2019年8月24日(土)

磨き極限 切れ味長く AMCの超硬合金を使ったカッター(もっと関西)
ここに技あり

関西タイムライン
2019/3/11 11:30
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もう刃先を折る手間も要らない。頻繁に使っても1~2年は切れ味が全く変わらない長寿命カッターを、工業用刃物メーカーのAMC(大阪市)が開発した。劣化しにくい「超硬合金」を特殊な技術で刃先に接合したことで実現した。なかなか切れ味が落ちず、買い替え需要がないため、経営者と職人を兼ねる水野雅氏は「リピーターが増えないのが悩み」と苦笑いだ。

顕微鏡をのぞきながら鏡面に研磨する。超硬合金の刃先が輝く

顕微鏡をのぞきながら鏡面に研磨する。超硬合金の刃先が輝く

さびにくく、摩耗も少ない超硬合金は硬度が高く、刃物に加工するのが難しい。そこでステンレス鋼に超硬合金を厚さ0.6ミリで圧着した。この薄さなら磨けば刃に加工することが可能になる。

ただ、この手法は簡単にはできない。接着剤を使う一般的な金属の接着法では、すぐにはがれてしまう。水野氏はステンレス鋼の表面に超硬合金を接合する技術を開発。高温で溶かした超硬合金をステンレス鋼の表面に吹きつけ、高い圧力をかけながら接合する。表面に塗るというより、ステンレス鋼と超硬合金の一部を高温高圧で融合させると表現した方がふさわしい。2つの素材は一体化しており、指で触っても二層であると感じさせる凹凸はなかった。

刃物にするための研磨工程は2段階だ。1次研磨は外注するが、2次の最終研磨は切れ味を左右する最重要工程で、水野氏が手掛ける。

大阪市の本社内の一角にある作業場。水野氏が顕微鏡をのぞきながら、先端が回転する研磨工具を手で操作して刃先を磨く。切る時に生じる摩擦を極限まで少なくするため、刃先が鏡面のような輝きを放つまで磨き上げる。少しでも手元が狂えば刃が欠け、最終工程までに要した1カ月半が台無しになる。慎重さを要する職人技だ。

高頻度の使用で1カ月程度しか切れ味がもたないといわれる鉄やステンレス製の一般的なカッターに比べ、大幅な長寿命化を実現した。価格は柄付きで1万2960円(税込)。切れ味が悪くなれば別料金で再研磨も受け付ける。設計士やクラフト作家などからの引き合いが多いという。

大学卒業後から工業用刃物に関わる仕事に一貫して携わってきた水野氏は2003年にAMCを設立。長寿命カッターの開発は、取引先から「杉の丸太を薄くかつらむきにできる刃はないか」と相談されたのがきっかけだ。刃先の薄さと杉に含まれる水分でも腐食しない性質を両立させるため、超硬合金を接合する手法を開発。かつらむき用の刃に先駆けて、カッターへの応用で新技術は日の目を見た。

糸切りばさみなども商品化し、今後は包丁などラインアップを増やす計画だ。長寿命の刃の用途は、今後、じわりと広がっていきそうだ。

文 大阪経済部 下野裕太

写真 松浦弘昌

カメラマンひとこと 一通り話を聞くと、「では研ぎましょうか」と水野さん。"研ぐ"という言葉にグラインダーやブロック状の砥石を想像したが、手にしたのはペン型の工具だった。高速回転する先端の砥石を刃に沿ってゆっくり動かし研磨していく。顕微鏡をのぞきながらの緻密な作業だ。次第に輝きを放つ刃が最も光るアングルを探りシャッターを切った。

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