2019年9月20日(金)

一戸建てで掘り起こすベトナム中間層

2019/2/3 9:00
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NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

昨年10月。ベトナム・ホーチミン市ビン・チャン区。背丈を超える雑草をかき分けながら大きな牛が悠然と歩を進めていた。そこにトヨタ自動車のフォーチュナーで乗り付けてきたのがクリード社長の宗吉敏彦。街の一角を指さしながら宗吉は同行した投資家に自信満々でこう言い放った。「2019年9月までに整地し、その年の年末からインフラの工事を始める」

BC27プロジェクトでは全部で1351戸の戸建てを開発する。

BC27プロジェクトでは全部で1351戸の戸建てを開発する。

ビン・チャン区はホーチミン市の中心部から西に15キロメートル。そのビン・チャン区の一角、宗吉が指さした草むらは東京五輪が終わる翌2021年、クリードとその提携先であるアンギアによって生まれかわる。

プロジェクト名は「BC27」。まだ単なる仮称だが、すでにベトナムの不動産業界での注目度は高い。27ヘクタール。東京ドーム6個分近くという広大な敷地に1351戸の一戸建てを建設する巨大プロジェクトだ。注目されないほうがおかしい。

広さだけではない。一番広いところで幅40メートルの幹線道路を敷設し、電柱や電線を地下に埋設する景観配慮の街はベトナムではまだまだ珍しい。共用広場にはプールや公園、ジムのほか保育所なども設ける予定だ。「これだけの広さで統一感のある街はしばらくでてこないだろう」とクリード社長の宗吉。

ただ、驚くのはこの戸建てが中間所得者向けだということだ。周辺の工業団地にバイクで働きに出ている人たちへの販売を検討しており、価格にしてせいぜい1戸あたり1400万円。高くても2000万円はしない。「出した分はすぐ売れるはず」(社長の宗吉)。分厚い中間所得者を狙うという宗吉の戦略は、一戸建てでも揺らがない。

実際、BC27があるビン・チャン区はホーチミン市の中心部から車で30分程度離れた古い町で中間所得者も多い。2キロメートル離れたところにイオン3号店や病院、学校などもあり地の利も決して悪くないとはいえ「資産価値の高いエリアではない」(ベトナム駐在員事務所長の山口真一)。

それでもそれだけの土地を中間所得者向けの開発プロジェクトとして採算の合う価格で仕込める日本のデベロッパーはなかなかいない。いったいクリードはなぜ、それができたのか――。それはクリード自身がベトナムの不動産市場に入り込んでいるからだ。日本のデベロッパーが東南アジアで事業展開する場合、資金だけを提供、現地での事業は出資先に委ねるケースが少なくない。

しかし、クリードは違う。設計から販売、資金調達までプロジェクトにがっちり入り込む。BC27の用地もプロジェクトで地元の大手デベロッパーNBBと組み、別のプロジェクトを進めていたところ、NBBがビン・チャン区で地上げしていた土地を売却したがっているという情報をキャッチしたのだった。

BC27プロジェクトの予定地。2019年9月までに整地して第1期販売を始める(ベトナムホーチミン市)

BC27プロジェクトの予定地。2019年9月までに整地して第1期販売を始める(ベトナムホーチミン市)

BC27の場合、この土地がなければプロジェクトは成立しなかった。例え地元のアンギアを使ったとしてもホーチミン市でBC27プロジェクトほどの土地を一からまとめ上げる力はまだない。反対に最初からまとまった1枚の土地だったなら大手資本が高値で落札してしまう。クリードがNBBの動きを独自ルートで入手、仕掛かり品の用地情報を取得できたからこそ、できたプロジェクトなのだ。

マンションにしても戸建てにしても不動産業は「立地8割」。これはベトナムも日本も同じだ。用地の有無、そしてその用地の優劣がプロジェクトの成否を左右する。いかに地元に食い込み、用地情報を吸い上げていけるか。それこそがその土地でプロジェクトを継続していくための要諦なのだ。

しかし、BC27プロジェクトは成功が決まったわけではない。山はまだまだこれからも続く。なにしろ一戸建て1000戸超。量が量だけに一気に売るのは難しい。27ヘクタールを3つに分け、3期で売る。第1期は19年9月から20年1月まで。さらに20年9月までの第2期で全体の7~8割をさばく。そして最後の第3期は20年9月から21年1月までかかる見込みだ。

それぞれ数百戸ずつ売るが、1期ずつ値上げしていく計画。2期は1期よりも10%、3期はさらに10%を引き上げる。

そして8割売れてしまえば後は無理に販売を急がない。残り2割は利益分。できるだけ利益を厚くするために顧客の反応を探りながら引き上げていく。

プロジェクトは特別目的会社(SPC)を通じて展開するため、投資家への配当を一定水準、確保することはクリードにとって最優先課題の1つだ。BC27プロジェクトも、投資家への配当ベースのIRR(投資収益率)は20%程度だ。

IRR20%は今の日本ではあり得ない。しかし、地価が上昇し続けているベトナムなら可能だ。このギャップこそ、クリードの存在意義と言える。

現在、日本の不動産の価格はほぼ天井。オフィスや賃貸マンション向けの用地は高すぎて手が出ない。収益率の高いホテルに切り替え用地を購入するところもあるが、それもそろそろ難しくなりつつある。

勢い投資マネーは海外に向かう。クリードが吸い寄せているのはそうしたマネー。日本の銀行が国内の不動産デベロッパーに融資し、その資金を今度はその国内デベロッパーがクリードを通じて海外のプロジェクトに投資する。

09年、クリードは会社更生法の適用を申請、11年に更生計画を終了した。大手銀行は「再びクリードと取引してくれるようになった」(社長の宗吉)。しかし、それだけでは足りない。今後、海外事業で大きく展開していくには投資資金をいかに引き寄せてくるかが課題となる。そのためにクリードはプロジェクトの成功を積み上げていく必要がある。

=敬称略

(シニア・エディター 前野雅弥)

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