「なりたい自分」になる まずはキャッチフレーズを
セルフブランディングのためのコンセプトづくり(上)

この連載ではこれまで、顔型や体形に合った襟の形やスーツなどのシルエット、ネクタイなどをどう選ぶかについてお伝えしてきました。今回は最も必要とされているにもかかわらず、後回しにしてしまいやすい、自身の見せ方=魅せ方、すなわち演出方法についてお話ししたいと思います。
「演出」というと、「芸能人みたい……」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。テレビ番組などで見られる、わざとらしく笑いや感動を誘おうとする「演出」を思い浮かべてしまうかもしれません。けれども、ここでお話しする「演出」は、特別なスキルを学んだり、ダイエットしたりする必要などありません。「自分が持っている力を生かすこと」、これこそが「演出」と捉えていただきたいと思います。
そして演出に必要なことが「明確なコンセプト」なのです。
私はこれまで、パーソナルブランディングやパーソナルスタイリングの依頼主向けにコンセプトづくりを幾つも手がけてきました。イメージや雰囲気を伝えようとしても、自分自身が自らのコンセプトを理解できていなければ、周りからいわれるがままで、たとえその言葉に従い、最高のコーディネートが仕上がったとしても、それは仮そめにすぎません。
■キャッチコピーでコンセプトを明確化
せっかく、ぴったりなイメージができあがったとしても、自分自身で本当の意味で腑(ふ)に落ちないと、装いの自立を促せないと思うのです。
こうした観点から、コンセプトを明確にすることは極めて重要です。この際に役立つのが「キャッチコピー」です。
「そうだ京都、行こう。」「きれいなおねえさんは、好きですか。」――といったテレビコマーシャルや電車の中づり広告で見かけるキャッチコピー。これらは訴求するイメージを明確化することで、消費者の購買意欲を効果的に喚起します。
もちろん人物を訴えかけるキャッチコピーも有効です。人気アイドルグループ、AKB48の「会いに行けるアイドル」、タレントの清水ミチコさんの「国民の叔母」といったように、自らのモットーや長所を具体的に表現することで、多くのファンの心をつかめるように、より身近な存在として訴えかけます、
■自分を客観的に見つめる
キャッチコピーは本来、広告代理店などが商品や企業のブランディング(ブランド構築)を行うために、その長所や訴求したい箇所を明確にするための手段です。私もこの手法で顧客のカウンセリングを行ってきました。
具体的には、まず自分自身を客観的に見つめ、外面と内面を分析しながら、なりたい自分になるためのイメージワードを選択してもらいます。こうして集まったキーワードを再構成することで、「その人となり」が見えるようなキャッチコピー(コンセプト)をつくり上げるのです。
それでは次に、私が今までお手伝いしてきた実際のコンセプトとスタイリングの事例を見ていきたいと思います。
【ケース1】建築家 Y 氏の場合
目的:建築家としてのカリスマ性と経営者としての安心感、クールでワイルドな気品を与えたい
なりたいイメージ:誠実でリーダーシップのあるできる男、冷静な判断ができる人
キーワード:クール、存在感、洗練された、品のある、色気
建築家のY氏は、とても温和で優秀かつ誠実な経営者です。身長は178センチメートルと、すらりとしているのですが、特に目立つタイプではなく、ごく普通のビジネスマンといった風情でした。「この人に家を建ててもらいたい」と思わせるカリスマ性をアピールすることを目標に、以下のようなキャッチコピーを作成しました。
「こだわりのあるクールで格好の良い洒落(しゃれ)人」
スタイリングとしては、張りのある素材、暖色系で色気のある色味(ライトパープルなど)を選び、洗練された気品をアピールするワングレード上のブランドを提案。ヘアスタイルも変えていただきました。

【ケース2】不動産会社経営 S 氏の場合
目的:真面目で冷静(冷ややか)過ぎる印象から「先見性のあるキレの良さと包み込む温かさ」を与えたい
なりたいイメージ:エネルギッシュに実行する人、人情味あふれる優しい人、野性的な力強さ
キーワード:存在感、先見性
不動産会社を経営するS氏は身長165センチ。とても細身で一見、神経質そうな雰囲気ですが、お話しすると楽しいタイプでした。「できる」とのイメージはそのままに、包容力や人情味あふれる温かさをアピールしたいという意向でした。そこで具体的な理想像として挙がったのが俳優の佐藤浩市さん。そのイメージから次のようなキャッチコピーを作成しました。
「面倒見の良い兄貴分~不動産業界の佐藤浩市~」
スタイリングでは、濃い色を着るとせっかくのエネルギッシュさがマイナスにはたらき、眼光の鋭さからネガティブなイメージも帯びやすいので、クリームやベージュ、オフホワイト、渋みのある薄いグレーなど、温かみのある柔らかな色を選び、人情味あふれる優しい人をアピールしました。また、キレのあるイメージを演出するために、シルバーグレーやアイスブルー、アイスピンク、アイスグリーンなど透明感のある色を提案しました。
【ケース3】弁護士 H 氏の場合
目的:「人生を軽快に楽しみながら、仕事にも余念のないタイプ」を爽やかにアピール。色気を押し出すことなく、包容力やプライベートの充実感を醸し出すことで、より信頼感のあるイメージを演出したい
なりたいイメージ:人情味あふれる優しい人、誠実な人、エネルギッシュに実行する人
キーワード:責任感、信頼感
弁護士のH氏はどちらかというと気難しいタイプでした。そこで信頼感を第一に、しなやかさと余裕を演出できるように以下のようなキャッチコピーを作成しました。
「軽快で爽やかな色気」
スーツは爽やかで誠実な印象を与える紺を中心に、同調や規律を表現するグレー系を「無難」「やぼったい」といった印象にならないように同系色のトーンで合わせ、品のある着こなしに仕上げました。

いかがでしょうか。「なりたい自分」のイメージが星雲状態であっても、言語化することで、どのような演出が必要なのかが明確になってきます。分析のためのシートを以下に用意しましたので、ご自身が何を大切にし、どのようなイメージを周りに伝えたいのかを書き出してみてください。
次回はコンセプトを作成した後、その演出をファッションにどのように落とし込んでいったらいいかについてご説明します。


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