世界経済、中国依存でいいのか(The Economist)

2019/3/6 2:00
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The Economist

2019年、世界経済は不吉な年明けを迎えた。市況は急激に悪化し、米政府の閉鎖は永遠に続きそうに思えた。だが、恐れていたほど悲惨な事態にはならなかった。米連邦政府は無事に活動を再開した。米中貿易交渉も妥結が近いようだ。成果は大きくはないかもしれないが、世界の2大経済国の緊張が緩和したことを示すものであり、歓迎すべきことだ。こうした動きに、市場はほほ笑んでいる様子だ。世界の株式を対象とするMSCI指数は、年初から10%上昇している。

だが、こうした好材料にもかかわらず、多くの経済指標は18年初めから驚くほど悪化している。エコノミストらは当時、裾野の広い景気拡大が起きているとして浮かれていた。国際通貨基金(IMF)は昨年1月に発表した世界経済見通しの中で、「10年以降で最も広い地域で同時に経済成長が加速した」と評価した。米中貿易交渉は期限が延期されてよかったが、経済面では悪いことが起きている。

■2015年の時も世界の景気は中国に救われた

世界の製造業の生産活動が鈍化している(左グラフを参照)。ドイツや日本など、貿易に依存している国は苦境にある。ユーロ圏の鉱工業生産はここ1年、下落を続けている。日本と韓国は1月、輸出額が減少したと発表した。世界貿易機関(WTO)の世界貿易予測指数もこの1年間低下し続け、2月には10年以降で最も低い水準に沈んだ。貿易への依存度が日独ほど高くない米経済への影響は比較的小さいが、それでも1月の鉱工業生産は縮小した。昨年活況を呈していたはずの世界の製造業は、なぜ早くも失速したのか。

悪化要因は、トランプ米大統領にあると言いたくなる。米国は確かにこの1年、中国への姿勢を強めてきた。製造業が減速に転じたのは、トランプ氏が昨年1月に洗濯機と太陽光パネルに追加関税を課した時期とほぼ重なる。3月には鉄鋼に、その後7、8、9月と中国からの様々な品目に追加関税を課し、米国の経済活動における中国のIT(情報技術)企業の関与も制限した。こうした中で製造業の減速は続いた。2大経済国が衝突すれば、世界の景況感が悪化するのは無理もない。

だが製造業の失速には、トランプ氏による貿易戦争以外の要因もある。今の製造業失速は、15年に始まった一連の経済混乱に酷似した点がある。当時も世界の製造業が勢いを失い始めていた。一因は、借り入れに依存して急成長していた米シェールオイルの開発バブルが崩壊したことにあった。だが、中国も各国の輸出業に大きな影響を与えていた。例えばドイツは、中国の生産財への旺盛な需要に大きく依存していた。

中国指導部は、08年の世界金融危機の際には巨額の財政を出動して世界経済を立ち直らせると、15年には中国の経済改革へと舵(かじ)を切った。まず09~14年にすさまじい勢いで拡大した債務の圧縮を図ろうとした。中国の金融市場の自由化にも取り組んだが、これは時期尚早だった。資本移動の規制を緩めるに従い、中国から資金が国外に流出し、株価は暴落した。中国の金融市場の混乱は海外にも波及し、世界のあちこちで景気後退の兆しが出てきた。

だが、世界経済悪化への流れは、すぐに食い止められた。中国は、資本規制緩和の方針を凍結し、再び景気刺激策を打ち始めたからだ。中国政府は金融緩和を進め、積極的な財政出動に乗り出した。中国の財政赤字は公式には15年と16年に少し拡大し、国内総生産(GDP)の4%弱に達した。だが、政府は主に地方政府レベルで、特別な事業体(編集注、融資平台)を活用して融資を拡大、様々なプロジェクトに巧みに資金を提供した。これらの融資は、公式には財政赤字に計上されないが、米投資銀行ゴールドマン・サックスの調査担当らの試算によると、こうした手法による融資を含めた中国の"広義"の財政赤字は、17年初めにはGDP比15%前後にまで拡大したという。この爆発的な融資拡大が景気てこ入れとなった。おかげで17年末には、世界各国は再び同時成長の軌道に乗った。

■中国の政策方針に翻弄される世界経済

先進各国は中国の景気をあてにしなくてすむ経済の確立が急務だ=AP

先進各国は中国の景気をあてにしなくてすむ経済の確立が急務だ=AP

何とか景気後退を回避したことから、中国指導部は再び悩ましい巨額の財政赤字問題に取り組み始めた。債務過多の企業への貸し出しを制限し、財政規律重視で知られるドイツでさえ驚くほどの緊縮財政に乗り出した。その結果、中国の財政赤字は17年初めからGDP比で6ポイントほど縮小した。だが、国内需要は当然、弱まった。

米シンクタンクの外交問題評議会のエコノミスト、ブラッド・セッツァー氏は最近、中国が国内で使用する製品の輸入は、「加工輸入」、つまり中国が生産して輸出するものに組み込まれる製品の輸入に比べ大きく減少していると指摘した。米国産製品の購入も、世界各国からの輸入も減少している。

つまり、最近の世界経済の浮き沈みは、米中貿易戦争も一因だが、中国が自国経済を改革しようとしたり、無秩序に急増した債務問題を解決しようとしたり、改革への取り組みを撤回したりすることからくる影響の方が大きいということだ。

■前例から学ぶことが求められている

世界経済はなぜ、こんなに中国の影響を受けなければならないのか。中国には厳しい資本規制があるため、金融面で世界各国と密にはつながっていない。また、米国のようにまだ世界の需要のけん引役になるほどの存在でもない。セッツァー氏によると、中国の国内消費のための工業製品輸入は、まだ米国の3分の1にすぎない(ただ、近年の中国による輸入増は、ドイツなど一部の国にとっては製造業の需要を押し上げる重要な要因となっている)。問題は、中国の成長鈍化による逆風がいかに厳しいかではなく、中国の成長鈍化に対して各国がきちんと踏ん張れるだけの備えをしていないことだ。

各国の金利は相変わらず著しく低い。もし世界の製造業の落ち込みがさらに悪化しても、米国はそうした事態に対応すべく金利を引き下げる余地がほとんどない。欧州と日本に至っては、その余地はゼロだ。理論的には財政政策がその穴埋めをすることは可能だ。先進各国は今、財政出動による公共投資を大いに必要としているが、ユーロ圏も米国も、財政出動をする気はなさそうだ。

こうした政策論争は、今回はさほど重要でないかもしれない。中国は景況感を改善させようと、この数週間、また刺激策を導入し始めているからだ。これで15年の時と同様、世界の製造業の成長鈍化もあっという間に復活するかもしれない。だがそうであれば、先進諸国は15年の時も今回も、中国共産党による財政政策のおかげで何とか景気を持たせているということになる。なぜ、こんなに中国に振り回される事態を放っておくのだろう。前も同じ事が起きたのに、なぜ学ばないのだろうか。(c)2019 The Economist Newspaper Limited. March 2, 2019 All rights reserved.

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