2019年9月24日(火)

古民家20軒まるごと再生し集客 「篠山モデル」全国へ

2019/2/23 6:30
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NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

地域活性化のために観光客の呼び込みに知恵を絞る自治体や企業が増える中、スタートアップのNOTE(兵庫県篠山市)が手がける古民家再生事業に注目が集まっている。築数十年の家屋1軒を改装するのではなく、複数の古民家をまとめて改装し街全体を観光資源にする取り組みだ。「泊まる」のではなく「街に暮らす」体験が多くの観光客を引きつけている。

古民家を再生した宿泊施設「篠山城下町ホテルNIPPONIA」(兵庫県篠山市)

古民家を再生した宿泊施設「篠山城下町ホテルNIPPONIA」(兵庫県篠山市)

兵庫県の中東部に位置する篠山市。大阪駅から電車で1時間、さらにタクシーで15分乗り継ぐと約400年の歴史を持つ篠山城下町が現れる。古い街並みの中にあるレストランや雑貨屋は女性客でにぎわっている。山里料理「まえ川」の店主、前川友章さんは「交通の便が悪い所だが、ニッポニアの宿泊客が多く来てくれるようになった」と笑う。

ニッポニアとは、NOTEが手がける古民家再生施設のブランド名だ。奈良市や兵庫県養父市など関西7地域で展開。主力の篠山城下町では古民家約20軒をホテル、レストラン、パン屋、アンティークショップなどに再生した。地域内に7棟のホテルが分散し、受付と客室は最大2.2キロ離れている。宿泊客は自然と街をぶらつくことになり、その間に配置された店舗で買い物をしたり、地域住民と交流したり、といった仕掛けになっている。

地域に溶け込む体験が主に富裕層から支持を集め、ニッポニアの1泊当たりの客室単価は5万~7万円。大阪府から旅行で来た内村美紀さん(23)は「特別高いとは思わない。篠山城跡周辺の散策が楽しみ」と話す。一般的なホテルで採算に乗る稼働率は70%が目安とされるが、高単価のため客室稼働率が30%でも黒字が確保できる。

蔵を改装したホテルの客室

蔵を改装したホテルの客室

NOTEは一般社団法人ノオト(兵庫県篠山市)が開発した事業モデルを収益化するため2016年4月に設立した。社長の藤原岳史氏は篠山市出身で、創業間もないIT(情報技術)スタートアップを上場まで成長させた経験がある。「都市部以外でできる仕事としてITを選んだが、今後は古民家再生で地域に貢献したい」と話す。

資金力が少ないスタートアップが地域で複数の古民家再生をできるのは、自社で運営せずに専門業者に貸し出す事業モデルのため。賃料収入がNOTEの収益となる。古民家を賃借または買収して1軒当たり平均で3千万円を投じて改装。物件ごとに地元企業や専門業者に運営を委託する。藤原岳史社長は「地元に任せることで雇用と収益が生まれる」と地域活性化のメリットを強調する。

古民家を改装した雑貨店「ハクトヤ」(兵庫県篠山市)

古民家を改装した雑貨店「ハクトヤ」(兵庫県篠山市)

古民家のホテル転用は、建物ごとにフロントを設置して従業員の常駐を義務づけ、最低の客室数を定めた規制のため事業展開が難しかった。篠山城下町ではこうした規制を緩和する国家戦略特区の適用を受け、15年10月に分散型ホテルとしてニッポニアを開業した。その後、少しずつ客室棟や飲食店などを増やし、現在の形となった。

篠山はかつて兵庫県立兵庫農科大学(現神戸大農学部)の学生街として栄えたが、大学の移転で人口減少が進んでいた。地元の西町自治会長の今村俊明さんは「有名な観光地がなく、少子高齢化で寂れる一方だったが、古民家の活用でにぎわいが生まれ、移住者も増えている」と喜ぶ。

こうした篠山の取り組みは少子高齢化で悩む全国の地方自治体に知られるようになり、視察が後を絶たない。JR西日本は17年6月にNOTEに出資し、西日本の沿線での古民家再生に取り組み始めた。18年6月に旅館業法が改正。フロント設置や最低客室数の規制が撤廃され、NOTEは「篠山モデル」の全国展開を目指す。

19年10月には北海道函館市にニッポニアを開業する予定。かつて漁業関係者が使っていたレンガ倉庫や船小屋などの空き物件を転用する。合計20室程度のホテルとレストランの3軒から始めて、順次拡大していく。漁業で栄えた昔の函館の住民体験を追体験できるホテルとして集客する。

また、19年中には福岡県太宰府市や愛媛県大洲市、島根県出雲市、広島県竹原市などにも進出する計画だ。「全国から問い合わせを受け、現地調査の手が足りないくらい」と説明する藤原社長。外部への委託モデルとはいえ、従業員の確保といった多店舗展開の壁を乗り越えられるかが今後の課題となる。

日本政策投資銀行によると、1950年以前に建てられた古民家の国内の空き家数は13年時点で21万軒にのぼる。過疎化が進む地域にとって、NOTEの取り組みは地元活性策の答えの1つといえそうだ。

(大阪経済部 阿曽村雄太)

[日経産業新聞 2019年2月20日付]

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