならない。取引案件ごとに別の社員が携わり、納期など予定に変更が生じた時には、その都度、データを修正する必要がある。社員同士の引き継ぎ作業も膨大だ。
ゼンポートが開発したソフトでは、注文情報は一度入力すればよく、事務作業者が取引情報の作成、修正、共有を直感的にできる。これをクラウド上で行うSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)型のビジネスモデルで提供している。
例えば1000本のジーンズを海外から輸入するケース。1つのコンテナで運べる量が500本で、2つの船に分けて積むとすると、それぞれがどの船でいつ届くかを入力した札をパソコン画面上で2枚作る。一度札を作れば、発注と注文した商品、積んでいる船の情報がひも付けられ、見やすく表示される。
船の位置など情報を更新すれば、札の情報が書き換えられ、即座に全体に反映される。発注の担当者は注文ごと、営業社員は担当する商品ごとに、現在動いている取引の情報をまとめて見られるほか、外部の混載貨物事業社(フォワーダー)と情報を共有することで、船ごとに自社が注文したどの貨物が載っているかを確認できる。
2018年2月に社名と同名のサービスを正式に始めた。利用料金は個別対応だが、月額10万~30万円程度。約1年で、試験導入を含めて中小貿易事業者など約20社がゼンポートを利用する。
加世田氏がゼンポートを設立したのは15年。東京大学大学院でエネルギー工学を学んだ後、ITスタートアップで3カ月間だけ働き、起業に踏み切った。ブロックチェーン(分散型台帳)関連の知識を独学。当初は送金サービスやクイズアプリなどを手がけたが、迷走したという。
そんなとき、ある米スタートアップの活躍が目にとまった。企業から貿易・物流網の管理を受託し、データに基づき最適化する事業のフレックスポートだ。同社にヒントを得て、17年1月から貿易分野に注力し始めた。
「国内の中小貿易事業者は3万社。仮に月額10万円としても、貿易事務だけで年間360億円の市場がある」。ただ、そのとき会社には加世田氏1人しかいなかった。
仲間を集める必要性に加え、「世界から人が集まる受け皿を作りたい」という考えから、採用の募集要項を英語にした。東京で働く機会を探していた海外のエンジニアが集まり始め、社内は国際化した。

現在の陣容はインターンを含めて12人で、うち7人が外国人。香港や米国、フランスなど出身地も多様で、社内のミーティングは基本的に英語で行う。「日本の発想にとらわれずに開発でき、意見も率直にぶつけてくれる」(加世田氏)。
営業やマーケティング全般を担当する太田文行最高執行責任者(COO、45)が17年に加わったことは、会社の基盤を強固にした。太田氏は三菱商事で9年間、化学品などの海外営業を経験し、その後はボストン・コンサルティング・グループに移るなど、貿易の仕組みに精通する。
知恵袋の参加で「素人に何ができるのか」という外部の声も小さくなり、より顧客目線のサービス開発が加速し始めている。
18年11月からは、米グーグルが東京で実施した約3カ月のアクセラレーションプログラムに選ばれた。海外の起業家や投資家、グーグル社員などのメンターから「OKR」と呼ぶ目標管理手法をどう取り入れるかの助言を得た。
ゼンポートでは自社のマーケティング手法を把握し課題をあぶり出すことを目標に、取引先へのヒアリングにどれくらいの時間をかけているかなどを数値化して管理している。メンターからは「広く浅くではなく、個々の顧客を深く分析して戦略を立てるべきだ」と、具体的なアドバイスがもらえたという。
同プログラムでシリコンバレーやイスラエル訪問の機会も得た。事業展開を国内にとどめるつもりはなく、世界で使われる貿易事務のプラットフォームを目指す。取引データを基に、国境を越えた工場のマッチングや、中小貿易事業者への短期融資サービスなども検討。「夢の海域」はどんどん広がっている。
(企業報道部 山田遼太郎)
[日経産業新聞 2019年3月8日付]関連企業・業界