伊達公子「世界基準へハードコート普及を」 テニス
女子テニスの大坂なおみ(日清食品)が全豪オープンを制して1カ月。四大大会シングルス連覇と日本勢初の世界ランキング1位の偉業に祝賀ムードが続くなか、「日本の現状では世界で通用する選手を育てるのは難しい」と警鐘を鳴らすのが2017年に現役を引退した伊達公子さんだ。早大大学院の修士論文でも取り上げたコートの問題について聞いた。

――日本のテニス環境の何が問題なのか。
「コートが世界基準とかけ離れている。海外ではハードとレッドクレー(赤土)が主流だが、日本は砂入り人工芝のコートが相当数を占める。これが選手の成長を阻む一因になっている」
――人工芝にはどのような弊害があるか。
「ボールが失速し、弾まないのが最大の問題。強い球を打ったり、高く弾む球に対応したりという基本がおろそかになり、ゲームの組み立ても大きく変わる。日本にしかない砂入り人工芝での勝ち方を成長期に覚えてしまうと、その後、海外に出たときにテニスを変えるのが難しくなる」
「人工芝が普及したのは1980年代後半から。私は高校の最後にプレーしただけで海外に出たのであまり影響を受けなかったが、いまの子どもたちは人工芝に慣れていることにさえ気が付かない。世界のトップまでいくにはハードとレッドクレーでの練習環境が不可欠と結論づけている海外の論文もある。大坂選手や錦織圭選手も日本ではなく米国の環境で育ったのが現実だ」
――日本で砂入り人工芝の人気が根強い理由は。
「水はけが良く、多少の雨でも比較的安全にプレーを続けられるので、コートの経営者にとってはありがたいという事情がある。球足が遅いほうがいいというシニアのプレーヤーもいる」
「ハードは足腰の負担になるというイメージが強いが、最近の素材はクッション性も兼ね備えている。砂入り人工芝からハードに変えて稼働率を維持しているコートもあり、経営の打撃になるとは限らない。テニス愛好家には育成という観点から、ハードを積極的に受け入れてほしい」
――当面のテニスへのかかわり方は。
「誰かのコーチになってツアーを回るエネルギーがあるかというと、いまの人生のバランスの中では傾かない。日本から世界に近づける選手を増やすための環境整備に興味がある。コートの問題もそのひとつ。時間はかかるが、協力者を探して全国の自治体などに働きかけていきたい」(聞き手は吉野浩一郎)
▼テニスコート プロの大会では表面の素材(サーフェス)によってハード、クレー(土)、グラス(天然芝)に大別される。ハードはセメントやクッション材の上に特殊な塗料を塗ったもので世界で最も普及している。四大大会は全豪と全米がハード、全仏がクレー、ウィンブルドンがグラスを採用している。
サーフェスによって球足の速さやバウンドの高さなどが変わる。プレースタイルとの相性もあり、ラファエル・ナダル(スペイン)は「赤土の王者」と呼ばれ、ロジャー・フェデラー(スイス)は芝を最も得意とする。
テニスクラブを中心に日本で普及している砂入り人工芝は足腰への負担が少なく、水はけが良いのが特徴。特定メーカーの商品名から「オムニ」とも呼ばれる。