不正送金検知の深層学習実験、情通機構が金融機関と連携
情報通信研究機構(NICT)は2019年2月1日、複数の金融機関が連携して不正送金の検知精度を向上させる実証実験を始めると発表した。「5社以上の金融機関と連携して、検出精度80%以上を目指す」(NICTサイバーセキュリティ研究所セキュリティ基盤研究室室長の盛合志帆氏)。実験に参加する金融機関を募集し、準備が整い次第実験を始める。21年度までの実用化を目指す。


今回の実証実験は、NICTが開発した深層学習技術「DeepProtect(ディーププロテクト)」を利用する。DeepProtectの特徴は、暗号化したままで加算と乗算の両方が可能な完全準同型暗号を使い、複数の組織が実施した学習の結果を暗号化した状態のまま集約し、学習結果を更新できること。「暗号化したままでも精度はキープされる計算になる」(盛合氏)という。
このため、取引データなど外部に提供するのが難しいデータについても、プライバシーを保護したまま学習の結果を集約できる。「今までのように生データを使う必要がない」(NICT理事長の徳田英幸氏)。自社だけでは十分なデータが集まらない場合でも、複数の組織が協力し合うことで深層学習の精度を向上させられる。

具体的な実験の流れは次のようになる。実験に参加する金融機関同士で、不正送金の検知を学習するためのニューラルネットワークのモデルをあらかじめ共有しておく。各金融機関は自社の取引データを使い、モデルの学習を進める。その学習後のモデルについてパラメーターを暗号化してNICTの中央サーバーに送信する。中央サーバーは各金融機関から集まってきた学習モデルを暗号化したままマージして、さらに学習を進めた暗号化モデルに更新する。更新後の暗号化モデルをフィードバックすることで、各金融機関ではより精度の高い分析が可能になる。
(日経 xTECH/日経NETWORK 根本浩之)
[日経 xTECH 2019年2月1日掲載]
関連企業・業界