テックハブ、アルプスから世界へ(IN FOCUS)

IN FOCUS
2019/2/27 12:00
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くるっと回転。後ろ向きに階段に近づくと走行用ベルトが飛び出し、ゆっくりと階段を上り始めた――。

スイスの最大都市チューリヒ郊外。スタートアップ企業が集まるオフィスビルで目にしたのは、次世代の車いすだ。鮮やかな緑色のおしゃれな乗り物は従来の車いすのイメージを覆す。セグウェイのように二輪でバランスをとりながら機敏に動き回る。姿勢の制御は車いす任せで、階段をものともせず上り下り。

開発した「スケーボ」で階段を上るビンター氏。1台約400万円だが80台をすでに受注。年末の出荷を目指しテストを繰り返す(チューリヒ郊外)

開発した「スケーボ」で階段を上るビンター氏。1台約400万円だが80台をすでに受注。年末の出荷を目指しテストを繰り返す(チューリヒ郊外)

「障害者が楽しく使え、誇りを持てる製品を」。開発したのはスイス連邦工科大学(ETH)チューリヒ校発の企業「スケーボ」。25歳という若き共同創業者のビンター氏らが実用化に向け改良を重ね、年内にも出荷を始める計画だ。

今年5月、同校は障害者がロボット技術などを使い競う国際大会「サイバスロン」の車いす競技を川崎市で開く。第1回大会は2016年にスイスで開かれ、技術者と競技者の共演に会場は熱気の渦に包まれた。創設者のリーナー教授は「最先端技術は障害者の社会参加を後押しし、幸せにできる力がある」。

ロボットや生命科学の研究が盛んで、学内の起業支援機関「ieラボ」の手厚いサポートには驚く。斬新なアイデアを持つ学生に18カ月間、会社経営のノウハウを徹底的に指導し、15万スイスフラン(約1650万円)の研究開発費を補助。スケーボもこのラボから誕生した。

「ETHはテクノロジーの研究成果を社会に移転するのが使命」(ieラボの責任者ブレナー博士)。00年以降でチューリヒ校から生まれた企業は350以上にのぼり、その「ダイヤの原石」を米アップルなど大企業が買収した例も多い。

ETHチューリヒ校発の「ウィングトラ」が開発したドローン。垂直離陸、水平飛行ができる。採掘や建設現場などの測量調査が専門で、誤差は1センチメートル以下。一度に55キロの航続が可能で広範囲を自動撮影する

ETHチューリヒ校発の「ウィングトラ」が開発したドローン。垂直離陸、水平飛行ができる。採掘や建設現場などの測量調査が専門で、誤差は1センチメートル以下。一度に55キロの航続が可能で広範囲を自動撮影する

ETHチューリヒ校リハビリ工学研究所で開発された、脳卒中や脊髄損傷で後遺症を負った患者向けの外骨格。腕から電気信号を読み取り、指の動きを補助する

ETHチューリヒ校リハビリ工学研究所で開発された、脳卒中や脊髄損傷で後遺症を負った患者向けの外骨格。腕から電気信号を読み取り、指の動きを補助する

近年、注目を集めるドローンの研究でもスイスは最先端を走る。「ドローンバレー」――。ETHチューリヒ校を起点に西へ約200キロメートルの地域はこう呼ばれている。過去数年間で80社以上のドローン関連の企業が集積した。

代表企業が「ウィングトラ」だ。1.5メートルほどのサーフボードのような機体。一風変わったこのドローンは垂直に離陸し、飛行機のように水平に飛行できる。採掘や建設現場などの測量調査が専門で、誤差は1センチメートル以下と精度が高く、各国から注文が相次ぐ。

大学本部で懇談する研究者ら。120カ国・地域から2万人以上の学生が集まる

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高台にあるキャンパスは日没後もこうこうと明かりがともる。QS社が発表した「世界大学ランキング2019」では7位、非英語圏で唯一トップ10にランクされた

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人口840万人のスイスは天然資源が少なく、国土も狭いなど日本と共通点が多い。だが、1人当たり国内総生産(GDP)は日本の2倍以上。教育制度の充実や税制優遇を支えに、小さな国内市場だけでは生き残れない企業の視線は常に「世界」を向く。それこそがイノベーションを生む原動力になっている。

文 ジュネーブ支局 細川倫太郎 / 写真 柏原敬樹

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