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ハーフタイムにも成長 サッカー日本の高き修正力

サッカーの日本代表は2大会ぶりの王座奪還を狙ったアジアカップで準優勝に終わった。優勝しか頭になかった選手たちはアラブ首長国連邦(UAE)の地で非常に悔しい思いをしたことだろう。それでも、1次リーグから決勝まで7試合の修羅場を踏めたことは、今後のチームの進化に確実に寄与するはずである。

そもそも、12月がJリーグのオフにあたる代表の国内組にとって、オフ明けの1月の試合は本当に厳しい。清水のFW北川航也なんかは11月でシーズンが終わっていたようなものだから、試合勘を含めて調子を上げていくのは本当に大変だったろう。

シーズン中の欧州組も真冬の各国から暑いカタールに来て、連戦をこなすわけだから、こちらも別次元の大変さがあった。しかも所属クラブでコンスタントに試合に出ている選手と、そうでない選手とではコンディションに差がある。そういういろいろなばらつきがある中で選手をやり繰りしながら、今回の日本は決勝までたどり着いた。

決勝のカタール戦で前半、2点目を失い厳しい表情の吉田(中央)ら=共同

西アジア開催のアジアカップで優勝経験がある東アジア勢は日本だけ(2000年レバノン大会のトルシエ・ジャパンと11年カタール大会のザック・ジャパン)。そして今回3回目の優勝を果たす一歩手前までいった。これは日本に底力がある証拠だろう。20歳の冨安健洋(シントトロイデン)のような有望な若手を実戦の中で鍛えながら勝利も追求。そのあたりの長期展望とのバランスもよかったと思っている。

立ち上がりのつまずき響く

2月1日のカタールとの決勝戦は試合の入りが悪かった。「最強」とうたわれたイラン相手に日本は準決勝で完璧に近いサッカーを披露し、3-0で快勝した。そこでエネルギーを使った反動がきたような感じだった。12分にカタールのエース、アルモエズ・アリにオーバーヘッドの先制点を許して衝撃を受け、狂ったリズムを立て直す前に2点目も失った。この立ち上がりのつまずきが最後まで重くのしかかった。

それでも後半の日本は素晴らしい反発力を見せた。カタールを押し込み、69分に南野拓実(ザルツブルク)が追撃のゴールを決めた。押せ押せの逆転ムードはさらに広がった。後半のカタールのチャンスらしいチャンスといえば、80分のCKにつながるカウンターくらいだった。そのCKからVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)による幸運なPKがカタールにもたらされ、万事休した。

本当に悔しい2位ではあるが、今大会の日本は他のチームにはない修正能力を武器に、よく戦ったと個人的には思っている。日本の得点は、後半の10分から30分にかけて、という時間帯が多い。なぜだろう。

試合前に対戦相手を分析するけれど、実際に戦ってみると、予想に反することがあれこれ出てくる。それを前半を使って消化しながら、ハーフタイムのロッカールームで話し合い、後半の戦いに生かす。そういう微調整が今大会の参加チームの中でトップクラスでできたからだろう。別な言い方をすれば、ハーフタイムの15分の間でも成長できるチーム。それが日本だった。

その現実に対応する力は、森保一監督のマネジメントと関係があるとも思っている。「俺の言うとおりに黙ってやればいい」という高圧的ではないよさというか。実際に現場で戦う選手の肌感覚とピッチの外で観察した監督の考えをハーフタイムですり合わせ、戦術的に整理する。そこがうまくやれていたからだろう。

サウジアラビアに70%以上、ボールを支配されたベスト16の戦いもそうだった。苦戦の一番の原因は午後3時キックオフの地獄のような直射日光と湿度の低さにあった。ピッチの脇に置いた測定器で湿度は「LOW」と出るだけで測定不能という状況。

それでも、ボールをサウジに握られながらピンチの場面はそれほどなかった。これも、選手が外(ベンチ)からの命令ではなく、ピッチの中で「今はこうしよう」とまとまれていたからだと思う。

森保監督(手前)はカタール戦でも選手に信を置き、後半での逆転を狙ってやるべきことの中身を整理して再チャレンジさせる道を選んだ=共同

選手の当事者感覚を大事に

外から「引いて守れ」とか「前からプレッシャーをかけろ」と怒鳴られて、「やらされるサッカー」になると「え、そんなことをするの?」と思って、どんどん心身両面できつくなる。そうではなくて、自分たちで「これがベターだ」と決めてやるから頑張れる。こういう選手の当事者感覚を森保監督は大事にしていた。

カタール戦にしても、0-2でリードされて折り返したら、普通の監督ならシステムを変えるか、選手を入れ替えるものだ。森保監督は選手に信を置き、本来の力を発揮すれば、十分にひっくり返せると踏んで、やるべきことの中身を整理して再チャレンジさせる道を選んだように思う。

後半の日本はくさびの縦パスを果敢に入れ、前線の選手も斜めに走ったり、守備ラインの裏に出たりするアクションがどんどん増えていった。それにつれてタッチのテンポもどんどん上がった。イラン戦でも見せた、日本の結束する力、融合する力、理解する力、規律の高さ。「こういうふうにやっていこう」と衆議一決したら、本当にそのとおりにやっていける。アジア、いや、世界と戦う上でも、これは日本の貴重な美質だろう。

4年に一度のアジアカップは他チームの進展を知る貴重な機会でもある。決勝で日本を下したカタールは素晴らしいチームだった。得点王になったアリ以外にもボランチのアッシム・オメル・マディボのような、フランス代表のエンゴロ・カンテをほうふつとさせるタレントがいた。

10年12月の国際サッカー連盟(FIFA)理事会の投票でワールドカップ(W杯)22年大会のホストに決まってから、カタールはぶれずにタレントの発掘と育成と強化を一貫してやってきた。ここには「アスパイア・アカデミー」という国丸抱えの育成組織があり、トレーニング環境は非の打ち所がない。今回のカタール代表も7割くらいはこのアカデミー出身と聞いた。

そのアカデミーで手塩にかけて育てた選手をフル代表まで持ち上がり、初のアジア王座を手にしたのがスペイン人のフェリックス・サンチェス監督だった。

同監督はカタールで3年前に開催したU-23(23歳以下)アジア選手権で4位になり、3位までに与えられたリオデジャネイロ五輪の出場権を逃した。日本は優勝して切符を手にしたが、もし、あのとき、3位決定戦で1-2でイラクに敗れた責任をサンチェス監督に負わせ、解任していたら、今回の栄光はあっただろうか。

人を育てた国だけが勝てる

あのときの悔しい思いをサンチェス監督は見事に晴らしたわけだが、あそこで監督を代えなかったカタール協会も立派だったと思う。一人の監督を信じ、指揮を委ね続けたことで今回大輪の花を咲かせた。

アジアカップで優勝し、表彰式で歓喜するカタールのイレブン=共同

カタールの優勝は人を育てた国だけが勝てるということを如実に示すもの。目先の成功ではなく、成長を意識して未来への投資を欠かさない国だけに栄冠は訪れる。国や人口の大小で勝負は決まらない。カタールの成功はそんな大きな刺激をアジア全域に与えたことだろう。

今大会ではキルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンといった中央アジア勢の台頭も感じた。東南アジア勢も着実に力をつけている。1次リーグでフィリピンが韓国を0-1と苦しめたことには驚かされた。タイとベトナムは決勝トーナメントに進み、ベトナムは日本を準々決勝で苦しめた。

昨年1月のU-23アジア選手権で準優勝したベトナムは、そのときのメンバーが日本戦の先発に6人いた。控え組も入れると13人。アンダーエージの大会で自信をつけた若者たちだから、フル代表の日本にも臆せず立ち向かってくるわけで、こういう芽がこれからどこまで伸びるか楽しみである。

今大会は出場チーム数を16から24に増やしたことで、開幕前は力の差が目につく大会になるのではと心配していた。始まってみると大差の試合は少なく、アジア全体のレベルアップを示す結果になった。

日本を苦しめたベトナムの強化には、代表監督だった三浦俊也氏が深く関わった。誇らしいことである。そして、今もアジア全体の底上げに貢献するため、日本からたくさんの指導者が派遣され、育成段階からフル代表まで、さまざまなポジションで活躍されている。北マリアナ諸島、カンボジア、ミャンマー、フィリピン、東ティモール、ブータン、タジキスタンなどがそうだ。

今回のアジアカップは各チームの力の差が縮まっていることを痛感させた。いつまでも目標であり、手本とされる日本サッカーであるために、こちらも不断の努力を欠かせない。

(サッカー解説者)

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