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東京の夢はプノンペンで見る

カンボジアの首都プノンペン。カンボジア証券取引所(CSX)はその中心地106通り沿いにある。

現在、カンボジア証券取引所に上場する企業は5社。第1号は2012年4月18日のプノンペン上水道公社(PPWSA)で、その後も1~2年に1社の割合でカンボジアの優良大手企業の上場が続いてきた。

ところが6社目の上場企業は日本の系列会社になる可能性がでてきた。クリード――。2009年1月、負債総額650億円を抱えて東京地裁に会社更生法の適用を申請、上場廃止となった日本の不動産会社だ。

クリードの経営がつまずいたのは08年のリーマン・ショックだった。日本の金融機関が不動産向けの資金供給を一気に絞り込み、社名にカタカナを冠した新興デベロッパーが次々と倒産していった。クリードもまたそのあおりを受けた。「実際はまだまだやれることがあったが……」。社長の宗吉敏彦はそう思うが、かといって無念さはない。

あれから約10年。クリードは東南アジアを舞台に再び不動産ビジネスを再開した。カンボジアでも現在3つの巨大プロジェクトが進み、立ち上げたSPC(特定目的会社)も5つになった。そのSPCを1つにまとめ事業会社としCSXに上場する計画だ。手続きが円滑に進めば1~2年以内に日本から4千キロメートル以上、離れたカンボジアでクリードの名前が表舞台に再登場する。

「日本の不動産市場の成長余地は、もうあまり残されていない。それよりもアジア。アジアが面白い」――。クリード社長の宗吉敏彦。11年にシンガポールに居住場所を移し、今は1年のうち、ほとんどの時間をアジアで過ごす。「自分が輝ける場所はアジアだ」。カンボジアでの上場がうまくいけば、それを1つ証明したことになる。

カンボジアに期待を寄せるのは宗吉だけではない。日本の投資マネーも同じだ。カンボジア証券取引所によると2018年上半期(1~6月期)の外国人による株取引のトップは日本人。外国人の取引の3割以上が日本人だった。「カンボジアが成長市場」との認識は日本でも次第に浸透しつつある。日系企業であるクリードがCSX上場ともなれば日本からの投資マネーの有力な受け皿となる可能性は高い。

平たんだったわけではない。宗吉は2010年代に入るとすぐにカンボジアでのビジネスに着手したが、最初は失敗に次ぐ失敗だった。「カンボジアの市場を完全に見誤っていた」。

宗吉は13年にプノンペン国際空港に近接する場所で2万3000平方メートルの広大な土地の取得を開始、高級マンションの分譲事業に進出した。6棟の住居棟を建設、全部で1000戸のマンションを分譲する予定だった。

価格は1戸あたり1000万~2500万円。大卒の初任給が月200~250ドル(2万2000~2万7000円)のカンボジアにあって、かなり強気な値付けだったが、毎年7%程度で成長していく経済の成長力を見ていると「問題ない。大丈夫だ」。そう判断した。

確かに最初の半年は面白いように売れた。しかし、それは半年だけだった。成長する市場に目をつけたのは宗吉だけではなかった。中国系デベロッパーが相次ぎ参入、市場は瞬く間に飽和状態となった。

当然だった。カンボジアは経済が好調だとはいってもその規模は極めて小さい。国内総生産(GDP)はベトナムの200分の1以下。高級マンションを買える人々の層はまだまだ薄かった。

それに加えてカンボジアはドル経済圏。スーパーマーケットに行けば自国通貨のリエルと一緒にドルでも価格が表示される。実質的には経済はドルで回りその分、海外で蓄積していたドルをそのままカンボジアに持ち込み、不動産投資に振り向けやすかった。

こうなると万事休す。いったんは売ったマンションの契約が次々と白紙に戻されていった。積み上がった契約変更の書類の山を見つめながら宗吉は痛感した。

「この国に高級マンションはまだ早かった」

=敬称略

(前野雅弥)

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