オタク女子ってニャに? 劇団雌猫に学ぶ(日経MJ) - 日本経済新聞
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オタク女子ってニャに? 劇団雌猫に学ぶ(日経MJ)

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NIKKEI MJ

アイドルや声優に浪費するオタク女子の生態を描いた「浪費図鑑」。おしゃれが苦手な人も含め女性が化粧する理由に迫った「だから私はメイクする」。これまでにない切り口で女性の消費を描いた本が話題を呼んでいる。著者は1989年生まれの女性4人によるユニット「劇団雌猫」。オタク女子の消費パワーに注目が集まる昨今、劇団雌猫に聞けば、オタクだけでなくアラサー女性の消費者像も浮かび上がってくる。

罪悪感からオタク女子を解放

「私が今日紹介したいのはアイロンヘッドという芸人で……」。1月下旬、東京・表参道近くの飲食店。劇団雌猫の読者イベントが開かれた。読者はアイドルやお笑い芸人など自分の推し(応援する対象)を順番にアピール。会場には推しのグッズを置いて"布教"できるコーナーもある。

「ここは罪悪感なく趣味の話ができる」。漫画「ゴールデンカムイ」に登場する鯉登少尉推しの千葉市の30代女性会社員は話す。「(劇団雌猫の著作は)お金を使うことにポジティブ。自分がやっていることが肯定できる」(ジャニーズJr.の川島如恵留さん推しの横浜市の19歳)。他で理解されないことを理解してもらえると様々なオタクが集う。100人を超すことも少なくない。

劇団雌猫は2016年にオタク女子が財布事情を告白する同人誌『悪友vol.1 浪費』が話題となり、翌年に「浪費図鑑」(小学館)として書籍化。18年はまんが版や続刊も出した。推しのスポーツ選手のために数十万円かけスペインまで応援に行くなど「オタク女子のマインドを伝えよう」(劇団雌猫のひらりささん)と共感を得た。

「だから私はメイクする」(18年、柏書房)はオタクに限らず、ファッション誌に登場しないような女性のおしゃれ観を浮き彫りに。同人誌を除く書籍は計10万部超。3月に「一生楽しく浪費するためのお金の話」(イースト・プレス)も出す。

「浪費は愛」 ブーム生む

オタク女子はその消費パワーが昨今注目されている。アイロンヘッドの追っかけの30代女性会社員は月の手取り15万円の半分をつぎ込む。視聴率は低いが熱量の高いファンが支え、映画化にまで至ったテレビ朝日のドラマ「おっさんずラブ」など、彼女らが巻き起こすブームは少なくない。

矢野経済研究所の調査では、オタク市場の規模(男女問わず)は17年度が5683億円と推計される。アイドル、同人誌など15分野のみで、お笑い芸人やスポーツ選手などのオタクは含まない。オタクという言葉のカジュアル化も進み、コスメなどにも対象が拡大。オタク的要素から消費者を見る必要も高まっている。

だが、企業は彼女らをマーケティング対象としてしっかり捉えているだろうか。劇団雌猫のかんさんは「オタク女子を狙って失敗している企画って多い。考え方を理解していない」と断じる。

「無駄遣い」「内向き」は誤解

生活費と折り合いをつけた上で推しにつぎ込んでいるのに無駄遣いだと批判。一方で若者は消費しないという論調――。そんな固定観念がアプローチを間違わせる。

人気アイドルグループ「嵐」が20年末に活動を休止するが、推しの「卒業」に直面する彼女らの行動も、ひとくくりには語れないという。

劇団雌猫によると最近のオタク女子は「グッズを買い支える」「SNSで発信する」などの手法で推しへの愛や誠意を示しやすくなった。浪費でも悪でもなく愛や誠意だから、彼女らの生態をちゃかすようなマーケティングは失敗して当然だ。

型にはまらぬ消費者が増えるなか、至る所で誤解が生まれている。アラサー女子にリーチしようとしてネットで炎上する企業も少なくない。劇団雌猫の著作の人気は、企業が多様化する消費者像をつかみきれていない裏返しなのかもしれない。

劇団雌猫の4人にオタク女子やアラサー女子のライフスタイルの見方などを聞いた(敬称略)。

心理や空気感、おじさんも知って

――「浪費図鑑」「だから私はメイクする」などと、著作はいずれも話題を呼んでいます。

ひらりさ「今、インターネットの方が不自由なんです。コンサートで良い席とったとつぶやくと『自慢だ』とたたかれ、美容に関するツイートも『ブス』とたたかれる」

ユッケ「若手俳優のジャンルでもそう。プレゼントボックスにこんなもの入れていたとか、かわいくないとか、たたくための掲示板がある」

ひらりさ「匿名でもあつれきを生むから、ネット上では慎重に生きて、オフラインの方が話せる(から、オタク女子の生態を描けた)」

もぐもぐ「(オタク女子は)ツイッターでは好きなジャンルのことしか話さない。私も観劇はわかるけどソシャゲガチャ(ソーシャルゲームのガチャで課金する人)はわからなかった。ならばまとめようと。(著作は)目に入らないクラスターを知ることができる」

既存女性誌へのアンチテーゼ

――どんなメッセージを伝えたかったのでしょうか。

ひらりさ「『だから私はメイクする』はファッション誌のオルタナティブ(代替)。ファッション誌(の土俵)に乗れない人をすくい取る」

もぐもぐ「同人誌『悪友』のテーマは、アンチ『暮しの手帖』。丁寧な暮らしではなく、自分たちが乗れるものをつくろうと。キラキラしたものとは違う、皆が思っているものを言語化した」

かん「キャリア女性誌は節約を教えているが、浪費女子は使うことをやめられない。ライフスタイル誌とも人生で大切なものが違う」

もぐもぐ「キャリア女性誌の成功している女性の話も画一的すぎてつまらない。仕事も家庭も目指す像が大変で、生きにくい。これまでオタクの生態で求められていたのは破産物語とか、離婚とか。そういう人はいるにはいるけど、オタク女子を描いていない。生活と折り合いをつけている」

「緩いリベラル 他人も肯定」

ひらりさ「年何万円使ったとか、金額自慢にしたくなかった。いくら使ったかにかかわらず、マインドの部分を伝えようと。オタク女子は緩いリベラル。好きなものを追求し、人のことを否定しない」

――著作はアラサー女性の考え方を知るヒントにもなりそうです。

もぐもぐ「消費心理、(好きなものへの)愛の注ぎ方、こういう時代の空気感、お金のかけ方が見られるラインアップで、『もてるために化粧してねーよ』とか、おじさんに読んでもらいたい」

ひらりさ「オタクの女の子の悩みはオタク特有のことではない。今までのアラサー本や、(結婚や恋愛に踏み切れない)『タラレバ女子』は規範に寄って行かせようという話。そうではなく、今の楽しさを維持しながら折り合いをつける生き方があっていい」

「規範」の押し付け イヤ

――どうすればオタク女子、アラサー女子の心をつかめるでしょうか。

もぐもぐ「ママになって子どもと特撮番組にはまるのと、そういう生き方があるからオタクのあなたも結婚したらというのは違う。規範に当てはめようとか、こうなりたいんだろうと押しつけがましくしないでほしい」

かん「今、歌姫がいないように、ロールモデルはいない。オタク女子を狙って失敗した企画も多い。ビジネスでもこの世代はこうと決めつけず、目線に降りて話を聞き、理解することが必要だ」

――読者イベントも定期的に開いています。

かん「私たちも好きなジャンルはばらばら。ならそういう人が集まって隣の『沼』(好きになりすぎてどっぷりつかったジャンル)を知ろうと」

ひらりさ「今はやっているジャンルをリアルタイムでわかる」

ユッケ「オタク女子がお金をためる方法をテーマにした時は、私も衝撃を受けた。稼いだ分だけ使ってちゃいけないと」

――オタク女子に対する世間の見方は変わっていますか。

かん「『浪費』って言葉はネガティブなイメージだったけど、『浪費図鑑』もあって最近はポジティブに変わったかな」

ひらりさ「あなたが思っているよりも、オタクは多い(笑)」

もぐもぐ「オタクも推しに誠意を伝えよう、グッズを買って愛を示そうとなってきた。おっさんずラブもそう」

ユッケ「AKB48の総選挙システム登場後、アイドルも変わった。私が好きなジャニーズJr.も、AKB後のメンバーは1対1で向き合ってファンサービスしている。その前はパフォーマンスを通じ、俺対ファン5万人という感じだった」

「むしろ打たれ強い」

――オタク女子への誤解も多いと思います。

もぐもぐ「『抑圧から隠れるオタク』のアイデンティティーを持つ読者もいる。でも、服も化粧も、推しにお金を使うのも好きな人も多い。実生活もオタ活も楽しむ」

かん「推しが引退とかショックなことが多いから、むしろ打たれ強い」

ユッケ「上司に1日怒られてもへこたれない」

ひらりさ「(特撮オタクを描くNHKドラマ)『トクサツガガガ』の主題歌の歌詞がいい。ちゃんと働いているから趣味くらい好きにさせろっていうメッセージがある」

(小林宏行、山田彩未)

[日経MJ2019年2月6日付]

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