荒れる海の最前線で 元特殊救難隊員、寺門嘉之さん

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2019/2/23 17:26
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人手不足に悩むのは民間企業ばかりではない。役所、とりわけ過酷な職場というイメージがある海上保安庁のような組織は、新人確保に常に頭を悩ませてきたが、1本の大ヒット映画が状況を変えた――。

海上保安庁のスペシャリスト集団「特殊救難隊」(特救隊)を描いた「海猿」。荒れ狂う海のなか救助に向かう姿が共感を呼び、公開後に海上保安学校の申込者が1千人近く増えたことも。続編が出るたび注目度は高まっていった。

名古屋海上保安部・警備救難課の寺門嘉之課長

名古屋海上保安部・警備救難課の寺門嘉之課長

実際の職場はどうなのか。特救隊に通算10年以上所属し、主演俳優らにボンベの使い方などを指導した名古屋海上保安部の警備救難課長、寺門嘉之さん(49)は「外してはいけない場面でマスクを外したことなど除けば、映画は現実に忠実」と笑顔を浮かべる。

海保の特救隊に志願した理由を聞くと、実は自身も映画がきっかけだ。「(米海軍のエリートたちを描いた)映画『トップガン』への憧れがあって……」。確かに、映画にも仲間の救援に向かうシーンや、ヘリによる救助が描かれている。

海保職員約1万3千人から特救隊に選ばれるのは36人という難関。ライフセービングに明け暮れた大学時代に培った体力や技術などが評価され入隊したが、実際の現場は想像を超えていた。

着任まもなく、エンジントラブルでいかだに避難していた船員10人の救援に向かった。荒波にいかだが上下に揺さぶられ、訓練をしていても難しい。ヘリ救助の難しさを痛感したが、充実感はこれまでにないものがあった。

記憶に残る現場を尋ねると、挙げたのは著名な事故ではなく、ほとんど報じられることのない沈没船の行方不明者の捜索だ。

ある現場で船長の遺体を見つけたとき、手が手すりにかかってなかなか動かなかったという。「『最後まで船とともにいる』という思いが残っているのだろうか」。亡くなった人の思いや職責を痛感した。

今は一線を離れ、2020年東京五輪・パラリンピックのテロ対策などに当たる。命の危険を冒しかねないのに、救助に向かうのはなぜかと改めて問うと、「人は本来、人のために何かをしたい気持ちはあるのでは。それを前面に出せる仕事だ」。映画のような決めぜりふだった。

(定方美緒)

現場で使用して色あせた特殊救難隊のワッペン

現場で使用して色あせた特殊救難隊のワッペン

■特殊救難隊のワッペン 装備品の多くは離任のときに返納しなければならないが、制服の左肩に貼るワッペンは手元に残る。「誇らしい気持ちだった」と今でも大切に保管する。
 特救隊の訓練について「荒れる海に身を置くだけで相当な危険が伴うので、限界を見極めていく」と説明する。体力トレーニングの日課があり、月5日程度は丸1日訓練。想像するだけで記者は気がめいったが、寺門さんは「訓練に集中でき、相当恵まれていた」とにっこり。
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