2019年5月19日(日)

ノーサイドの心、世界へ 元ラグビー日本代表 林敏之さん(もっと関西)
私のかんさい

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関西
2019/3/5 11:30
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■傑出した当たりの強さから「壊し屋」の異名で知られ、海外でも活躍した元ラグビー日本代表の林敏之さん(59)。古巣の神戸製鋼が2018年度のトップリーグで15季ぶりの優勝を果たし、喜びに浸るとともに選手時代の思い出がよみがえった。

はやし・としゆき 1960年徳島県生まれ。ポジションはフォワード。同志社大から進んだ神戸製鋼で全国社会人大会7連覇に貢献。英オックスフォード大に留学し、英国出身者以外で初めて同大の歴代ベストフィフティーンに選ばれた。

はやし・としゆき 1960年徳島県生まれ。ポジションはフォワード。同志社大から進んだ神戸製鋼で全国社会人大会7連覇に貢献。英オックスフォード大に留学し、英国出身者以外で初めて同大の歴代ベストフィフティーンに選ばれた。

サントリーとの決勝が行われた18年12月15日は、アジアの競技統括団体の創立50周年を祝うパーティーに出席するためタイにいた。昼食後にホテルで映像を見たが、ディフェンスが良くて攻撃も多彩。55-5の圧勝は素晴らしかった。

後輩たちの雄姿を見て選手時代を思い出した。1986年度から2シーズン、主将を務めたが、その間に指導者が教える体制から、主将を中心にチームを運営するやり方に変えた。私や平尾誠二、大八木淳史が日本代表に選ばれて色々な情報を得て、「我々の方がラグビーが分かっている」との思いに至ったからだ。

主将中心の練習に変えて気付いたことがある。コーチが指導していた頃はコーチへの反発が求心力になった。いざいなくなると、向かっていく先がない。何とかチームをまとめようとしたが、難しかった。

主将の座を平尾に譲って迎えた88年度、選手主体の運営が軌道に乗り、全国社会人大会で初優勝。表彰式で平尾に言われた。「林さん、表彰状をもらってきてよ」。主将時代に苦労した私へのねぎらいから出た言葉にじーんときた。

■今年、日本で開催されるワールドカップ(W杯)の第1回大会が開かれたのは87年。日本代表の主将を務めたのが林さんだった。

プロ契約の選手が多い今と違って、全員がアマチュアの時代。ラグビーと社業の両立が当たり前だった。私は海外プラントの資材調達を担当。購入できなければ現地の作業がストップすることもあり、責任の大きい仕事だった。

林さん(左端)は1990年、日本人で初めてオックスフォード大の一員としてケンブリッジ大との定期戦に出場=AP共同

林さん(左端)は1990年、日本人で初めてオックスフォード大の一員としてケンブリッジ大との定期戦に出場=AP共同

残業もあった中でチームで主将を務め、87年は日本代表の主将も重なった。第1回W杯は1次リーグでオーストラリア、イングランド、米国と戦い3戦全敗で敗退。初戦の米国戦が最も勝つ確率が高かったが、まだ特定の試合にピークを持っていく発想がなかった。そもそも短期間でテストマッチ(国のフル代表同士の試合)を3試合なんてやったことがなかった。ただ、主将の重責を担わせてもらったのは今でも誇りだ。

■現役引退後はトップチームの指導者ではなく、ラグビーを通じた教育の道を選んだ。

神戸製鋼の関連会社で企業向けの研修の講師などを務める傍ら、06年にNPO法人「ヒーローズ」を設立。競技普及のための「ラグビー寺子屋」や、全国の小学生チームが一堂に会する「ヒーローズカップ」という大会を開いてきた。今年2月23、24日にはW杯の決勝が行われる日産スタジアム(横浜市)でヒーローズカップを開催した。

何かに浸りきり、そこから感動が湧き上がったときに、飾らない、真実の人間の姿が現れる。ラグビーを通じて味わったそういう体験を子どもたちにもしてほしいと思い、ラグビーによる人間教育の道に進んだ。

■日本開催のW杯では日本の躍進以外にも期待することがある。

日本で親しまれている「ONE FOR ALL」という言葉は、海外ではあまり使われない。訳するなら「和」、自分のエゴを超えていくということになる。「私」を公共化し、皆の公共心を引き出す意味も込められている。その先にあるのがノーサイドだ。

何年か前のヒーローズカップで大阪と京都のチームが決勝で対戦し、手に汗握る熱戦の末に京都が僅差で勝った。終わると両チームのコーチ同士が泣きながら抱き合い、敵味方関係なく選手の頭をなでているのを見て、エゴを超える理想を見た思いがした。そういう「和」の世界はグローバルスタンダードをはるかに超える概念。今年のW杯は、誰とでも和していく日本の文化を世界に発信する機会でもあってほしい。

(聞き手は大阪・運動担当 合六謙二)

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