北方領土大会、ロシアへの配慮前面に 「不法占拠」「北方四島」言及避ける
「北方領土の日」である7日に開いた北方領土返還要求全国大会で、大会アピール(声明)のなかに例年盛り込んでいる「北方四島が不法に占拠され」との表現が使われなかった。安倍晋三首相は昨年はあいさつで使っていた「北方四島の帰属問題」との言葉を避けた。平和条約交渉を進めるにあたり、ロシア側を刺激しないようにとの配慮を前面に出した。
大会は政府が地方自治体や民間団体と共同で毎年開いている。首相はあいさつで「課題の解決は容易ではないがやり遂げなければならない」と強調。「相互に受け入れ可能な解決策を見いだすための共同作業を力強く進める」と述べた。
今年の大会は例年に比べ、様々な場面でロシアへの配慮が目立った。
採択したアピールでは「不法に占拠」という文言がなくなり「解決がこれ以上長引くことを断じて許すわけにいかない」という従来の表現も避けた。決意表明は昨年の「北方四島の早期返還の実現を目指し行動」から「北方領土問題の解決を目指し行動」に変わった。
首相は昨年まで交渉の基本方針を「北方四島の帰属問題を解決して平和条約を締結する」と述べていたが、今年は「領土問題を解決して平和条約を締結する」と発言。「北方四島」という言葉を使わなかった。
「固有の領土」という言葉は、岸田文雄前外相が出席した2015年から外相のあいさつには毎年盛り込んでいた。だが、河野太郎外相はあいさつでこの表現を避けた。
ロシアでは今、プーチン大統領が日本との平和条約交渉の加速に同意する一方、国内では領土交渉に反発する世論も根強い状況だ。ラブロフ外相はこうした国内情勢も背景に「(北方領土の)主権がロシアにあることを含め、第2次世界大戦の結果を日本が認めることが第一歩だ」などと主張。「北方領土」という呼称にも反発を示している。
日本側は不法占拠状態が続いているとの立場は変えていないが、公開の場で真っ向から反論するのを控えている。刺激すればロシアの平和条約交渉に慎重な層を勢いづかせ、交渉の障害になるとの懸念があるためだ。
「北方四島」の言葉を避けた背景にも、ロシア側の警戒を解く狙いが透けて見える。日ロ両政府は「平和条約締結後の歯舞群島、色丹島の引き渡し」を明記した1956年の日ソ共同宣言を平和条約交渉の基礎としている。日本政府内ではまず歯舞・色丹の主権を確定させ、その後で国後・択捉の2島でロシア側から何らかの譲歩を引き出す「2島プラスα」案も浮上している。
過去にも、北方領土返還要求全国大会での首脳の発言が日ロ関係に直接影響した事例がある。
11年の大会で、当時の菅直人首相が前年のメドベージェフ大統領の国後島訪問を「許しがたい暴挙」と批判したことにロシア側が反発。メドベージェフ氏は対抗措置として北方領土の軍備増強を指示した。直後の前原誠司外相とラブロフ外相の会談もとげとげしい雰囲気となった。
国会でも政府の慎重姿勢は目立つ。首相は6日の参院予算委員会で、国民民主党の大塚耕平代表代行の「北方領土は日本固有の領土であることに変わりないか」との質問に「わが国が主権を有する島々だ」と答え「固有の領土」との言葉は使わなかった。首相は16年や17年の答弁では「固有の領土」と語っていた。
返還運動が盛んな北海道根室市などが7日開いた大会でも「島を返せ」と書いたたすきの着用をやめた。担当者によると「平和条約締結の動きを静かに見守り、後押しするためだ」という。
河野氏は来週末、ドイツのミュンヘンでラブロフ氏と会談する。6月には首相と20カ国・地域(G20)首脳会議で来日するプーチン氏の会談が予定されている。