2019年9月17日(火)

「空のSUBARU」復権へ布石 ヘリ28年ぶり刷新

2019/2/28 15:38
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SUBARU(スバル)は28日、陸上自衛隊向け新多用途ヘリコプター(UH-X)の試作機を防衛省に納めたと発表した。「UH-1J」の後継機で刷新は28年ぶり。世界では「空飛ぶクルマ」の潮流がうねりに変わりつつある。ヘリ事業の強化は、変化への対応に向けた足場固めにもなる。中島飛行機を源流とするスバルは新たな「空」を切り開けるか。

スバルは新多用途ヘリコプターの試作機を防衛省に納入した(28日、宇都宮市)

スバルは新多用途ヘリコプターの試作機を防衛省に納入した(28日、宇都宮市)

アウディはエアバスやイタルデザインと組み、「空飛ぶクルマ」を10年内に実現する方針(写真は4分の1大の試作モデル)

スバルは小型電気飛行機を開発する米バイ・エアロスペースにCVCを通じて出資し、航空機の電動化の知見を吸収する(バイ・エアロが開発中の電気飛行機)

「防衛業界で初めて民間機と防衛省機の開発を並行し、国際共同開発にも取り組んだ。これからの防衛装備品開発の試金石となる」。宇都宮製作所(宇都宮市)で開いた納入式でスバルの中村知美社長は、UH-Xの意義をこう強調した。

スバルは2015年、現行の多用途ヘリUH-1Jの後継機の開発事業者に陸自から選ばれた。試験機を納入後、陸自が技術実用試験を始める。陸自の使用承認が下りれば、20年3月期中に宇都宮製作所で量産を始める計画。今後20年間で150機を納入予定で、保守サービスも提供する。

民間と防衛で技術を両用する「デュアルユース」に取り組んだのが特徴。ヘリ分野で半世紀以上のパートナーである米ベル・ヘリコプター・テキストロンと共同開発した「スバル・ベル412EPX」がUH-Xのベース機となる。この機体に耐弾性や耐衝撃座席など陸自の要求仕様を反映して開発した。

スバル航空宇宙カンパニープレジデントの戸塚正一郎常務執行役員は「防衛産業で生き残るには、数をたくさんつくり、コスト競争力を高める必要がある」と語る。スバルは412EPXで23年ぶりに民間ヘリ事業に再参入する。今後20年で民間分野でも150機以上の販売を狙う。デュアルユースで防衛事業の競争力を引き上げたい考え。

ヘリ事業の強化は、もうひとつ大きな意義がある。空飛ぶクルマが登場し、「空の移動革命」と言われる新たなモビリティー分野での競争が始まった。得意とするヘリは大型ドローンに技術を応用できる。陸自向けのヘリ供給は、空の移動革命に向けた事業基盤の強化につながる。

スバルは国が18年に立ち上げた「空の移動革命に向けた官民協議会」に参画し、将来の事業化に向けた布石を着々と打ち始めた。戸塚氏は「人や物を運ぶモビリティー分野では、自動車と航空機の親和性は高い。スバルはその両方を手掛けている」と指摘する。

自動車と空飛ぶクルマの中核技術は同じ方向性にある。無人機による自動運転や電動化、さらに多数の機体を効率良く運航するために必要な新たな管制システムなどだ。米ボーイングのグレッグ・ハイスロップ最高技術責任者(CTO)も「航空機と自動車は近づいてきた」と語り、「日本の自動車産業のプレーヤーたちとは連携を深めたい」と呼びかける。

スバルは無人航空機で自動制御技術を実用化し、技術を蓄積してきた。自動車分野では運転支援システムも手掛ける。世の中に普及させるにはこなれたコストで最先端技術を提供する必要があるが、それは自動車分野が得意とするところ。自動車と航空機を手掛ける世界でも希有なメーカーで、空飛ぶクルマの実現では優位な位置にいる。

外部の知見の獲得にも乗り出した。18年7月に立ち上げたプライベートファンド「スバル―SBIイノベーションファンド」を通じて、小型の電気飛行機を開発する米バイ・エアロスペースに出資した。空飛ぶクルマなど将来の航空機で最重要技術である電動化でノウハウを得る狙いだ。

ただ、空飛ぶクルマを巡る競争は厳しさを増している。独アウディと欧州エアバス、イタリアのイタルデザインは、空飛ぶクルマ「Pop・Up・Next」のプロジェクトを立ち上げた。自動運転機能を備える電気自動車(EV)とドローンを組み合わせる。18年11月には4分の1スケールの試作機を披露した。

空飛ぶタクシーの顧客ニーズを探るため、アウディはエアバス子会社のブームと協力し、南米での試験運用も始めている。例えば、顧客がサンパウロでヘリを予約すると、アウディが着陸地点からの移動手段を手配する。都市交通の新たな手段として空飛ぶタクシーの可能性を模索しているさなかだが、10年以内の実用化を狙っている。

スバルと資本業務提携するトヨタ自動車も「自動車をつくる会社」から「モビリティカンパニー」への大転換を宣言する。世界中の人々の「移動」にまつわるあらゆるサービスを提供する会社を目指して動き出した。

移動体の観点ではトヨタは自動車で「陸」、ボートで「海」を製品群に抱えるが、「空」への足がかりはない。スバルが空の領域で存在感を高めれば、トヨタとしてはシナジー(相乗効果)を期待できる。

スバルが05年にトヨタと資本業務提携して今年で14年となる。12年に共同開発のスポーツ車「トヨタ86(スバルBRZ)」を出して以降、目立った新たな協業案件はない。当時、豊田章男社長は「富士重(現スバル)はトヨタにとってかけがえのないパートナーであり、かついいクルマづくりでは最高のパートナー」とまで語っていたが、最近はスバルへの言及はほとんど聞かれない。

トヨタは自動車分野の協業では資本提携するマツダとの関係を深めている。マツダの「一括企画」や「モデルベース開発」といった低コストのクルマづくりを学び、EVを企画する共同出資会社ではマツダの開発手法を採用した。トヨタとの「倦怠(けんたい)期」を乗り越えるうえで、空の領域はスバルにとって格好の材料となりうる。

スバルの源流は「東洋一の航空機メーカー」と戦前に言われた中島飛行機だ。自動車事業への進出を支えたのは、戦後のGHQ(連合国軍総司令部)による航空機禁止令で行き場を失った航空技術者たちだった。「安心と愉しさ」をブランド価値に据えるスバルだが、吉永泰之会長は「スバルの安心のDNAは航空機にある」と語る。

連結売上高に占める航空宇宙の割合は今は4%にすぎない。だが、モビリティーカンパニーとしてスバルが飛躍するには、自動車だけでなく、「空のSUBARU」の価値向上も求められる。(星正道)

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