大学改革シンポ特集「企業人の経験をいかす」

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2019/2/21 6:00
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4氏パネル討論

パネル討論にはパネリストとして辻洋・大阪府立大学長と西井準治・北海道大副学長、出口氏の3人が参加。池上氏がモデレーター兼パネリストを務め、約2時間にわたり議論した。

池上 自己紹介と対談の感想を聞かせてほしい。

辻洋(つじ・ひろし)大阪府立大学長
 1978年(昭53年)京都大大学院修士課程修了、日立製作所入社。カーネギーメロン大学客員研究員などを務め、2002年大阪府立大大学院教授、12年現代システム科学域長、13年副学長、15年から現職。博士(工学)。65歳。

辻洋(つじ・ひろし)大阪府立大学長
1978年(昭53年)京都大大学院修士課程修了、日立製作所入社。カーネギーメロン大学客員研究員などを務め、2002年大阪府立大大学院教授、12年現代システム科学域長、13年副学長、15年から現職。博士(工学)。65歳。

日立製作所に24年間勤め、システム関連の業務に携わった。若い人と一緒に勉強や研究をし、若い人に影響を与える仕事をしたくて大学に来た。対談でダイバーシティー(多様性)の話が出た。大阪府立大は知的障害者の方にオープンカレッジを開いている。学生を海外に留学させるのは大変だが、米国の大学からクラスごと1カ月ほど来てもらう取り組みも始めた。

西井 民間で光ファイバーの研究に携わったが、研究を続けるために工業技術院(現産業技術総合研究所)に移り、2009年に北大に来た。北大は2100人程度の外国人を迎え、英語の授業を積極的に行っている。宿舎が足りず、住居費が大きな負担になっていることが課題だ。

池上 大学に来て驚いたことは何か。

 隣の研究室が何をしているのか分かりにくいこと。教授会では物事がなかなか決まらない。決断すべきところは決断し、間違っていたら戻すという姿勢が大切だ。

出口 理事会の参加者が多い。伝統も大事だが、民間の視点で見ると「取締役会を40人以上でやってまとまるのか」となる。

池上 経営の実績は今に生きているか。

出口 トップの仕事は民間も大学も同じだ。大きな方向を示し、決まらないことを決め、気持ちよく皆に働いてもらうことだ。

 複数の部局で新しい研究を提案すれば3年間研究所長と名乗っていい制度を始めた。最初は誰も手を挙げなかったが現在は増えている。まず小さく始めて外の人を迎えるルールを整備し、うまくいったら定着させ、複数の目でチェックする体制ができたのがよかった。

出口 期限がないとダラダラする。APUも昨年7月に「起業部」をつくったが1年という制限がある。

西井 ベンチャーに関しては、北海道には大きな産業がなく、ほとんどの卒業生が本州に帰ってしまう。地元からは「学生にベンチャーマインドを植え付けてくれ」と言われるが難しい。優秀な学生をどう残し、産業を築いていくかが大きな課題だ。

池上 大阪府立大は大阪市立大と統合する。今の課題は何か。

 府と市の間には政治的なことがあって様々な意見がある。一方で大学が単独で研究、教育をできる時代ではない。大阪市立大とはかなりの部分を一緒にやっている。単体の大学では海外で留学生のネットワークももてない。大学間の連携は不可欠だ。

出口 人口減で地方銀行が合併するように、ドメスティックに考えたら地方の大学も同じことをしないと生き残れない。グローバルに考えれば大学は成長産業だ。世界では大学の需要と関係する中産階級以上の人口の伸びが大きい。視点の持ち方で状況は変わる。

池上 北海道は人口が減少しているが、ほかの道内の大学との統廃合の議論はあるか。

西井準治(にしい・じゅんじ)北海道大副学長
 1982年(昭57年)東京都立大(現首都大学東京)大学院修士課程修了、日本板硝子入社。2001年産業技術総合研究所グループ長。09年北海道大教授、13年同大電子科学研究所長、17年から現職。工学博士。61歳。

西井準治(にしい・じゅんじ)北海道大副学長
1982年(昭57年)東京都立大(現首都大学東京)大学院修士課程修了、日本板硝子入社。2001年産業技術総合研究所グループ長。09年北海道大教授、13年同大電子科学研究所長、17年から現職。工学博士。61歳。

西井 実際に北見工業大、帯広畜産大、小樽商科大が経営統合を表明し、準備している。1次産業はICT(情報通信技術)化され、工学との連携は必須になっている。2次産業、3次産業につなげていくには経済も必要だ。統合は非常にリーズナブルで、北海道の現状を反映している。人口減少を止められないなら、技術力で補う対策が必要になり、総合大学の強みはそこに出てくる。いずれは道内の国立大を吸収合併、経営統合する必要がある。北海道にどう貢献できるかを教育に反映させ、10年スパンで考える。

広大な北海道なら特区を設けて無人運転のトラクターを試験走行できる。人が減る中でどのように食料自給率を維持していくか、やがて日本全体や先進国に広がっていく問題だ。

池上 人口減少を逆に利用した産学連携だ。私が大学生だった時代、大学紛争が吹き荒れて産学連携路線への反対もあった。学問の自治が重要で企業への協力をしてはいけないという議論があったが、今は全くなくなった。大学の学問の自立性と産学連携、どうあるべきか。

 大学のミッションは研究、教育だけでなく、社会貢献もある。公開講座とリカレント(学び直し)のほか、地元産業に貢献することだ。本学は中小企業に貢献することに重きを置いている。新しい技術で自治体の補助金を得て芽が出たものは経済産業省や銀行にも紹介している。

池上 APUは九州、大分にどんな貢献ができると考えているか。

出口 APUをつくる際に大分県や別府市から200億円をいただいたが、県の試算によるAPUの1年間の経済波及効果は200億円ある。もし学生が全員地元出身だったら経済効果はゼロだが、半分は外国から、日本人の3分の2は東京や大阪から来ているためだ。面白い場所をつくれば人は集まってくる。それが最大の貢献だ。

一番の財産であるグローバルな環境をいかし、企業から2カ月ほどの「逆インターン」を受け入れている。各大学の個性を生かしてどのように社会に貢献していくかが重要だ。

池上 産学連携というと技術的協力を思い浮かべがちだが、人づくりの面での連携もある。北大は。

西井 首都圏と比べると産学連携は極めて不利だ。格安航空会社(LCC)の発展で来やすくなり、産学連携も右肩上がりになってきているが、年間契約額は20億円にとどまっている。やればやるだけ赤字だが、いずれ産学の構造が変わってきて大学と企業が一体になって技術開発しないと持たなくなる。特許は出し続けており、企業にとって価値あるものがありマーケティングをして共同研究につながっている。

池上 文系理系でくっきり分かれてしまうが、総合大学の強みとは何か。

西井 工学部と医学部の連携による陽子線治療装置、農学部と工学部の連携による無人トラクターは普及し、水産でいえば人工知能(AI)を活用した陸上養殖も考えられる。文学部では脳科学の分野の研究者が、AIが人間知を超えたら社会はどうなるかを研究しており、情報通信メーカーの担当者との共同研究も始まろうとしている。学部学科の垣根を越えた連携が今後は重要になる。

出口 どういう学生を育てるかを考えたら、全部大学で学ばなければいけないか、という話になる。APUは観光系の学問に強い。これからインターコンチネンタルホテルが隣に来る。今議論しているのは同ホテルの社員が先生として教えるほか、学生がそこで働いて単位にすることも検討する。地域や企業と広く連携していく中で大学の可能性はもっと広がる。

池上 大阪府立大は卒業生とどのような交流に取り組んでいるのか。

 卒業生との懇話会を設けたり、キャリア形成について学生にインタビューをさせたりして、それをまとめてホームページに公開することなどをやっている。寄付に関しては、ふるさと納税制度を使って基金を設けている。卒業生に限らず、大阪府立大を支援してくれる人から寄付してもらっている。

西井 北大は大阪と東京に大きな同窓会がある。毎年開いているジンギスカンパーティーなどを通じ、OB・OGは愛校心を深めている。寄付は年々増えているが、学生の海外渡航費に使える程度の金額だ。海外大学のように寄付の利回りで大学を運営するのは難しい。

出口 世界から学生を募っていることもあり、昨年秋からクレジットカードを使って寄付できるようにした。ただ第1期生がまだ35歳くらいで、生活にお金がかかる時期だ。毎月1000円や2000円など、少額ずつなら寄付も長続きすると考えている。

ビジネスプランを学生に提案させ、その中から選抜した学生を育成する起業部の取り組みがある。第1期生は32組48人だった。起業の経験を持つ教員や起業している卒業生が多いことを生かし、学生を育成しベンチャーをつくろうと考えている。資金確保のため昨秋にクラウドファンディングに初めて挑戦した。志を感じてもらえ、第一目標の200万円を集められた。今は350万円を目標にしている。何をやるにもお金が必要だ。いかに交流サイト(SNS)などを使って卒業生などに幅広く発信することが求められている。

池上 最後に一言ずつお願いします。

出口 人の顔がそれぞれ違うように、教育機関も全部違うべきだ。それぞれの特性をPRし、各自に見合った学生を育てていく必要がある。

西井 討論では北海道のことばかり話したが、全国に広がる社会問題が背景にある。北大らしさを出した教育を目指していきたい。

 最近の大学生は海外に出ないなどと心配する声を聞くが、学生も頑張っていると思う。若い人を皆でサポートすることが大学のミッションだ。そのための環境づくりにこれからも努めていきたい。

討論する(左から)池上、辻、出口、西井の各氏(東京・大手町)

討論する(左から)池上、辻、出口、西井の各氏(東京・大手町)

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