大音量から耳を守れ ライブ専用の「耳栓」が広がる
生の歌や演奏を聴くライブの場で、あえて「耳栓」を装着して楽しむ流れが徐々に広がっている。大音量によって、耳がダメージを受けるのを防ぐためだ。背景には親子でのライブ参加が増えたことなどがある。アーティストグッズとして販売されるケースも増えている。

サカナクションは2018年10月から開催中の全国ツアーで、観客に「ライブ専用イヤープラグ」の貸し出しを実施している。この耳栓はアーティスト用のイヤーモニター(以下、イヤモニ)などを製作する「FitEar」が、音楽と聴覚保護の両立をめざす活動「SAFE LISTENING」の一環として提供。音楽のバランスを損なうことなく、15デシベル(dB)ほどボリュームを下げることができるライブ専用の耳栓だ。

「メンバーがFitEarのイヤモニを作った際、このライブ専用イヤープラグの存在を知ったことがきっかけ。来場者の聴覚保護につながることから導入に至りました」(サカナクションが所属するヒップランドミュージックコーポレーションの熊木勇人氏)
使用した来場者には「装着していてもちゃんと音楽を楽しめたと好評だった」(熊木氏)とのこと。今ツアーでは1公演あたり平均20人ほどの貸し出しがあるそうだ。なお、FitEarのイヤープラグは「LOUD PARK」や「SUMMER SONIC」といったロックフェスでの販売実績もある。
聴覚保護の動きが広がるのは、親子でのライブ参加が増えたことが1つの要因だ。18年7月にはASIAN KUNG‐FU GENERATIONの後藤正文が自身のブログで、最近はライブ会場で子どもの姿を見る機会が増えたこととともに、聴覚保護を呼びかけた。同時に、耳をカバーするヘッドフォン型のイヤーマフの着用を、入場時の確認事項に盛り込むことなどをアナウンスしている。また、ライブで親子限定の「ファミリー席」を設けることの多い倖田來未やももいろクローバーZなどの公演でも、数年前からイヤーマフの貸し出しを無料で行っている。
アーティスト自身が呼びかけ

最近は大人が使用できるライブ用の耳栓を、アーティストがオフィシャルグッズとしているケースも目立つ。銀座十字屋が扱うオランダ発祥のライブ用耳栓「THUNDERPLUGS」は、17年にHi‐STANDARDや打首獄門同好会、18年にはキュウソネコカミといったパンクロックバンドが採用。アーティストロゴなどを入れたグッズとして販売している。
同社ディリゲント事業部の多良間孝紀氏は「打首獄門同好会のメンバーは、もともとライブ中に耳栓を使って耳を保護していました。聴覚保護はまったく悪いことではないのですが、アーティストに対して申し訳ないと感じてしまう人もいる。アーティストが積極的に働きかけることで、抵抗を感じる人も減っていくのでは」と話す。
こうした聴覚保護の動きは、海外だとすでに一般的なものだ。アメリカ・ミネソタ州ではクラブ、バーなどでの耳栓の無料配布を義務づけており、ヨーロッパでは92dB以上の音が出るコンサート会場で耳栓の配布を推奨。他にも、出せる音量の上限を法律で定めている国もある。人気アーティストの問題提起により、日本でもこの流れは強まることになりそうだ。
(ライター 小沼理[かみゆ])
[日経エンタテインメント! 2019年2月号の記事を再構成]
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