2019年7月23日(火)

「奈良のシカ 小型化」ホント?(もっと関西)
とことんサーチ 人慣れ、怖さより愛らしさ

関西タイムライン
コラム(地域)
2019/3/7 11:30
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複数の取材先から「最近の奈良のシカは昔より小さい」と聞いた。確かに子供の頃、遠足などで見たシカに比べ小さく、おとなしい気がする。異変が起きているのだろうか。

まず奈良県庁の奈良公園室に尋ねた。国の天然記念物の奈良のシカは野生動物で所有者はいない。歴史上、社寺が関わったこともあったが、近年は保護や管理、環境整備を主導するのは県だ。だが「データは取っていない」という。

一般財団法人奈良の鹿愛護会にデータが存在した。同会は人に危害を加えないよう角を切るため、毎年、夏から冬に300頭以上のオスジカを捕獲する。その際に計測した体重と全長の一部を集計してもらった。

■子ジカ出没多く

推定5歳のオスの平均は2018年が74キロと158.3センチ。集計可能な1999年以降、むしろ少し大きくなっているようだが、変動もある。事務局長の蘆村好高さんは「小型化というより、昔より人に慣れているように感じる。(警戒心が強いはずの)子ジカを見掛けることも多くなった」と教えてくれた。

県ビジターズビューロー専務理事の中西康博さんは、長年シカを巡る環境整備に尽力してきた。50年近く前、東大寺周辺で過ごした中高生の頃の脅威は春のメスジカ。子ジカが通りかかるやいなや、母ジカに体当たりされ、眼鏡が壊れたこともあった。

今は愛護会が産前産後の多くのシカを一時保護し、母子が落ち着いてから外に放す。気の立った母ジカとの遭遇は減っているようだ。「シカはペットではない。地元の子らは『怖い』と知っていた」と強調する。

「ケンカを『犬鹿』と書くほどシカは犬を恐れる」ともいうが、近年、犬連れの行楽客も珍しくない。小型化説の背景にはライフスタイルやシカへの意識の変化があるのかもしれない。

「昔のシカの角がある」と聞き、春日大社の国宝殿に向かった。神様が白鹿に乗ってやって来たという伝説から、奈良の町が千年以上「神鹿(しんろく)」を守る発端となった神社だ。

通常は非公開の「大鹿之角」。木箱を開けると巨大な角が現れた。「貴重品台帳」によると長さ2尺3寸5分。実際に測ると70センチ超といったところだが、根元の直径は7~8センチもあり、ずっしりと重い。

天正19年(1591年)に大神鹿が現れ、凶暴なオオカミとにらみ合い、オオカミが恐れをなして逃げ出した――。

箱の裏にはそうあるが、詳しいことは分からない。もちろん当時の平均的なシカではないようで、学芸員の松村和歌子さんは「大鹿はすでに伝説の一端だったのだろう」と話した。

■自然の餌減少か

ニホンジカの体格は地域差が大きく、奈良のシカはもともと小ぶりという。ただ気になるのは、広島の宮島のように頭数が増えすぎると餌が減り、小型化するという例だ。

現在、奈良のシカは1360頭で戦後で最も多い。北海道大学大学院の立澤史郎助教(保全生態学)は詳細な調査が必要とした上で「島での小型化は定説だが、奈良でもかなり限定されたエリアに生息する。草など自然の餌が減り、人への依存度が高まっている可能性はある」とみる。

保護施設「鹿苑(ろくえん)」で、ドングリを金網越しにやると、角の生えたオスがゆっくりと集まってきた。威嚇し合う角ジカはなかなかの迫力だ。県は鹿苑を再整備し、シカに関する教育啓発機能を充実させる方針。古都奈良の景観はりんとして美しいシカなしには成り立たない。正しく知り、正しく畏れる。自然との付き合い方を再確認する必要性を痛感した。

(奈良支局長 岡田直子)

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