2019年7月18日(木)

ブラジル鉱山ダム決壊、汚泥が町のみ込む 現場から

2019/2/2 2:46
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1月25日にブラジルで発生した鉱山ダム決壊事故が深刻な被害をもたらしている。事故発生から1週間後の31日の時点で死者は110人を数え、行方不明者は238人となった。有害物質を含んだ汚泥が下流に流れ込み、環境汚染も深刻な状況だ。ダムを保有する鉄鉱石世界最大手ヴァーレは3年前にも同様の事故を起こしており、責任問題が問われている。

「気がついたら家が泥だらけになって、このありさまだ」。ブラジル南東部ブルマジニョ。ダムの下流の集落に住んでいたジョナタン・ウィルケル氏は家具が撤去され水浸しとなった家の中で、やけくそ気味に笑う。家は川まで数十メートル離れていたが、ダムの決壊により、土砂を含む濁流が押し寄せた。

家や自動車は半分泥で埋まり、家の中からは上流で流された遺体が発見された。ウィルケル氏の家族は無事だったが、「もうここには住めないだろう」と肩を落とす。窓の外は汚泥が埋め尽くし、はえが飛び交い異臭が漂う。橋が落ち道路が寸断されただけでなく、川の流域を含む地形そのものが変わっており、被害の大きさを物語る。

ブラジル史上最悪のダム事故の発生を受け、国内ではダムを保有するヴァーレの責任を問う声が広がっている。2015年にも同社が出資する鉱山が決壊事故を起こし、19人が死亡したばかり。にもかかわらず、適切な対策をとってこなかった疑いが持たれている。

今回決壊した鉱山ダムはコストを抑える工法で造られていることが判明している。採掘の際に使われる薬物の廃液や土砂などをせき止めるための堤防は後から積み重ねて増築されたもので、建築コストが安い半面、もろさが指摘されていた。ダムが老朽化していたにもかかわらず、前回の事故後、安全対策などが見直された形跡はない。

また、決壊後も下流への警告がなかったことなどずさんな管理とあいまって、人災と非難する声は多い。ウィルケル氏は「ヴァーレが安全よりも目先の金を優先した結果がこれだ」と憤る。

事故の全容解明には時間がかかりそうだが、ヴァーレの経営責任は免れない。既に裁判所などは資産凍結を指示しており、これを受けてヴァーレは配当の支払いを停止した。株価は事故前から約2割減の水準で推移しており、約550億レアル(約1兆6000億円)が消失した。既に鉱山幹部やダムの安全性検査にあたった協力会社の社員など5人が文書偽造や殺人容疑で逮捕されている。

もっとも、ヴァーレにだけ責任を押しつけるわけにもいかない。国家資源監督庁によると、ダムの検査官はブラジル全国にわずか35人しかいない。前回の事故を受けても政府が企業に検査を丸投げする体制は変わらず、結果として事故を防ぐことができなかった。ブラジルには今回事故を起こしたものと同様の鉱山ダムが790カ所存在し、対策が急務であることは間違いない。

ダムの下流の町では、茶色く染まった川を心配そうに見つめる人々が橋の上にたたずんでいた。「20年前まで鉱山で働いていたが、こんなことになるとは思わなかった」と75歳の男性はつぶやく。今回の事故の犠牲者の大半はヴァーレや協力会社の社員だ。鉄鉱石で栄えた町の惨状は、ブラジル経済を支える資源産業の負の側面を映し出している。(ブルマジニョで、外山尚之)

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