2019年4月22日(月)

関西の包容力、創作の源 脚本家 大野裕之さん(もっと関西)
私のかんさい

もっと関西
コラム(地域)
関西
2019/3/12 11:30
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■ノーベル文学賞作家の川端康成が卒業した旧制中学校の流れをくむ大阪府立茨木高校で多感な10代を過ごした。「茨高」は生徒の自主性を重んじる校風だ。

 おおの・ひろゆき 1974年大阪府寝屋川市生まれ。京大大学院人間・環境学研究科後期博士課程所定単位取得。2015年、「チャップリンとヒトラー」でサントリー学芸賞受賞。脚本を手掛けた映画「葬式の名人」が元AKB48の前田敦子さん主演で今夏公開予定。

おおの・ひろゆき 1974年大阪府寝屋川市生まれ。京大大学院人間・環境学研究科後期博士課程所定単位取得。2015年、「チャップリンとヒトラー」でサントリー学芸賞受賞。脚本を手掛けた映画「葬式の名人」が元AKB48の前田敦子さん主演で今夏公開予定。

茨高を志望したのは憧れの作家、川端康成の出身校だから。茨高は体育祭で創作パフォーマンスを披露するのが伝統だ。生徒たちで内容を議論し、練習に励む。熱が入りすぎるため高校側は練習禁止期間を設けるほどだ。しかし、先生に見つからないように公園で「ヤミ練習」をするほど夢中になった。

部活動はいくつも掛け持ちした。陸上部で汗を流す傍ら、文学好きで入った文芸部では小説を書き、友人と同人誌を作った。文化祭などではギター部としてライブ演奏、写真部では作品展と忙しく、授業に出ないで部活に没頭することもあった。ある日、授業をサボり部室で作業をしていたところトイレで先生に遭遇してしまう。「そろそろ普通の生活に戻ったほうがいいぞ」と先生は諭すも決して頭ごなしに怒ることなく、温かく見守ってくれた。

■高校を卒業するも浪人生になる。しかし、予備校に通わず3カ月間、製缶工場でアルバイトをした。テレビで好きになったチャップリンやビートルズに憧れロンドンを旅したいと資金をつくった。

ロンドンでミュージカルを初めて見た時の衝撃が忘れられない。演目は「サンセット大通り」。往年の大女優と売れない脚本家の愛憎劇というドラマ性と音楽、踊りに魅了された。

帰国後、勉強を再開し、翌年、京都大学総合人間学部に入学する。大学での専攻は映画学。大学2回生の時に「劇団とっても便利」を旗揚げし、ミュージカルに没頭した。稽古が佳境になると講義に出られないことも。代わりにリポートの提出を求める教授はとがめることなく、「芝居見せてよ」と声を掛けてくれた。

大学院ではチャップリンを研究した。喜劇王の上演作品ではなく、焦点を当てたのは上映ボツのNGフィルムだ。研究を通じて、チャップリン家とも交流を重ね、希代の喜劇王の実像に迫った。研究家として、日本チャップリン協会の会長も務め、2015年には著作「チャップリンとヒトラー」でサントリー学芸賞を受賞した。

茨木高校時代、熱中した体育祭。左手前が大野氏

茨木高校時代、熱中した体育祭。左手前が大野氏

■初めて映画の脚本を手掛けたのは5年前、カナダの国際映画祭で最優秀作品賞に輝いた映画「太秦ライムライト」だ。

京都・太秦の撮影所が舞台で、主役は「仕出し」と呼ばれる大部屋俳優の「斬られ役」だ。東京のテレビ局に企画を売り込むが裏方が主役の内容のため通らなかった。しかし、京都発の映画作りに京都市や関西にゆかりがある企業が賛同し、支援を取り付けた。

昨年、茨高出身という縁から茨木市が企画した市制70年事業の映画制作で脚本を任された。今夏に公開予定で元AKB48の前田敦子さんがシングルマザーの役を演じる「葬式の名人」だ。映画の話がきた時、単なる町おこしなら断ろうと思った。映画は表現であって手段ではないからだ。しかし、市からはPR映画にする必要はないといわれた。

茨木市は川端康成ゆかりの地だ。川端は14歳までに祖父母、両親、姉を失った。絶望を乗り越えたから生まれる心の優しさを作品から感じる。映画は川端の短編「十六歳の日記」「師の棺を肩に」などをモチーフにし、コメディーだが「生」をテーマにした。

通夜の場面では茨高が登場し、商店街なども映し出される。茨木市には有名な観光名所があるわけではない。しかし、特徴がない故に誰もが親しめる良さがある。そんな包容力のある茨木市は私にとって第二のふるさとだ。

多感な青春時代を過ごした高校や大学の先生のように関西には私のような変わり者を放っておきつつ、温かく見守ってくれる土壌があるように思う。だから今の自分があると感じている。

(聞き手は大阪写真部 小川望)

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