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門は狭くなる一方 馬主の晴れ舞台

2018年の中央競馬で活躍した人馬を表彰するJRA(日本中央競馬会)賞の表彰式が1月28日、東京都内のホテルで開かれた。競馬関係者なら誰もが目標とするこの晴れ舞台には、ほかの競技と大きな差がある。スポットライトを浴びるのが馬主という点だ。主役のはずの馬をホテルに連れてくるわけにもいかないし、言葉も話せないから、代わって馬主が「関係者代表」として栄誉に浴する。JRA賞で競走馬部門の表彰式に立つのも、G1のレース後に勝ち馬の手綱を取る(「口取り」と呼ぶ)のも、馬主にとっては無上の喜びだが、近年は晴れ舞台への門はかなり狭くなってきている。昨年の平地G1勝ち馬の所有関係を整理すると、そのあたりが見えてくる。

JRA賞授賞式で年度代表馬などに選ばれたアーモンドアイの関係者らと騎手大賞を受賞したクリストフ・ルメール騎手(前列右端)=共同

過半数はクラブ法人所有馬

今回の表彰式の主役は、クラブ法人「シルクレーシング」の米本昌史代表だった。アーモンドアイが4つのG1を含め重賞のみ5戦5勝。満票で年度代表馬に選出されたばかりか、暮れの有馬記念でG1初制覇を果たしたブラストワンピースも、最優秀3歳牡馬に選出された。馬主の賞金ランクも14年の6位から「5位→4位→4位」と来て昨年は2位に。獲得賞金は30億円を突破する大躍進だった。表彰された2頭はノーザンファーム(NF)の生産。「シルク」はNFから主に馬の供給を受けており、NFの独り勝ちが進むとともに浮上した。現在、主にNF生産馬を扱うクラブ法人はシルクのほか、「キャロットファーム」がある。

キャロットはシルクと同様、2頭の部門表彰馬を出した。最優秀4歳以上牡馬のレイデオロ、最優秀4歳以上牝馬のリスグラシューで、昨年は賞金ランク3位にとどまったが、14、16年は1位。最優秀ダート馬ルヴァンスレーヴを所有する「G1レーシング」は、10年創設のクラブ法人で、同馬は社台グループ傘下の白老ファーム生産。結局、表彰馬9頭中5頭がクラブ所有だった。

クラブ法人は日本独特の存在で、資産要件など馬主登録のハードルが高いのを利して勢力を伸ばした。クラブには2つの法人があり、1つは馬主登録された法人で、もう1つは「愛馬会法人」と呼ばれる。愛馬会法人は会員を募って出資金を集め、その資金で生産者から馬を取得し、馬主法人に現物出資する。出資会員は引退まで維持・管理費用も出して馬を支えるが、彼らには馬主資格がない。資格がないと、競馬場の馬主席や検量室などに立ち入りができず、以前はレース後の表彰式にも参加できなかった。今は人数を限って参加できるが、馬主とは待遇がかなり異なる。

セレクトセールが唯一の道?

一方、非クラブ馬は4頭で、最優秀短距離馬ファインニードル(引退)はアラブ首長国連邦ドバイのシェーク・ムハンマド首長の競走馬法人「ゴドルフィン」の所有。ムハンマド首長は世界規模の大馬主で、資金力でNFに対抗できる数少ない存在。同馬は傘下のダーレー・ジャパンファーム生産で、「個人」と呼ぶのが適切かどうか、疑わしい。

異彩を放つのは障害と平地の「二刀流」で話題を集めたオジュウチョウサン(最優秀障害馬)の長山尚義氏(名義は「チョウサン」)で、長山氏は大手クラブ法人の活躍馬に数多く出資していた人でもある。残る2人は2歳馬部門。牡馬のアドマイヤマーズは近藤利一氏、牝馬のダノンファンタジーは野田順弘氏(オービック会長=名義は「ダノックス」)で、ともにNFの生産。日本競走馬協会主催「セレクトセール」で、アドマイヤマーズは1歳時に5200万円(税抜き、以下同)、ダノンファンタジーは1歳時に9000万円の値がついた。個人馬主がJRA賞の表彰台に立ちたければ、セレクトセールでNF生産馬を買うのが早道なのだが、問題はあまりに競合が激しく、価格も割高な点である。

第70回阪神ジュベナイルフィリーズを制したダノンファンタジー(手前)=共同

昨年行われた平地G1(24戦)の勝ち馬を見ても、傾向は大きく変わらない。クラブ法人が13勝で、うち10勝はNF生産馬。このほか、馬主が生産者を兼ねる例もある。短距離G1を2勝したファインニードルがこのパターン。社台ファーム生産で吉田千津氏(吉田照哉・社台ファーム代表の夫人)所有のノンコノユメも該当する。ただ、同馬は以前は別名義だった。

名義上の生産者ではないが、限りなく「生産者馬主」に近い例も2件ある。日本ダービー馬ワグネリアンの金子真人ホールディングス(HD)。金子氏は同馬の優勝で、過去15年中ダービー4勝という離れ業を演じたが、実は父も母も祖父母も全て自身の所有だった。生産者はNFだが、実際は自ら生産したに等しく、近年の金子真人HDの活躍馬にはこのパターンが多い。NHKマイルカップ優勝のケイアイノーテック(父ディープインパクト)は、亀田和弘氏所有。亀田氏は母馬のケイアイガーベラを所有し、生産者の隆栄牧場(北海道新冠町)に同馬を預託している。

つまり、昨年の平地G1を勝った20頭中、14頭はクラブ法人所有か、馬主が生産に関わっていたケースと考えられ、単純に馬主が買った馬は6頭。安田記念優勝のモズアスコットは米国産でセリでの取引記録がなく、価格も明らかでないが、残る5頭はすべてNF生産でセレクトセールで購買された。最高額は大阪杯でG1初制覇を飾ったスワーヴリチャードで、0歳時の価格が1億5500万円。安い方のレインボーライン(天皇賞・春)でも5000万円。この程度は出さないとG1は勝てないという話だが、もっと出してもなかなか勝てなかった人もいる。16年菊花賞のサトノダイヤモンドが初のG1勝ちだった里見治氏(セガサミーHD会長=現在の名義はサトミホースカンパニー)はここ数年、セレクトセールで高額馬を買い続けたが、結果が出るまで時間を要した。

お買い得だったアーモンドアイ

一方、昨年のクラブ法人側の活躍馬を見ると、募集価格は意外に高くない。アーモンドアイは3000万円(6万円×500口)、ブラストワンピースは2000万円(4万円×500口)。普通の競馬ファンに手が届きそうな額で、実際は5口、10口と購入する会員も多いという。非社台グループ生産のクラブ所有馬としてただ1頭、G1を勝ったエポカドーロ(皐月賞=ヒダカ・ブリーダーズ・ユニオン所有)は、もともと0歳時にセレクトセールで3400万円でクラブが購入した馬だが、募集時は500口で1口9万円。アーモンドアイとブラストワンピースがいかにお買い得だったかがわかる。出資者にすれば一生もののホームランだが、悲しいかな、JRA賞の表彰式のような晴れの場に立てない。逆にいえば、馬主ほどの権利がない分、募集価格を低く設定することでバランスを取っている面もあるのだ。

18年のクラブ所有のG1勝ち馬
アーモンドアイジャパンCなど4勝シルクR6×5003000
エポカドーロ皐月賞ヒダカBU9×5004500
ジュールポレールヴィクトリアMG1R110×404400
フィエールマン菊花賞サンデーR250×4010000
レイデオロ天皇賞・秋キャロット15×4006000
リスグラシューエリザベス女王杯キャロット7.5×4003000
ステルヴィオマイルCSサンデーR100×404000
ルヴァンスレーヴチャンピオンズCG1R60×402400
ブラストワンピース有馬記念シルクR4×5002000
サートゥルナーリアホープフルSキャロット35×40014000
(注)R=レーシング、BU=ブリーダーズユニオン。数字は募集価格、口数、総額の順で単位万円
18年のセリ出身勝ち馬
スワーヴリチャード大阪杯NICKS15500
レインボーライン天皇賞・春三田昌宏5000
ミッキーロケット宝塚記念野田みづき9200
ダノンファンタジー阪神JFダノックス9000
アドマイヤマーズ朝日杯FS近藤利一5200
エポカドーロ皐月賞ヒダカBU3400
(注)いずれも日本競走馬協会「セレクトセール」で購買。価格は税抜きで単位万円

同じクラブ法人でも、SRは1頭を40口に分けて募集する。昨年の菊花賞を勝ったフィエールマンは1口が250万円(募集価格1億円)で、安い馬1頭の価格に匹敵する。昨年10月に行われた北海道市場の「オータムセール」では、250万円以下で購買された馬が236頭もいた。だから、SRや社台ファーム系列でやはり40口募集の「社台レースホース」には、馬主予備軍や既に馬主登録のある人も数多く参加している。強い馬で脚光を浴びたい人なら、クラブ出資は現実的な選択肢といえる。

「非社台」で成功した有名人

昨年の競馬にNF一色、クラブ法人一色の印象が強かったのは、キタサンブラックの引退とぶつかった影響もある。同馬は北海道日高町のヤナガワ牧場の生産で、馬主は歌手の北島三郎氏(名義は「大野商事」)。非社台グループ生産で個人馬主所有の組み合わせは、近年の活躍馬としては極めてまれな属性だった。同馬はセリを経ない個別購買だが、血統的に途方もない値段だったとは思えない。2000人を超える中央の馬主は、心のどこかでこんな成功の「何分の一でも」と夢見ているはずだが、NF1強体制の固定化で、夢は遠のく一方だ。

そんな中で近年、不思議な存在感を示すのが「コパノ」の冠の小林祥晃氏。風水に関する多くの著作で知られ、馬主としては非社台グループ生産馬で大魚をものにしている。14年高松宮記念のコパノリチャード、14、15年フェブラリーステークス優勝のコパノリッキーで中央のG1を3勝。両馬ともキタサンブラックと同じヤナガワ牧場生産で、コパノリッキーは地方のG1級も9勝。また、セリで300万円だったラブミーチャンは岐阜・笠松からデビューし、09年の地方の年度代表馬に選定。2億5840万円を稼いだ。現在、重賞連勝中のコパノキッキングは、2月17日のフェブラリーステークス(東京・G1)に、藤田菜七子騎手(21)騎乗で参戦予定。無事に出走すれば、中央の女性騎手では史上初のG1騎乗となる。同馬も17年3月に米フロリダ州の調教済み2歳馬セールで10万ドル(約1090万円)で購買され、1億5000万円近く稼ぐなど、馬運のよさや費用対効果の高さは驚くばかりだ。藤田起用は話題づくりの色彩が濃いが、常に目先の結果を追求し、外国人騎手に集中するクラブ法人とは対照的で、個人馬主ならではの選択といえそうだ。

(野元賢一)

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