人工衛星の姿勢制御を国産部品で 天の技

2019/2/13 6:00
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NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

東京・大田区に宇宙関連スタートアップが誕生した。人工衛星用の部品を手掛ける、天の技(Amanogi、東京・大田)だ。ベンチャーキャピタル(VC)のみらい創造機構(東京・千代田)などから5000万円の出資を受け、本格始動。衛星の姿勢を検知する装置で国産メーカーとして成長を目指す。

工藤CEOは一軒家にクリーンルームを入れて開発を進める

工藤CEOは一軒家にクリーンルームを入れて開発を進める

閑静な住宅街の一軒家。中に入ると、部屋の片隅に小さなクリーンルームが設置されていた。「ネット通販で買って自分で組み立てた」と笑うのは天の技の工藤裕最高経営責任者(CEO)。2017年10月に同社を設立した。

クリーンルーム内で開発するのは、人工衛星に搭載するための「スタートラッカー」と呼ばれる姿勢制御装置だ。カメラやコンピューターを内蔵しており、打ち上げ後に周囲を撮影した画像から星を抽出して星座標と照らし合わせ、衛星が向いている方向や位置のずれを高い精度で計算する。小型衛星を専門とする東京工業大学の研究室と共同開発し、実証段階に入った。

狙うのは小型衛星向けの市場だ。気象観測や放送用に使われる大型衛星と比べて開発費が安くビジネス利用がしやすいことから、小型衛星は民間での開発が盛んだ。一方、工藤CEOは「国内のスタートアップや大学が打ち上げる衛星は部品のほとんどを海外から調達している」と指摘する。

経済産業省の調査によると、日本勢が手がける衛星の構成部品のうち6割が輸入品だという。半導体など基幹部品を除けば海外依存が大きい。特に小型衛星向けのスタートラッカーは国内メーカー不在で、調達コストが1個1000万円以上と負担が重いのが課題となっている。

天の技が開発した小型衛星向けの姿勢制御装置

天の技が開発した小型衛星向けの姿勢制御装置

天の技が初の国産スタートラッカーとして手掛ける装置は小型衛星向けに特化する。市販品の宇宙利用や半導体技術を生かし、開発期間やコストを従来品の半分以下におさえた。現在長さ20センチほどの大きさも最終的には「5センチくらいにする」(工藤CEO)という。

同社のスタートラッカーは宇宙航空研究開発機構(JAXA)が1月18日に打ち上げたイプシロンロケットに搭載された実証衛星に採用された。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの助成金も獲得し、20年の受注開始に向けてアクセルを踏み始めている。

「専門分野は宇宙と関係ない」という工藤CEOは、東工大を卒業後にNTT研究所に入った。遠隔操作ロボや光通信を研究し、半導体メーカーでは微細加工装置の開発を経験。転機となったのは、宇宙月面探査を目指すスタートアップ、アイスペース(東京・港)に加わった16年ごろだ。月面探査機「HAKUTO(ハクト)」のカメラや電装部分、環境試験に携わり、宇宙ビジネスの可能性を目の当たりにした。

スタートアップを筆頭に民間主導で宇宙開発が活発になったことで、アイスペースも大型資金を獲得。同社の規模が大きくなるなか、「もっと自分で色々やりたい」との思いを強くした工藤氏は独立を決意し、17年に天の技を立ち上げた。

大田区に拠点を構えたのは、大学時代から出入りしていた地元の町工場に近い点を考慮したためだ。同区の誘致で格安の家賃で一軒家を借りられることも決め手となった。現在はアドバイザーをつとめる東工大教授に加え、兼業社員2人が加わる。

18年12月には、東工大系VCのみらい創造機構と、ものづくり関連のVCのダルマテックラボを引受先とする第三者割当増資を実施した。起業から間もない「シード」段階で、融資や助成金以外の資金調達は初めて。本格的な資金調達で事業に弾みをつける。

調達資金は半分をスタートラッカーの開発費にあてるが、残りは次の事業展開に向けた基礎固めにつかう。工藤CEOは目指す将来像を「部品メーカーではなく、衛生データビジネスを手掛ける会社」と描く。

衛星から見た地球の画像データ分析は、物流や農業などで潜在的なニーズが大きい。すでに地表の海や砂漠を判別する認識システムも同時に開発中で、人工知能(AI)を宇宙に打ち上げる構想を描く。姿勢を計算するスタートラッカーの開発はそれに向けた布石だ。

宇宙業界では、部品単位でも宇宙に行ったという実績が今後の販売を左右する。「いきなり衛星画像の解析をやってもうまくいかない」ため、まずは部品で実績を積み、システムと一体で商用化。画像解析の精度を高め、23年ごろには「AI衛星」と呼ぶ画像解析用の衛星を自社で打ち上げる方針だ。

(企業報道部 薬文江)

[日経産業新聞 2019年2月8日付]

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