2019年3月19日(火)

独ロの新パイプラインはロシアのワナ(The Economist)

ヨーロッパ
The Economist
2019/2/20 2:00
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利益を生まない巨大プロジェクトが進められている場合、理由が2つ考えられる。出資者が愚かであるか、あるいは狙いが他にあるかだ。

ロシアのプーチン大統領は決して愚かではない。したがって、同氏が注力する天然ガスを送るパイプライン計画「ノルドストリーム2」は、ビジネスが本当の目的ではないと考えなければならない。そして愚かなのは欧州各国、とりわけドイツだ。

■新たに建設する必要がないパイプライン

欧州連合(EU)は12日、ドイツから圧力を受け続けた末、ノルドストリーム2に対し、EUのエネルギー規制をどのように適用するかで合意した(編集注、この規制の適用の仕方次第ではプロジェクトの続行が危ぶまれていた)。だが合意にこぎ着けたことで、建設計画に遅れが出る可能性はあるものの、続行することがほぼ確実となった。

総工費110億ドル(約1兆2100億円)、長さ1200キロに及ぶ同パイプラインは、ロシア北西部のビボルグからバルト海を通ってドイツ北東部のグライフスバルトまでをつなぐ。建設は昨年始まり、この年末までに完成する可能性もある。だが経済的に見れば、必要のないパイプラインだ。

今のところ、ロシア産天然ガスは、主にウクライナとポーランドを通って東から西へ送られるか、「ノルドストリーム1」(2011年11月稼働)経由でドイツまで届けられており、特に輸送能力が不足しているわけではない。新規パイプラインを必要とするほど欧州で輸入天然ガスへの需要が近く高まるとも予想されていない。というのも、エネルギー効率が改善している上、製造業による需要は低迷し、再生可能エネルギーが普及しつつあるためだ。

意外でも何でもないが、ロシア政府が株式の過半数を握るエネルギー大手ガスプロムが、ノルドストリーム2の唯一の株主だ。ノルドストリーム2の本当の目的は政治的なものだ。それには主に3つの側面がある。

第1に、ノルドストリーム2によってポーランドとウクライナは直接的に痛手を負うことになる。プーチン氏は両国を毛嫌いしており、後者には14年に侵攻している。現在、ロシアで生産されている欧州向け天然ガスの大半は、ウクライナ経由だ。ノルドストリーム2が完成すれば、ロシアはドイツに迷惑をかけずにウクライナへの供給を削減できる。また、ウクライナが天然ガスを抜き取っているとして、ロシアとの争いにドイツを巻き込む事態も防げる。加えて、ウクライナ政府は輸送費の収入を得られなくなる。ノルドストリーム2がなければ、ロシアがウクライナで悪さをしたくても、自国経済への波及を考えるとできることが限られる。つまり、ウクライナ(程度の差はあれ、同じ理由からポーランドも同様だ)を迂回することが狙いなのだ(中止となったパイプライン計画「サウスストリーム」も同じ狙いだった)。

また、ノルドストリーム2によって、ロシアはバルト海地域にインフラ設備を所有することになる。これは、現地のロシア軍駐留を増強する言い訳になり得る。だからこそ、バルト3国や北欧諸国、ポーランドは懸念しているのだ。

■西側の分断がプーチン氏の狙い

第2に、ノルドストリーム2は、欧州のロシア産エネルギーへの依存度を高めることになる。中継国を迂回することで輸送料を支払わなくてすむため、顧客に請求する金額を抑えられる。これは、少なくとも短期的には、ドイツのエネルギー消費者にとって良い話だ。だが、ロシアへの依存度を高めることはEUの方針に反する。EUは過去10年、一つには安全保障上の理由からエネルギー調達先の多様化を進めてきた。それだけではない。最終消費者にもっと公正な価格でガスを提供すべく、天然ガス供給各社に、ガスの価格や輸送料などのコストを開示し、透明性を高めるよう求めてきた。各国政府による補助金の提供を防ぎ、適正な競争を促すのが狙いだ。

メルケル首相はウクライナ侵攻を巡る対ロシア制裁を強く主張してきただけに、ノルドストリーム2計画をなぜ推進するのか疑問視されている=ロイター

メルケル首相はウクライナ侵攻を巡る対ロシア制裁を強く主張してきただけに、ノルドストリーム2計画をなぜ推進するのか疑問視されている=ロイター

冒頭の12日に決まったのは、ノルドストリーム2のようにEU域外を起点とするパイプラインにも、このルールを適用するという方針だ。だが、この市場メカニズムを機能させるべく、エネルギーを巡る規制の順守を監督する責任は、ドイツの規制当局が負うことになった。欧州委員会もある程度監督する権限は確保したが、全くないよりはましとはいえ、当初求めていたスタンスからは大幅な後退となった。

メルケル独首相は、欧州の安全保障よりも安価なエネルギーを重視しているようだ。これは軽率な判断だ。06年と09年にロシアがウクライナを経由する天然ガスの量を制限した時に明らかになった通り、ロシアは天然ガスの供給をいつでも政治的な武器に使えると考えている。

第3にノルドストリーム2は、西側の同盟国を分断させ、東欧諸国を多くの西欧諸国と対立させ、この計画に長く反対してきた米国と欧州の間に亀裂を生んできた。ドイツに米国産天然ガスを輸入させたいトランプ米大統領は、このパイプライン計画に参加している企業にこれまでも制裁を科すことをちらつかせてきたが、今後科す可能性がある。

ノルドストリーム2は要するに、ウクライナやポーランド、そしてバルト3国の安全保障への懸念を高め、EUのエネルギー政策を骨抜きにし、ロシアに西欧を脅すためのより強力な手段を与え、北大西洋条約機構(NATO)加盟国の間に不和の種をまく。プーチン氏にとって、わずか110億ドルでこれだけの問題を引き起こせるなら大した負担ではない。だが、同プロジェクトは欧州にとってはワナだ。

■シュレーダー元首相を巡る暗い疑惑

理解しがたいのは、なぜドイツがこのワナに陥ったのか、そしてフランスもドイツに屈し、同調するようになってしまったのかだ。ロシアに対しては、ウクライナ侵攻以降、圧力をかけるようEUの中で誰よりも強く働きかけてきたのはメルケル氏だ。同氏は、11年にドイツの脱原発という誤った判断をしたことで、国内企業の(エネルギーコストの上昇や二酸化炭素排出削減が難しくなったといった)不満が高まっており、それに応えることを最重要視しているのかもしれない。

あるいは、もっと暗い背景を含む話かもしれない。メルケル氏にとって、連立政権を維持するにはドイツ社会民主党(SPD)の協力が不可欠だ。そのSPDはノルドストリーム1と2を強固に支持している。今もSPDの党員であるシュレーダー元首相は現在、ノルドストリーム2とロシア国営石油大手ロスネフチ双方の取締役を務めている。

このことがドイツの対ロシア政策に影響を与えていると証明はされていないが、多くのドイツ人はその可能性に危機感を募らせている。そして、そうした疑念が浮上することで、その国が揺さぶられるのを常に喜ぶのがプーチン氏である。(c)2019 The Economist Newspaper Limited. February 16, 2019 All rights reserved.

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