2019年8月21日(水)

シーメンス・ケーザー社長「GAFAは産業IoTを知らない」

2019/2/19 17:02
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独シーメンスのジョー・ケーザー社長は19日、日本経済新聞などの取材に応じ「人工知能(AI)や(あらゆるモノがネットにつながる)IoTの力を活用すれば製造業は成長できる」と述べた。グーグルなど米IT(情報技術)大手「GAFA」のデータ寡占については「彼らは産業分野のIoTでの戦い方を知らない」と指摘した。一問一答は以下の通り。

シーメンスのジョー・ケーザー社長は「IoTとAIで製造業の未来はとてもポジティブで大きな役割を担う」と語る(19日、都内)

――日本ではものづくりに特化する「従来型の製造業」はなくなるという経営者の意見が出ています。製造業の未来をどう展望していますか。

「私は『製造業がなくなる』とは思っていない。ただ『製造業は変わる』だろう。未来はサイバー(仮想現実)社会になるという予測はある。実際はIoTやAIを通じて、現実社会と仮想現実は結びついていくだろう。製造業はIoTやAIの活用で変革できる」

「カギを握るのはデータだ。現実世界のすべての機器で生まれたデータをIoTで取得し、仮想現実の世界に双子のコピーを作り出す。これを我々は『デジタル・ツイン』と呼ぶが、すべての物事でデジタル・ツインを作れば、AIを通じた分析・解析で世界を最適化できる。現実から仮想、仮想から現実を行き来する。機械や機器などのハードウエアはその柱のひとつだ」

「現実社会を再現するのがデジタル化だ。ハードウエアを作り上げ、それを理解している製造業の未来を私はすごくポジティブに考えている。大きな役割を担う」

――GAFAも産業分野へ事業領域を広げようとしています。どのように対抗しますか。

「彼らは産業分野でどのように戦いたいのだろうか。彼らはその方法をわかっていないかもしれないが、我々は知っている。重要なのはGAFAが扱う消費者から集めたデータと、産業分野で集められたデータの性質は異なる点だ」

「消費者から無料で収集したデータには『知識』が欠如している。産業分野で集めたデータは、付加価値の固まりだ。つまり、データの源として機械や機器などのハードがある。製品やサービス、日々のオペレーションを通じ、プロフェッショナルの現場がハードを通じて集めている。プロの現場は、データをどう扱えば現実世界を最適にできるかも知っている。決して無料で提供される類いのデータではない」

「シーメンスのクラウドベースのIoTプラットフォーム『マインドスフィア』は世界最大で、140万の機器やシステムが接続されている。しかも、データは我々ではなく顧客が保持し、他社には流れない。ここも重要な点だ」

――デジタル製造業への転身は米ゼネラル・エレクトリック(GE)も目指していましたが足元で苦戦しています。

「我々が大切にしているのは顧客第一主義だ。製造業の知識が豊富でなければ、現実世界をうまくデジタルで再現して最適化できない」

「そのために必要な勝利の方程式がある。『E(エレクトリフィケーション=電化)、A(オートメーション=自動化)、D(デジタル化)』だ。このEADの領域で製品・サービスをそろえているのが強みだ。まずはデジタルファクトリーを広げ、将来はデジタルインダストリーと呼ばれるまで成長させたい」

――一方、火力発電事業は脱・化石燃料の流れで経営環境が厳しくなっています。

「短期的には化石燃料の市場は減っていくだろう。特に石炭は二酸化炭素排出量が大きく、大気汚染の問題を抱える。今後、火力は石炭から離れていく。大型の火力ガスタービンは年間400~500基の新設需要があったが、19年は60~80基は減少する見込みだ。石炭火力は過剰生産状態にあり、構造改革が求められている」

「ただし、持続可能なエネルギー源は必要だ。しかも、世界の3分の1の人口は、信頼できる電力にアクセスできていない。電気自動車の普及も控え、これからは相当な電力が必要となる。再生可能エネルギーは有望だが、変動が大きい。適切な価格でアクセス可能で、グリーンなエネルギーが求められる。今後は高効率なガス火力発電と再生可能エネルギーの組み合わせが、エネルギーの未来を担うだろう」

――火力分野での再編は考えていますか。

「すでに火力発電では統廃合が繰り返されてきた。今ではシーメンス、GE、三菱日立パワーシステムズの3社に世界市場は集約されている。この先の選択と集中の行方は不透明だ」

――フランス・アルストムとの鉄道事業の再編は、欧州委員会より統合計画が却下されました。どう受け止めていますか。

「欧州委員会の決定は尊重する。ただ(決定の根拠となった)独禁法は30年前に導入されたルールでもある。今日の世界のニーズをすべて反映しているかというと疑問だ。独禁法は非常に国別の事情に主導されていて、市場全体を俯瞰(ふかん)しているモノではない。これは正しい、間違っているという議論ではなく、そういうものだと指摘している。修正していくことが、グローバルでつながっている世界では求められている」

「鉄道事業は我々の事業群の中でも最も垂直統合されている。電化から自動化、そしてデジタル対応まで一貫して実現できている。2桁の利益率と2桁成長を続けている。統合は却下されたが、選択肢はある」

――鉄道で新たな再編の考えはありますか。

「鉄道事業は独立した事業部門として成功している。焦ったり、急いだりする必要はない。今後のパートナーシップについては(競合他社の)みなさんから連絡をいただければ、そのときに考えを伝えたい」

――日立製作所がスイスのABBから世界首位の送配電事業を買収しました。送配電で今後、どう競い合いますか。

「日立はグローバルなブランドで尊敬している。シーメンスに非常に似ている。今回、ABBから送配電事業を買収したが、彼らが強いのは高圧製品分野だ。しかも、両社は21年ころまでに提携を機能させていくようだが、それまでの2年は大きな機会だ」

「今後、電力インフラは『中央集権』から『分散型』にあり方が変わる。我々は『プロシューマー』と呼ぶが、再生エネルギーの普及で個人や企業は電力の消費者にも発電者にもなる。非中央集権化していく新たな電力のエコシステムが広がっていく。ここがビジネスチャンスだ。スマート配電やコネクティビティ技術を駆使して、配電ネットワークを作り上げる」

――三菱重工業をサイバーセキュリティーに関する「チャーター・オブ・トラスト(信頼性憲章)」のアジア初のパートナーとして迎えました。

「チャーター・オブ・トラストは、シーメンスが主導し、サイバーセキュリティーの信頼性を構築し、デジタル化を推進するための拘束力のある規則と基準の採択を呼びかけている。三菱重工は17番目のパートナーとなる。世界各地でデータを共有するには、信用が大事だ。三菱重工とは製鉄機械などのパートナーとして長い関係があり、宮永俊一社長とは信頼関係で結ばれている」

――古くて新しい問題ですが、複合企業の経営効率の悪さを指摘する「コングロマリット・ディスカウント」の批判をどう受け止めますか。

「コングロマリット・ディスカウントの問題を起こしているのは、証券アナリストたちだ。アナリストがいて、投資家がいて、株主がいて、顧客もいる。さらにパートナー企業もある。そのパートナーすべては大事だが、利益はお互い一致はしていない」

「短期ではなく、長期で利益相反を起こさないようにしたい。顧客を考えると、事業は慎重に取り組む必要があり、従業員も大切だ。長期的に持続可能なビジネスを実現していく点では、ステークホルダーと利益を共有できると考えている」

(星正道)

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