2019年6月20日(木)

「私はアイドル」 地下の舞台で夢を育てて
ドキュメント日本

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コラム(社会)
2019/2/10 18:43
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事務所のプロデュースを受けず、アイドルを自称する女性たち。地下のライブハウスを活動の舞台とすることから「地下アイドル」とも呼ばれ、東日本大震災の後、にわかに増え始めたという。毎夜どこかで開かれるライブにはコアなファンが集まり、声援を送る。彼女たちが体現しているものとは何だろうか。(筒井恒)

アイドルユニット「ラパンエール」の2人(東京都新宿区)

アイドルユニット「ラパンエール」の2人(東京都新宿区)

東京・四谷にある雑居ビル。2018年の年末、地下のライブハウスは異様な熱気に包まれていた。スポットライトと大音量の音楽のなかで「アイドル」たちが踊り、客をあおる。この日、広いとはいえないステージに立ったのは11組。自前の衣装、オリジナルの振り付けで持ち時間20分を全力で使い切る。

ときおり絶叫調の声援が起きる客席の年齢層は幅広く、50代とおぼしき男性の姿も見えた。Tシャツ姿で汗だくになりながらペンライトを振りつづけている。

ライブ終了後、2人組ユニット「ラパンエール」の兎乃(うの)結衣さんと美羽えりさんがファンと談笑しながら、グッズを売っていた。ともに20代だが、実年齢は非公開。岐阜県出身の兎乃さんは、秘書の仕事をしながらライブを続ける。自宅は6畳の1K。マットレスに小さなテーブルとテレビがあるだけだ。ここで美羽さんと2人、ステージの練習をする。

距離感の近さがファンをひき付ける

距離感の近さがファンをひき付ける

「周りもだいたいバイトや仕事と掛け持ち、というコが多いと思う」

兎乃さんたちのようなアイドルが今どれくらいいるのか数をつかむのは難しい。経済学者でアイドル研究家でもある上武大、田中秀臣教授は「東日本大震災の後に地下アイドルが一気に増えた。会いに行ける~をコンセプトに掲げたAKB48が売れた影響が大きい」。

「会いに行ける」から「自分にもなれる」と思考を広げる人が出てきたという。音楽ソフトを使えば、作曲は簡単、SNS(交流サイト)でライブも配信できる。お金をかけずにアイドルを自称できる環境も裾野の拡大につながった。

手作りのパフォーマンスはむろん粗削り。スターダムを夢見る人からアイドルを趣味として楽しむ人まで混在し、歌やダンスのレベルにはかなりの差がある。

ダンスの練習は1Kの自宅で

ダンスの練習は1Kの自宅で

兎乃さんは名古屋で所属していたアイドルグループが解散。その後「なんとなく」上京し、アルバイト先で美羽さんと出会う。自室でスエットを着て練習する様子は「手作り」そのものだ。でも兎乃さんは「トップを目指す。地下アイドルとは呼ばれたくない」という。

四谷のライブ会場で会った男性ファンは「距離が近い分、自分がプロデュースして育てている気分になれる」。「本業は地下アイドルの追っかけ」と笑う大手化学メーカー勤務の男性(37)は「完璧じゃないところがいい」と魅力を語る。会社は窮屈、ライブが発散の場だ。

未完成な彼女たちがどう成長するのか見守りたい――。ファンをひき付けるのはそんな心理か。「この中にきっと原石がいる」。化学メーカーの男性はアイドルたちと一緒に撮った100枚近い写真を見ながら、そう話していた。

かつて、社会を映すように少数のアイドルが流行をつくり、若者らは熱狂した。地下劇場を足がかりにする女性たちと、自分だけのアイドルを探すファンの関係は、「大衆」が失われた「個」の時代の断面といえる。

◇  ◇

■膨張するアイドル市場

矢野経済研究所によると、CDやグッズなどによるアイドル市場は2017年度の推計で2100億円に上る。16年度比で12.3%増。ジャニーズやAKB48などのファン層が市場を支えるとともに、新しいアイドルが次々と参入し、市場は拡大傾向にある。
 同社による「オタク」に関する消費者アンケートではアイドル関連へのファン1人当たりの年間消費金額は18年の調査で10万3545円。17年比で17%増えた。アイドルビジネスの収益はCDやライブチケット、グッズなどの物販が柱だ。握手会のチケットなどを付加価値としてつけることで消費を促す。
 ライブではアイドルと一緒に写真を撮れる特典もある。撮影は1回500~1000円かかるが、撮影したファン限定で開かれるクジ引き大会などを目当てに参加する観客が多い。

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