金正男氏殺害、起訴取り下げの背景に政治判断

2019/3/11 18:37
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【クアラルンプール=中野貴司】北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長の異母兄、金正男(キム・ジョンナム)氏がマレーシアの空港で殺害された事件で、殺人罪で被告となっていたインドネシア籍のシティ・アイシャ氏が11日、釈放された。同氏は同日中にインドネシアへ帰国した。

11日、釈放後にクアラルンプールのインドネシア大使館で記者会見するシティ・アイシャ元被告(左から3人目)ら=AP

マレーシア検察が突然、起訴を取り下げた背景には、インドネシア政府の強い要請があった。今後は同様に実行犯として起訴されているもう一人のベトナム籍の被告の扱いが焦点となる。

「アイシャ被告に対する起訴を取り下げることを決めた。3月11日に彼女は無罪放免され、インドネシアに帰国できるはずだ」。釈放が正式に決まる3日前の3月8日、マレーシアのトミー・トーマス司法長官は、インドネシアのヤソンナ・ラオリ法務・人権相にこう通知していた。

ラオリ氏はかねてトーマス氏に対し、アイシャ元被告が北朝鮮の情報機関の手先として利用されているという意識は全くないと強調してきた。ラオリ氏は「両国の良好な関係に鑑み、アイシャ被告への起訴を再考」するよう文書で求めていた。

一連のやりとりは釈放後、インドネシア側が明らかにした。

トーマス氏の約束通り、11日の公判冒頭で検察は起訴を取り下げ、ラオリ氏とアイシャ元被告は同日午後、クアラルンプールで記者会見した。

インドネシア政府は2017年2月に金正男氏殺害事件が起きてから、腕利きの弁護士をつけるなど自国民のアイシャ元被告を一貫して支援してきた。殺害計画を立案したとみられる北朝鮮籍の容疑者が逃亡する中で、アイシャ元被告の有罪が確定すれば、インドネシアの政権に対する世論の反発が強まると考えたためだ。マレーシア政府にも外交ルートを通じ早期解決を働きかけていた。

マレーシア政府は司法判断を見守る姿勢を示してきたが、事件から2年がたち、事件の衝撃が和らぎつつあると判断し、インドネシアの要請に応じる方針に転換した。北朝鮮籍の容疑者が逃亡し、真相解明が難しくなっている点も今回の決定に影響した可能性がある。

もう一人の被告、ベトナム籍のドアン・ティ・フォン被告の弁護士も11日の公判で、起訴取り下げを求め、検察が14日までに是非を決めることになった。弁護士は「フォン被告は不公平な扱いをされ、精神的に傷ついている」と訴え、早期の釈放を求めた。ベトナム政府も水面下で起訴取り下げの要求を強めるとみられ、マレーシア政府は新たな判断を迫られる。

事件の最大の焦点である北朝鮮の関与の詳細は依然、多くが謎に包まれている。実行犯の司法責任も政治決着で曖昧になれば、事件の風化が一段と進みそうだ。

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