2019年8月23日(金)

豊岡鞄 縫い目の直線美 マスミ鞄嚢の木枠を使ったかばん(もっと関西)
ここに技あり

関西タイムライン
2019/2/25 11:30
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ベニヤ板や木箱が積み上げられた作業場で、職人が手際よく木材を加工していく。まるで家具メーカーのようだが、創業100年超の老舗かばんメーカー、マスミ鞄嚢(ほうのう、兵庫県豊岡市)の製造工場だ。同社の主力製品は木枠を原型に使うかばん。業界では珍しく社内に「木工部」を持ち、木枠から自分たちで作っている。

植村賢仁社長は「かばんを原型から作る技術を継承でき、柔軟な発想が浮かべば即座に対応できる。他社にはない個性的なかばんが生み出せる」と話す。木材の組み立て、スリットと呼ばれる切れ目を入れる加工、削り調整など、木の特性を熟知する職人が手際よくこなす。

大型のミシンで木枠に革を縫い付ける

大型のミシンで木枠に革を縫い付ける

木枠が完成するとアルミ製フレームや合成皮革、イタリアやドイツ産の牛革を張り付けて商品にしていく。腕の見せどころは木枠と革などを縫う作業だ。熟練の職人の手にかかれば10分ほどで終わるが、やり直しは利かない。縫い目を一直線に、見た目を美しく。ミリ単位のズレが致命傷になる。よれないように丁寧に進める一方で、ミシンのスピードを落としすぎても不自然な縫い目になる。慎重さも思い切りも必要だ。

木枠の角に差し掛かると、木枠の方をうまく動かしながら縫い先の方向を変える必要もある。素材ごとに厚みも感触も異なり、年月をかけて手の感覚を養っていく。高価な牛革を扱えるようになるには5~10年の経験が必要で、同社でできるのは植村社長を含む3人だけだ。

70万~80万円の高級アタッシェケースも手掛け、毎年数万点の商品を大手かばん会社や百貨店に送り出す。その8割を占めるのが木枠を原型としたかばん。日本では専用ミシンを作るメーカーがないため、40年前に購入したドイツ製を大切に使い続けている。

豊岡のかばんづくりのルーツは、古事記にも記されている柳細工の技術にあると言われる。川などの荒地に自生するコリヤナギが豊富で籠を編む産業が生まれ、奈良の正倉院にも同地域の柳箱が保存されている。かばんの製造品出荷額は日本一。ただ、OEM(相手先ブランドによる生産)が中心で「豊岡」の名前が表に出ることは多くない。

産地として生き残るため、2006年には兵庫県鞄工業組合の審査に合格した製品のみが名乗れる地域ブランド「豊岡鞄(かばん)」を誕生させた。マスミ鞄嚢のようにネット通販で消費者に直接訴求する独自ブランドも増えている。同社は昨年7月、工場内に店舗を併設し、職人たちの働く様子を訪問客が見られるようにした。時代を読みながら挑戦し続ける姿勢は今も受け継がれている。

文 神戸支社 沖永翔也

写真 松浦弘昌

カメラマンひとこと 職人がミシンのスイッチを入れるとモーターがうなり始めた。大型の割に静かだなと思っていると次の瞬間、ダッ、ダッ、ダッと豪快な機械音がとどろいた。木枠に革を縫い付ける作業だ。やり直しが利かない一発勝負だが、職人の表情は変わることなく、手もとに迷いもない。真っすぐな視線の先に、見事な一直線の縫い目ができた。

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