芸術 鑑賞だけでは足りず 四国学院大教授 橋本一仁さん
語る ひと・まち・産業

2019/2/20 12:00
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■香川県の文化行政に30年以上にわたってご意見番として関わってきた。持論は「文化の地産地消」だ。

 はしもと・かずひと 1946年高松市生まれ。高校を出ていったん就職したが四国学院大で英語を学び直し、上智大の大学院で英米文学を専攻。30代後半でロンドン大へ留学。英国の演劇文化に触れる。香川県や高松市、丸亀市など文化関係の公職多数。

はしもと・かずひと 1946年高松市生まれ。高校を出ていったん就職したが四国学院大で英語を学び直し、上智大の大学院で英米文学を専攻。30代後半でロンドン大へ留学。英国の演劇文化に触れる。香川県や高松市、丸亀市など文化関係の公職多数。

「理想は小豆島の農村歌舞伎だと思うんです。上方に行って、こんな面白いものをやっていたよと。でも島に歌舞伎は来ないから、村々でそこの誰かが自分でセリフを書いて、手作りの舞台をしつらえ、演じる。観客も自分たちです。あるいは、道ばたの花を家に持ち帰ってさす。いい気持ちになる。文化とは本来そういうものだった」

「近代化につれ、やる人と見る人が分かれました。それは文化の奴隷みたいな関係を作ります。すごいレベルの人だけが芸術家で、見る人はいつも鑑賞者。しかし文化は生活の中にあるはずのものです。どのレベルであっても、発信者として、また観客として、楽しめる豊かな土壌が、地域には必要です」

■行政の変遷を見てきて、最近は風向きの変化を感じるという。

「人口減少が進むなかで地域社会の活力を維持するために、芸術や文化が持つ力を活用しようという意識が出てきているのだと思います。いろんなレベルで文化を楽しむ力がないといけないという話をしても通じないことが多かったが、今は、ではどうしたらいいかという話になる」

「県は今年度から、例えば昨日作った団体でも、志が公益に資するならお金を出すという面白い仕組みを入れました。分かりやすいのは発表の場所です。音楽でも、映画を作ってみたいでも何でもいい。実績はないけど訴えたいことがある。でもお金がなくて公民館が借りられないというような人たちは結構います」

「委員長をしているかがわ文化芸術祭は昨年で60回目になり、3カ月の期間中に160公演。演劇、音楽、美術、映像、文芸、舞踊など8分野で参加団体は100を超えます。瀬戸内国際芸術祭が始まって、やめてもいいのではという雰囲気も一時ありました。でも、瀬戸芸と県の芸術祭は違う。地元の人が一生懸命作ったものに晴れの舞台を用意する。地域の隅々に文化を届ける。県の芸術祭にはそれができるのです」

■専門は英国の演劇。毎年のさぬき映画祭の実行委員長も務める。

「映画祭ではシナリオコンクールを10年続けています。5年くらいはひどいものだったが、だいぶ人が育ってきました。もちろん派手な映画祭も面白い。ただ、地域の文化活動としては育成の場が大切です」

シナリオコンクールの入賞者を表彰(実行委員長を務めるさぬき映画祭)

シナリオコンクールの入賞者を表彰(実行委員長を務めるさぬき映画祭)

「香川は食の分野では肉や魚などいいものを育ててきて、地元産品だけでコース料理を出せるまでになった。文化でも同じように様々な分野で草の根から上級まで、地域に力が蓄えられていくのが夢です。私の専門で言えば、英国のように地域の劇団が地域の問題をテーマにする。それが演劇の、表現の面白さです。そういう地域に根ざした、独自の力が育ってほしい」

「そうすれば、外から一流を呼んできて見せるという地方行政の標準的なやりかたも意味を持つのだと思います。おそれいって見ているのでは何も残らない。でも地域に蓄えられた力があれば、それが外の一流とぶつかって新しいものが生まれる。そんな地域が日本中にいっぱいあったら面白いじゃないですか」

《一言メモ》大学で日韓交流40年

四国学院大学のキャンパスは香川県西部に位置する人口3万人あまりの静かな町、善通寺市にある。戦後、米国南長老教会(当時)が設立した学校で、同様に韓国で設立された学校を源流に持つ韓南(ハンナム)大学校(大田広域市)と、学生や教員が40年にわたって交流を続けている。

日韓の大学がこれほど長く交流を続けているケースは珍しい。橋本氏は1978年の姉妹校協定の締結当初から交流事業に携わっているただ一人の教員で、国際交流の分野でも長く、草の根の地道な活動を大事にしてきた。

同大は香川県出身の本広克行監督の映画「サマータイムマシン・ブルース」(2005年)のロケ地で、いまも本広監督が授業を持っているなど、地方の小都市にあって芸術カリキュラムもユニークだ。

(高松支局長 深田武志)

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