米共和党の移民政策の盲点(The Economist)

2019/2/27 2:00
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The Economist

フアン・ガルシア氏が1997年に米ノースカロライナ州ガストン郡政府の都市計画担当として働き始めた時、総勢1400人の職員のうち、彼が恐らく唯一のヒスパニック系だった。同州シャーロット市の西に位置するガストンは、かつては繊維産業で栄えたが当時は既に衰退しており、州内で最も勢いのあるシャーロット周辺に押し寄せる好景気から乗り遅れていた。

そのためノースカロライナ州に流入していたメキシコ移民は、総じて活気に欠ける同郡の主要都市ガストニアにはあまりいなかった。彼らは、シャーロット市で急増するビルの建設現場や、同市東部のユニオン郡で復活しつつある養鶏産業で多く働いていた。だが97年には、ガストンにも変化が訪れようとしていた。

米国の現在のヒスパニック系人口の増加は移民ではなく、自然増加によるものなので、メキシコとの国境に壁を建設してももはや意味はない=ロイター

米国の現在のヒスパニック系人口の増加は移民ではなく、自然増加によるものなので、メキシコとの国境に壁を建設してももはや意味はない=ロイター

ガストニアの古くなって働き手のいない工場を仕事を得る好機とみた移民が、トレーラーパークや貧しい黒人の居住区に流れ込み、住み着いた。そして数年でヒスパニック系人口は6000人、つまり全体の9%にまで急増した。これがガストニアの多数を占める白人住民とのあつれきを生んだとコロンビア生まれのガルシア氏は振り返る。「メキシコ人はアングロサクソン系に比べ、会話する時の相手との距離が近いし、庭で鶏を解体したり、大音量で音楽を流したりするから」

とはいえ白人住民は移民たちのつたない英語について愚痴を言う程度で、それ以上敵意を見せることはあまりなかった。これは、南部の白人と黒人の根深い対立を反映しているとの指摘もある。主な対立は白人と黒人の間に存在し、移民への怒りはたまに気をそらすものにすぎなかったという見方だ。

それでもテキサスから移り住むか、国境を越えてやって来る移民らは、好意的に迎えられるとは思っていなかった。「米国人と礼儀正しく接している限り大丈夫」と話すのは、25年前にタバコの葉摘みの仕事をするために移住し、今はガストニアのスーパーマーケット「ラス・アメリカス」で働くエルビーラ氏だ。

■6000万人に上る移民は成長を後押ししてきた

過去30年、時代に取り残されたガストニアやその他の何百という街に流入してきたヒスパニック系移民は、米国にいかに変化を与えてきたかを表している。今やヒスパニック系人口は60年代から9倍に増え、約6000万人に達する。多くは移民2世か3世で、全国に散らばり、行く先々で経済成長を促し、社会の在り方を変えてきた。

白人人口がまさに減少に転じようとしている現在、ほとんどの州には活気あふれるヒスパニック系移民のコミュニティーが存在する。ノースカロライナ州のヒスパニック系人口も90年は約4万人だったが、今は100万人近い。同州が90年代以降、大きく成長してこられたのは、移民の流入に負うところが大きい。

好例は、仕事の合間の30分間の休憩時間にラス・アメリカスに立ち寄ったフリアン氏だ。彼は朝5時45分から午後3時半まではガストニアに今も残る織機工場で機械工として働き、午後4時から11時まで包装工場でフォークリフトを操作している。このようにガストニアのヒスパニック系住民は、もはや黒人も白人もやりたがらない昔ながらの産業の低熟練の仕事を請け負ってきた。

ガストニアは南部に新たに出現したサービス業を主体とする経済から長く切り離されていたが、移民たちが立ち上げた造園や建設などの数多くの中小企業の存在も手伝って、サービス業中心の南部経済に仲間入りを果たせた。こうしたヒスパニック系コミュニティーの重要性に気づいたガストン郡は、今では100人以上のヒスパニック系公務員を雇用し、特に2カ国語を話せる医師や看護師、ソーシャルワーカーの採用に力を入れている。それは移民たちのニーズに応えるのも狙いだ。

■ヒスパニック系の増加は今や自然増が中心

メキシコとの国境が米国にとって危機だとするトランプ大統領の発言を考える際、こうした移民が米国にもたらしてきた変化を理解することが極めて重要だ。

トランプ氏は、国境の状況を心底懸念しているというより、白人支持層が今感じている「白人がマイノリティーになっていく」という人口構成の変化に対する不安に対応しようとしているようにみえる。違法な国境越えが大きく減り、移民の専門家のほとんどが必要ないとしているにもかかわらず、同氏が壁の建設にこだわっていることが、それを物語っている。

実際、トランプ氏が国境の壁を今ほど露骨に政治的な武器に使わなければ、今頃壁は完成していたかもしれない。同氏は昨年、包括的な移民制度改革を実施するのと引き換えに壁の建設費用の拠出を認める民主党からの提案を拒絶しているからだ。それは、今回の非常事態宣言で確保できる予算よりはるかに大きな金額だった。要するに、壁そのものは実際に何か効果を上げるものではない。つまり、壁は、トランプ氏が米国社会が白人中心から多様化していくことに恐怖を感じている白人支持層に対し、その多様化から守ってみせるという彼らの支持をつなぎとめるためのトランプ氏のスローガンを象徴するものでしかない。

だが、もはや手遅れだ。米国のヒスパニック系人口の増加は、大半が新たな移民ではなく、自然増加によるものだからだ。トランプ氏の移民排斥主義的な態度は、かつてのイングランドの王クヌートができるはずもないのに、押し寄せる満ち潮に向かって「引け」と命じるようなものだ。

■共和党は移民排斥してきたツケに直面する

トランプ氏の米国の人口の多様化を阻止しようとする姿勢は、大きな代償も招いている。最大の代償は、(米国社会の分断をあおり)移民の流入によって米国民が負ってきた傷を癒やす機会を逃してしまったことだ。トランプ支持者たちが感じている不安は、米政権が何十年も不法移民を放置してきたことからくる混乱で悪化してきた面があり、理解できる部分もある。

また、大半がヒスパニック系である約1100万人に上る不法移民が、厳しい環境でも米国民より一生懸命働くのも不思議ではない(編集注、いつ強制送還されるかも分からないため)。それが賃金にどう影響するか経済学者の見解は分かれるかもしれないが、理論的には既存の米国民には不利になる(編集注、賃金を押し下げられたり、仕事を失ったりする)ため、移民に反感を持つのは当然だろう。

一方で、不法移民は不安(強制送還など)を抱えて暮らしており、それが社会への同化の妨げとなり対立も生む。驚くことにラス・アメリカスの買い物客は、何年も米国に住んでいながら英語をほとんど、あるいは全く話さない。

こうした複雑な問題を解決するために、何をすべきかは何年も前から明白だ。米政府は、何百万人にも上る不法移民に在留資格を与え、それを米国民に納得してもらうべく国境警備をさらに強化すればいい。保守的な白人層の支持を握るトランプ氏なら、これをやろうと思えばできたはずだ。ただ、この移民を巡る長年の大混乱を自分の政治的な利益につなげようとするのではなく、解決しようと思わなければできない。

ただ、それでも共和党が得られる見返りは長続きはしない。中間層入りするヒスパニック系市民が増えているからだ。確かにヒスパニック系は大半が不法移民のため投票できないといった理由から、人口の増加に見合うほどの政治的影響力を手にしてこなかった。ノースカロライナ州も人口の10%を占めるが、登録有権者はわずか3%だ。

だが今、全米で多くのヒスパニック系市民が土地を所有し、中間層の仲間入りを果たしている。彼らは選挙へ行く層だ。彼らを排除すべくあらゆる手を講じてきた共和党にとって、これは災難以外の何物でもない。

(c)2019 The Economist Newspaper Limited. February 23, 2019 All rights reserved.

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