2019年3月21日(木)

道路や遊園地の混雑、宇宙から観測 QPS研究所

日経産業新聞
コラム(ビジネス)
スタートアップ
2019/2/13 6:30
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NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

テーマパークや高速道路の最新の混雑状況をスマートフォン(スマホ)のアプリで即確認――。宇宙スタートアップのQPS研究所(福岡市)は、こんな地図データを提供できる地球観測衛星を開発する。九州大学で培った技術力と地場企業との連携を武器に、新たなデータビジネスを生み出そうとしている。

開発する人工衛星は重さ100キログラムと小型にし、製造費用を数億円に抑える(イメージ)

開発する人工衛星は重さ100キログラムと小型にし、製造費用を数億円に抑える(イメージ)

「目指しているのはリアルタイムに更新され続ける『グーグルマップ』だ」。大西俊輔社長(32)はこう語る。開発するのは地表を細かく観測できる80センチメートル四方の超小型の人工衛星。これを数十基使って地球観測網を構築し、人や交通の流れがリアルタイムでわかるデータを企業に販売するビジネスモデルを描く。すでに国内の大手IT企業などが興味を示しているという。

カギを握るのは、地上の物体を見分ける能力、衛星同士の連携、コストの3点で、いずれもQPS研究所は競争力があると自負する。

まず見分ける能力。一般的な地球観測衛星は太陽が照らす地表をカメラで撮影するため、雲に覆われていると観測できず、夜間もデータが取りにくい。この弱点を克服したのが合成開口レーダー(SAR)と呼ぶ装置を搭載する衛星だ。マイクロ波を地表に当て、反射した電波から画像データを生成する仕組みで、同社のSARは地上の1メートルの物体を見分けられるほど解像度が高い。

また、多くの人工衛星を連携させて運用する仕組みは「コンステレーション」と呼ばれる。QPS研究所は、地球のほぼ全域を観測できるように、36基を打ち上げ、コンステレーションを構築する計画。4つの軌道に9基ずつの衛星を配置。東京や米ニューヨークなど衛星画像の需要が見込める大都市では、10分おきに衛星が上空を通るようにして情報を更新していく考えだ。

さらに、衛星を安く作る目算があるのも強みだ。重さ100キログラムと小さく軽い衛星にして、製造費用を数億円に抑える。レーダー衛星は従来、電波を送受信する機器が多くの電力を消費する。返ってきた電波を受信するアンテナも大きくなりがちで、重量1トンほどの大型SAR衛星は製造に数百億円かかっていた。

QPS研究所の大西俊輔社長は佐賀県出身。「九州に宇宙産業を根付かせたい」と語る

QPS研究所の大西俊輔社長は佐賀県出身。「九州に宇宙産業を根付かせたい」と語る

衛星のパラボラアンテナの工夫が低コストを可能にする。QPS研究所のパラボラアンテナは開くと直径3.6メートルと大きく、効率よく電波を受信する。一方、ダイニングテーブル程度の大きさの超小型衛星に搭載できるよう、アンテナを巻くようにして小さく折り畳める構造を開発した。網目状の金属など軽い素材を使い、アンテナ部分の重さはわずか15キログラムだ。

こうした技術力の基盤になっているのは九州大学の研究者らだ。QPS研究所を創業したのは九大の八坂哲雄名誉教授や、三菱重工業で長くロケット開発に携わった船越国弘氏。九大で20年以上続けた小型衛星の研究開発を継承するのが目的だった。

「やめておいた方がいい」。大西氏は九大大学院の博士課程まで八坂教授らに宇宙工学を学び、2013年に卒業後、QPS研究所に加わろうとした。だが船越氏など一部が反対。いつ利益が出るのか見通せない衛星開発では、未来ある若者の生活を保障できないという親心からだった。

もっとも大西氏は「仲間とこのまま九州で頑張りたい」と引き下がらず、入社。14年からは社長を務め、プロジェクトを先頭で引っ張る。

同社の衛星作りを支えるのは地場の金属や機械の加工会社だ。7割ほどの衛星部品は九州で調達しているという。最初から知見が集まっている訳ではなく、八坂氏らが九大で衛星を開発するなかで地場の企業に部品の製造を依頼し、徐々にノウハウがたまってきた。例えば電気系統部品を担う昭和電気研究所(福岡市)は宇宙航空研究開発機構(JAXA)にも部品を納めるまでになっている。今では九州北部の約20社が、衛星を設計する段階から相談に乗り、アイデアを出す。

資金調達も順調で、19年前半にも海外でSAR衛星の1号基の打ち上げを予定する。すでに20年に打ち上げる2号基のロケットも契約済みだ。最短で24年にも36基体制を実現したい考えだ。

衛星1基あたりの製造費用を抑えているものの、観測網の完成までに数百億円と多額の資金が必要になる。優れた技術力を生かし、画像データの販売というビジネスも素早く展開できるか。社名のQPSは「九州・パイオニアーズ・オブ・スペース」の意味。スタートアップとしての革新力に加えて、九州勢のネットワークの底力も問われる。

(企業報道部 山田遼太郎)

[日経産業新聞 2019年2月13日付]

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