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駅ナカやSCに「じぶん空間」 JR東やイオン

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NIKKEI MJ

駅構内や商業施設など誰でも出入りできる公共の空間で相次ぎ「個室」を提供するサービスが登場している。JR東日本はシェアオフィス、横浜市のベンチャー企業は授乳室を開発。移動可能で、ちょっとしたスペースに設置できるため、通勤や買い物の合間といった生活動線上でサービスを提供できる。集中して生産性を高めたい、プライバシーを守りたいという需要を取り込んでいる。

電話ボックス?じゃなくて……個室オフィス

昨年11月下旬、都内のJR新宿、東京、品川の各駅構内に電話ボックスのような個室が現れた。証明写真機やATMではない。JR東日本が実証実験中のシェアオフィス「ステーションブース」だ。高さ2.2メートル、幅と奥行きは1メートル強で、机と椅子、モニターや電源、Wi-Fi、暖房などを備える。スマートフォン(スマホ)などで予約。1日最大1時間使える。

「周りを気にせず電話をしながらメールを打ったりと集中できる」と喜ぶのは東京都大田区の男性会社員(30)。取引先を訪問する際、既に3回利用した。同・国分寺市の会社員、畠山知久さん(51)も「これまでは漫画喫茶に行っていたが、改札内で駅から出なくてよく、便利」と話す。

テレワークの導入など働き方改革で、仕事の場は必ずしもオフィス内でなくなった。顕在化した課題が機密をどう守るかだ。カフェやコワーキングスペースではパソコンの画面をのぞき見られたり、電話の会話を聞かれたりする恐れがある。

そこで、移動の合間や商談前後の隙間時間に落ち着いて仕事ができる場をと開発。各駅に法人契約と個人登録の2タイプ計4台ずつ設置した。

実験中は無料とあって個人向けの稼働率は50~60%台。「予約が困難」との声も上がる。「世間のニーズを捉えられた」と同社事業創造本部の布瀬翔太郎氏。利用者の8割が会社員、大半が男性で30~40代が中心だ。

実験は20日で終了。一旦撤去するが、「最大1時間は短い」「もっと予約しやすく」との要望もあり、仕様やサービスを見直し夏ごろ有料で事業化。2020年度までに主要な駅や商業施設など30拠点に設置する方針。

働き方改革、社外で自在かつ安心に

先行したのは富士ゼロックスと東京地下鉄(東京メトロ)の「サテライトオフィスサービス」。営業社員から「社外に安心して仕事ができる場所がない」との声が上がっていた富士ゼロックスと「遊休スペースを活用したい」という東京メトロが一緒に取り組んだ。

昨年6月から順次、溜池山王、葛西、北千住、池袋の4駅の構内で1人用ブースを提供。高さ2メートル弱、幅1.6メートル、奥行き1メートル強の個室に椅子と机のほか、膝掛けや鏡、文具なども備える。

生活の動線上、予約できる点などが評価され、前日と当日の直前予約が大半だ。10月に無償から原則15分216円の有料に切り替えたが、今年1月末まで毎月、会員数は目標に達している。3月末まで実験し、その後、事業化を検討する。

一方、三菱地所が着目したのはオフィスビルのエントランス。昨年12月から東京・大手町や丸の内の3棟で幅と奥行き1メートル強、高さ2メートル強の個室「テレキューブ」を、ウェブ会議システムのブイキューブと設置した。アポより早く到着した人や、ビル内で働く人でも集中して仕事をしたい人らの需要を取り込む。

法人契約に力を入れ、「大企業を中心に約20社が契約した。今年1月以降、週2~3社ペースで増えている」と三菱地所ビル営業部の八木重長専任部長。3月からは都内や横浜市内の4カ所ほどに新設する方向だ。

ブイキューブは制度、文化、ツール、場所を働き方改革に必要な4条件とするが、間下直晃社長は「圧倒的に場所が足りていない」と指摘する。空港や銀行、コンビニなど様々な業種から問い合わせがあり、将来、全国4000~5000カ所に展開できるとみる。

商業施設、正面入り口「一等地」に授乳室

公的空間で個室を提供するサービスは子育ての強い味方にもなる。

昨年9月開業のイオンスタイル仙台卸町(仙台市)。正面から入り、現れたのが個室型の授乳室だ。メインエスカレーター横でフードコート内の「一等地」。高さ2メートル、幅1.8メートル、奥行き90センチの丸みを帯びた木目の柔らかいデザインで、店内に溶け込む。ソファなどを備え無料で使える。

3歳の長女と3カ月の次女を連れ利用した同市の主婦(37)は「いつぐずるかわからないので、あちこちに増えるとうれしい」と話す。「たいていは目立たない所にあって探すのに苦労する」

この授乳室は育児関連ベンチャー、Trim(トリム、横浜市)が手掛ける「mamaro(ママロ)」。2017年10月から70カ所以上に設置。中から鍵をかけ、授乳やおむつ替えに使ってもらう。利用料は設置する施設から月額で受け取る。

同社は授乳室の場所などの情報を投稿し共有するアプリを運営するため長谷川裕介社長が設立。利用者らの声から、そもそも授乳室が足りていないと気付きママロを開発した。「育児する男性も増えており、男性も使いやすいデザインにした」

普及の壁となったのが商業施設側の意識。「授乳室は利益を生まないので1カ所で十分という施設が多い。トイレで授乳すればいいという担当者もいる」と長谷川社長。だが「子どもは場所を選ばずぐずるし、授乳は赤ちゃんの食事。トイレは食事の場所ではない!」

実は導入施設の多くは自前の授乳室があった。周辺に30~40代の共働き世帯が多く住むイオンスタイル仙台卸町も当初から育児支援に力を入れ、授乳室も子供の商品がそろう3階に整備した。

しかし開業前に「1カ所では足りないのではとの議論がもちあがった」と大津裕志店次長。設計変更もできず導入したのがママロだ。当初は1階トイレの出入り口に置いたが「せっかくなら目立つ場所に」と昨年12月、現在の場所に移した。

「もりのみやキューズモールBASE」(大阪市)も「既存の授乳室だけでは足りない」と昨年1月にフードコートに導入。年間3000人が使い「満足度向上につながっている」(担当者)。

茨城県の取手市役所など自治体施設や、横浜市のレジャー施設などにも設置が広がる。簡単に移動でき、イベントや災害時の活用も可能。長谷川社長は「年間出生数が約100万人。10万台は普及させたい」と話す。

英語もヨガも気兼ねなく ひとときの隠れ家に

矢野経済研究所(東京・中野)によると、乗り物やスペースなどのシェアリングエコノミーの国内市場規模は2018年度に前年度比15%増の824億7000万円だったもよう。22年度は1386億円超の予想。内訳は公表していないが、スペースは乗り物に次ぎ規模が大きく、今後も高成長が見込めるという。

貸会議室予約サイトのスペイシー(東京・港)も毎月10%超ずつ登録者数が増え、18万人目前。最近は1人利用が多く、1月の予約件数は前年同月の2倍。働き方改革やフリーランスの増加が押し上げているとみる。

「公共空間での個室サービスは、働き方や男女の役割など社会の変化に素早く対応するために必要」とブイキューブの間下直晃社長。既存施設にプライベートな空間を新設するには多額の投資が要るが、移動可能な個室なら、ちょっとしたスペースにすぐ設置できる。

消費者のニーズは多様だ。JR東日本が個室の利用者に希望する使い道を尋ねたアンケートで、圧倒的に多かった回答はオンライン英会話レッスンだった。つたない英語を家族に聞かれたくないという。転職相談や遠隔診療なども挙がった。

空調衛生設備などの菱熱工業(東京・大田)が昨年11月に発売したのは組み立て式の1人用ホットヨガルーム「ほっ、とヨガ」。ホットヨガは薄着で行うため「人にあまりみられたくない」女性や、「関心はあるが、女性ばかりのスタジオは居心地が悪い」という男性向けに開発した。

高さ2.7メートル、幅と奥行きは1.8メートル。専用レッスン動画もあり、価格は1台税別120万円。既にホテルの共用スペースに導入され、商業施設やヨガ教室から問い合わせを受けている。

喧騒(けんそう)の中でも、同僚や他人ばかりか家族からもプライバシーを守るひとときの隠れ家として、街角個室は様々な悩みに応えてくれそうだ。

普及へ課題 料金設定は手探り

出先での一仕事から授乳まで、短時間で安心して手軽に使える電話ボックスタイプの街角個室。普及に向けて重要になるのが稼ぐ仕組みだ。三菱地所とブイキューブは共同出資会社の設立などを検討している。テレキューブ事業化後は15分250円の料金を想定する。「営業先の企業から高いと言われたことはない」と三菱地所ビル営業部の八木重長専任部長は話す。

給与所得者の平均年収を労働時間で割ると、15分あたりの人件費は約600円と計算。「生活動線上に個室が増えれば、外出先で作業場を探す手間が省け、生産性向上にもつながる」と強調する。

一方で、個人利用者はもっと低い料金を求めている。記者がJR東日本の無料の実験サービスを利用していた人に「いくらなら使うか」と尋ねたところ、「漫画喫茶より安ければ」「1時間100~200円」と返ってきた。富士ゼロックスと東京地下鉄(東京メトロ)の実証実験サービスも15分で216円と有料にした途端、利用率が下がった。

授乳室の利用料金は無料と決めているトリムは室内に設置している液晶モニターに広告を流すことで収益を得る考えだ。「利用者は子育て世帯ばかりとターゲットが明確で広告を打ちやすい」と長谷川裕介社長はみる。

利用者の満足度が満たせ、収益も生み出す仕組みが整えば「個室サービスをインフラに」との各社の意気込みが実現する日がくるかもしれない。

(杉垣裕子)

[日経MJ 2019年2月18日掲載]

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