2019年5月23日(木)

ダイソンが示す英の憂鬱(一目均衡)
欧州総局 篠崎健太

2019/2/4 15:02
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コードレス掃除機などで知られる英国の家電大手ダイソンがシンガポールに本社を移すと表明した。かねて有望とみてきたアジアに軸足を移す成長戦略だ。英国の欧州連合(EU)離脱と「関係ない」との説明はおそらく事実だろう。だが気鋭のテクノロジー企業の脱出は英産業界の緩やかな地盤沈下というEU離脱のリスクを暗示している。

英ダイソンは本社をシンガポールに移す(ジム・ローウェンCEO)=ロイター

英ダイソンは本社をシンガポールに移す(ジム・ローウェンCEO)=ロイター

「最もチャンスの大きい地域の将来性を確実につかむためだ」。1月22日、2018年の通期業績に関する記者向け電話説明会で、ジム・ローウェン最高経営責任者(CEO)が不意に本社移転の計画を明かした。EBITDA(償却前営業利益)が5年続けて過去最高という本題を押しのけ質疑の大半がこれに割かれたのは言うまでもない。

17年9月に電気自動車(EV)参入をぶちあげた同社は先般、生産をシンガポールで行うと発表していた。ローウェン氏はその際に「高成長市場やサプライチェーンへのアクセス、高度な熟練労働者を提供してくれる」と利点を強調していた。すでに利益の過半をアジアで稼ぎマレーシア、フィリピンなど各地に研究や生産拠点を持つ。急成長する市場に近いだけでなく、優秀なエンジニアが豊富な点も魅力に映っている。

現在、本社とする創業地の英南部ウィルトシャー州には研究拠点があり近郊にEVの試験コースも整備中だ。英国を捨てるわけではなく、むしろ投資や人員は増やすというが、今の時期に有望な成長企業から国籍離脱を宣告された英国の痛手は大きい。

メイ首相は外に開かれた「グローバル・ブリテン」になると訴えてきた。EUのくびきを外れて世界と自由貿易協定(FTA)を結び、経済の繁栄をめざすという。ところが「合意なき離脱」の懸念が募るなか、金融機関などが拠点や人員を英国外に移す動きは止まらない。移民制限など内向きな空気が嫌われ、優秀な人材が集まりにくくなるとの懸念も強い。

英ロンドン大学キングスカレッジのジョナサン・ポルテス教授は、ダイソンの決定はEU離脱を考える上で教訓になると言う。メイ首相が掲げる移民抑制は優秀な個人や企業の呼び込みに深刻な悪影響を与えかねないと指摘する。「EUとの開かれた関係を最大限保つことが必要。つまるところダイソンが長く訴えてきた移民規制の緩和だ」

ダイソンは本社移転の理由として否定するが、シンガポールの会社になれば低税率の恩恵も受ける。EU離脱にあたり英国でも「税や規制体系の再検討が必要なことを思い出させた」(英経済問題研究所のエイミー・ホースクロフト氏)との声が聞かれる。

市場の関心はEU離脱で無秩序な状況が避けられるか否かに注がれている。通貨ポンドは延期の可能性を織り込んで持ち直してきた。だが現状ではどんな離脱であれ産業基盤を傷める公算が大きい。ダイソンの脱出は徐々に危機が進行し手遅れになるリスクを示唆する。過去の栄光に安住している場合ではない。

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