高級食パンが広げる市場 イベントや愛好家サイトも

高級食パンの人気が高まり、パンに注目が集まっています。パンに関連するイベントが各地で開かれ、パンの愛好家が集まるサイトも誕生しています。
高級食パン人気の先導役は2013年に東京・銀座で開業した食パン専門店「セントル ザ・ベーカリー」や大阪発祥で全国に展開する「乃が美」などで、素材や製法の独自性を競い合っています。2斤を千円近くで販売している専門店が多く、順番待ちの人が店の外に並んでいる光景をよく目にします。
食品やヘルスケア関連のPRを手掛けるエムスリー・カンパニー(東京・渋谷)はパン愛好家のコミュニティーサイト「パンめぐ」を運営し、サイトの会員が投稿した記事を掲載しています。松本淳社長は「都心の人気店に地方から高級パンを買いに来る人もいる。愛好家にとってパンの購入はレジャー感覚で、熱量の大きさを感じた」とサイトを立ち上げた動機を説明します。同社によると、あるパン専門店では顧客の平均購入額は2000~4000円。「レジャーとしては割安で、手軽に楽しめる」と分析しています。
高級パン人気は他の商品にも波及しています。カネカの子会社、カネカ食品は昨年春、パン専門店向けに「パン好きの牛乳」を発売しました。北海道の生乳を使い、後味がパンと合うように工夫した商品で、量販店などにも販路を広げています。
業界推計によると、食パンの売上高は国内のパン全体の売上高の1~2割にあたる3千億円強で、ここ数年、ほぼ横ばいです。業界紙、パンニュース社の矢口和雄社長は「パン全体の売上高も1980年代前半から横ばい。日本人が夕食にパンを食べるようにならない限り、傾向は変わらない」とみています。
そんな中で、専門店による高級食パンの売り上げはすでに年間100億円を上回っているもようです。矢口社長は「贈答用にする人も多く、専門店は新市場の開拓に成功した。食のブームは2~3年で終わりがちだが、いつまで人気が続くのか注目している」と話しています。
製パン業界も動き出しています。業界最大手の山崎製パンは今年1月、上質な小麦粉を使ったプレーン食パン「クリーミーゴールド」を発売しました。「最高の品質とおいしさ」をうたうゴールドシリーズの新商品です。宮沢良明マーケティング部次長は「専門店の高級食パンは『非日常食』として売り上げを伸ばしている。当社は高齢者らの日常食となる高級食パンを提供したい」と強調します。飽和気味の市場で健闘する高級食パンは、個人消費を伸ばすには何が必要か、多くのヒントを与えてくれます。
宮沢良明・山崎製パンマーケティング部次長「小麦本来の食感楽しめる」
専門店の高級食パン人気を、大手パンメーカーはどう受け止めているのでしょうか。山崎製パンの宮沢良明マーケティング部次長に聞きました。
――昨今の高級食パン人気をどうみていますか。

「セブン&アイ・ホールディングスが2013年に発売した『セブンゴールド 金の食パン』はほぼ1年半にわたり、売り上げが急増しました。当初、6枚切りの1斤が250円で、通常の約2倍の値段でした。我々には想像もつかない製品でしたが、パン専門店で300円くらい支出するのは当たり前という人が多いのだから、上質な食パンなら値段が高くても売れるという同社の読みが的中したのです。その後、少し下火になりましたが、18年に入ると専門店による高級食パンの人気が一気に高まり、再び高級食パンが注目を集めるようになりました。大阪発祥の『乃が美』が火付け役だとみています」
「『金の食パン』と現在の専門店による高級食パンには、『食べ口』が違う部分があります。私の主観になりますが、『金の食パン』はバターのコクやうま味といった一口食べると分かりやすい味わいがありますが、現在の高級食パンは上質な小麦粉の良さを引き出すことをメーンに製造している感じがします。水分が多く含まれ、小麦本来のもっちりとした食感が楽しめます」
――専門店の高級食パン人気の先行きは。
「高級食パンは消費者の嗜好に合ったので人気が出ましたが、主食として食べるというよりは、お土産にして誰かに喜んでもらったり、週末のぜいたくで食べたりとか、購入の仕方が非日常的になっています。過去の歴史を振り返ると、ずっと続いた食ブームはありません。1990年代には、車で移動販売する焼きたてのメロンパンがはやりましたが、やがてブームは去りました」
――御社のパン出荷の現状は。
「当社のパンの売り上げのうち菓子パンが約50%、食パンは約15%です。パン全体の売り上げは伸びていますが、食パンは横ばい傾向です。若い世代などが朝食を菓子パンで簡単に済ませるようになってきているからです。食パンをトースターに入れて3分間、焼き上がるのを待つのなら、小分けされたスティック状の菓子パンを子どもに与える方が手軽です。カルシウムや野菜がしっかり入っている菓子パンも多く、食パンは少しずつ敬遠されるようになっています」
――高級食パンの市場が広がる中で、御社はどう対応していますか。
「高齢者らの間にはお米よりパンの方が調理に手間がかからないとの声があり、上質で食べやすい大きさの食パンを求めています。当社は4年前から上質な小麦粉を使った通常より小さめな食パン『ゴールドシリーズ』を出しています。今年1月にはプレーンタイプの『クリーミーゴールド』を発売し、高級食パンの需要に応えようとしています」
(編集委員 前田裕之)
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