越前和紙 1500年目の挑戦 産地振興で中期計画
約1500年の歴史を持つ越前和紙の事業者たちが、世界を魅了しようと産地ブランドの再構築に乗り出した。福井県和紙工業協同組合(越前市)が旗振り役となり、7つの新アクションプランを盛り込んだ2023年度までの振興計画を策定。ブランドロゴの作成やクリエーターの産地への呼び込みを通じて発信力を高め、産地の再興を目指す。

13日、和紙づくりの体験ができる施設「越前和紙の里パピルス館」(越前市)に関連事業者約40人が集まり、協同組合が振興計画案の詳細を明らかにした。協同組合の石川浩理事長は「これまで産地共通の課題がなかったが、この計画を組み立てて産地を盛り上げる起爆剤にする必要がある」と呼びかけた。
越前和紙の生産額は1992年の95億円をピークに減少を続け、17年には約26億円まで落ち込んでいる。組合員数も同90社から57社となり、産地消滅への危機感が強い。そこで、福井銀行や自治体の協力も得ながら、売れる商品づくりを進める構えだ。
計画では、縮小が続く産地全体の生産額を現状の約26億円で下げ止め、21年度には27億6千万円に回復させることを目指している。計画に参加する事業者が21年までに新商品をそれぞれ延べ7つ開発することや、ブランドサイトの閲覧数を1年当たり21万7千件まで高めるといった数値目標も設定した。
盛り込んだ7つの新アクションプランは、越前和紙を盛り上げるコンセプトやツール、場づくりが目的だ。まず5月末をめどに新たなブランドロゴを決定する。既に和紙を「W」に、紙すき使う桁を「E」に見立てたロゴ=写真=を作成済みで、これをベースに完成させる方針だ。ロゴには副題として「あつらえ」を意味する英語「BESPOKE(ビスポーク)」を添え、海外でも越前和紙の特長を直感的に伝わるようにする。
ブランドサイトは19年中にも刷新する予定だ。越前和紙は用途や機能が幅広く、「特徴がつかみづらい」という流通事業者など外部からの指摘に対応する。日本画用や水墨画用、壁紙用などの用途や機能、原材料ごとに分類し、利用者の目的に適した生産者を見つけやすくする。
このほか、地方に芸術家が滞在して住民と交流しながら制作活動をする「アーティスト・イン・レジデンス」の年内実施で場を整える。和紙の産地としてだけでなく、消費地、イベント開催地としての存在感を高める考えだ。
福井県では、越前和紙以外にも伝統工芸を盛り上げる取り組みが広がっている。鯖江市を中心とした地場のものづくり産業の工房見学イベント「RENEW」、国内外の大学生が集まり、寝食を共にしながら芸術を中心に農業、教育などの専攻分野と地域課題を結びつけて企画に取り組む「河和田アートキャンプ」が代表例だ。
越前和紙の振興計画には生産者と卸業者に加え、福井銀行や福井県、越前市が支援する。取り組みの詳細が最終決定される今春に向けて、多様な視点を盛り込んでほしい。
(吉田啓悟)
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