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必死な姿を笑ってほしい 『いだてん』の中村と阿部

日本人で初めてオリンピックに参加した金栗四三と、日本にオリンピックを招致した田畑政治。2人の姿を通し、日本人とオリンピックにまつわる秘話を描いていく『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』。主演を務めるのは、中村勘九郎と阿部サダヲ。異色の大河ドラマに挑む意気込みを聞いた。

阿部サダヲ(右)2007年『舞妓Haaaan!!!』で映画初主演。18年は映画『音量を上げろタコ! なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』などに出演した。中村勘九郎(左)12年六代目中村勘九郎を襲名。19年4月6日から『第三十五回記念 四国こんぴら歌舞伎大芝居』に出演(写真:藤本和史)

中村 歴史ある大河ドラマの主役と聞いたときは、うれしさよりも、僕に務められるかなという思いがありました。以前『新選組!』(2004年)に出演させていただいたときに、香取慎吾さんをそばで見ていて、大変だろうなと思っていたので。でも、金栗さんのエピソードをうかがったり、彼にまつわる本を読み、宮藤官九郎さんの脚本を読んだら本当に面白くて、「これは大丈夫だ」と感じました。ただ、これをどう演じればきちんと伝えられるかというプレッシャーは湧いてきました。

阿部 僕が初めて大河ドラマに出演したのは、勘九郎さんのお父様の中村勘三郎さんが主演された『元禄繚乱』(99年)だったんです。1話のみの出演でしたが、勘三郎さんの立ち振る舞いを見て、大河の主役ってこういう方なんだなと思ったのを覚えています。そのときに勘三郎さんから、「今、君のところ(大人計画)の舞台が面白いんでしょう? うちにチケット送ってよ」って声をかけていただいたのがきっかけで、公演に来てくださったり、宮藤さんが歌舞伎を書いたりするようになって。勝手にご縁を感じていて、今回は勘九郎さんと一緒というのがうれしいです。主役だからどうこうということではなく、不思議な感情になっています。僕はまだそれほどガッツリとは撮影に入っていないので、勘九郎さんに「大河の主役って大変ですか」って聞きたい(笑)。

中村 金栗さんはとにかく周りにサポートしてもらう、「主役なのかな?」っていう感じのキャラクターなので、いわゆる大河の主役らしくはないんですが(笑)。すごく楽しいですね。

阿部 脚本はとても宮藤さんらしいと思いました。日常会話の掛け合いの面白さは、この作品でも発揮されていますし、2つの時代の話が展開して、そこに落語が絡むっていうのも。

中村 ラストが落語の演目のオチになっているんですよね。あと、宮藤さんの脚本にはト書きがない。そこを想像しながら作っていく楽しさもあります。

大河ドラマ史上、一番地味な主人公?

金栗は熊本出身の"いだてん"と呼ばれたマラソン選手、田畑は新聞社で政治記者をしながら、地元の浜名湾でコーチとして日本水泳の礎を築いた人物だ。

中村 金栗さんは純粋な人ですね。人間くさいというか。金栗さんの出身地である熊本に「とつけむにゃあ」っていう言葉があるんです。とんでもないっていう意味で、金栗さんはまさにとつけむにゃあ人。良い意味で走ることしか考えていない。それが一貫して書かれているので、僕もマラソンのことだけを考えて演じています。

阿部 真っすぐで本当に一途な人なんだよね。

中村 大河史上、こんな主人公はいないです。衣装も大河って甲冑(かっちゅう)をはじめ、いろいろと豪華じゃないですか。ところが僕が着ているのは、大体ユニフォームか体操着ですから(笑)。一番地味だと思います。

阿部 そこは、安あがりですね(笑)。田畑さんは頭の回転がとても速い方で、プロデュース能力や言葉の力も優れているし、もともと新聞記者だから、言葉でガンガン攻めていくタイプ。だけど、「そこ行くんだ」というか、直談判が多かったりして、常識的ではないところもあります。周りが止めるのが大変だったでしょうし、周囲の人が温かく見守っていたんだろうと思います。

『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』「オリンピック」の言葉も知らずにマラソンの予選会で世界記録を樹立し、笑顔で生涯を走り続けた金栗四三と、平和の祭典としてのオリンピックに魅了された田畑政治の物語。2人が一緒に登場するシーンもある(日曜20時/NHK総合)

中村田畑さん、めっちゃ面白いです。今、前半と後半のちょうど分かれ目あたりを撮影していますが、田畑さんはいきなり他人を批判しますから。

阿部 びっくりするよね(笑)。どこでも噛みつく珍しいキャラクター。後半は田畑さんの水泳の話になるんですけど、勢いがすごいです。視聴者の方には熱い思いを見ていただきたいですね。

中村 僕はほとんど走ってばかりいるので、阿部さんは僕の何倍かのセリフ量があるんじゃないですか。1回だけで、僕の24回分に匹敵するぐらい。

阿部 ヤバイよね。金栗さんはマラソンの呼吸法をやるけど、僕は呼吸を忘れてしゃべり続けて息切れするシーンがあって、それをどうやろうかと頭を悩ませています。周りから「息継ぎしろ」って言われるぐらいですからね。コワイですけど、今から。僕は金栗さんの方言も好き。

中村 驚いたとき、「ばっ!」って言うんですよね。いろんなパターンの「ばっ!」が出てきます。

阿部 スヤさんとの夫婦の関係もそうだけど、すごくかわいらしいんだよね。

娘さんの言葉で胸がいっぱいに

撮影前に、中村は熊本の金栗の親族の元を訪れた。そこでの出来事も、演じる上で支えになっているという。

中村 金栗さんは遠縁の親戚・池部家に養子に入りますが、玉名市にある池部家で3人の娘さんにお会いしたんです。僕は天然パーマなんですけど、金栗さんもそうで。僕が池部さん宅に向かって畑を歩いて行ったら、「お父さんが帰ってきたごたる(=帰ってきたようだ)」って言っていただけて、胸がいっぱいになりました。あと、僕の脚を見て、お父さんに似ていると言ってくださって。うれしかったですね。

阿部 僕も田畑さんの出身地の浜松に行きました。地元の方に聞くと、みなさんがご存知なわけではなくて。同じ浜松出身では、「フジヤマのトビウオ」と呼ばれる古橋廣之進さんがいらっしゃって、古橋さんの記念館でちょうど田畑政治展をやっていたから見に行ったんですけど、コーナーが小さかったんです(笑)。それで「よし、頑張ろう」と思いました。でもそこに、田畑さんと金栗さんが一緒に並んでいる写真があったので、撮ってきました。

中村 本当ですか? その写真見たいです。

阿部 じゃあ後でね。僕は田畑さんの奮闘をもっと知ってもらえるように頑張ります。

中村はマラソンの走り方を基礎から学び、阿部は日本泳法を覚えて撮影に臨んだ。

(写真:藤本和史)

中村 金栗さんの走り方も映像で見せてもらって。マラソンといっても撮影だからまあ大丈夫でしょ、と思っていたら、大きな間違いでした。天敵はドローンです。あんなものを使われたら、どこまででも撮れてしまう。熊本ロケでみかん畑を走る場面があったんですが、全然カットがかからない(笑)。でも楽しかったです。ストックホルムロケでも、「こんなところは絶対に本編では使わない」っていうところから走らされまして(笑)。でも映像がすごいことになってるって聞いたので、仕上がりが楽しみです。

阿部 僕も早く見たいです。勘九郎さん、痩せて真っ黒になったよね。アスリートみたいに食事も変わったでしょ。

中村 はい。マラソンランナーの体を作らなきゃいけないので。つらいシーンと言えば、金栗さんは虚弱体質で、冷水浴がいいと言われてずっとやるんですが、1話に2回くらいそのシーンがあって。毎回すっぽんぽんなんですよ(笑)。

阿部 今度は衣装がない(笑)。

中村 締まっていない体は見せられないので。体型キープっていうのも結構大変です。

阿部 僕は選手を諦めて監督をする側なので、泳ぐシーンはそんなにないんです。お腹にあんこ入れてるぐらい太ってる状態。日本泳法ってずっと顔の片側を上げて泳ぐんですけど、指導の先生に「阿部さんはこちら側を向いたほうがやりやすいですね」って練習してたのに、本番では反対向きで撮影することになって。沈みかかってちょっと落ち込みました(笑)。

日曜8時のNHKに笑いを

この見どころの詰まった『いだてん』で自分たちなりの大河が提示できればと意気込む。

阿部 金栗さんは絶対にメダルが取れると言われていたのに結局取れなかったり、田畑さんも東京オリンピックの招致に尽力しながら、結局最後は組織から外れて、客席から見ることになるんです。成し遂げていない人たちが主人公というところが僕は好きだし、感銘を受けています。

中村 印象としては大河っぽくないですが、スポーツの歴史が分かり、史実に基づいていますし、やっぱり大河なんです。そしてすごく笑えて面白い。登場人物もみんなチャーミングですし、悲運にめげない人たちの希望の物語を届けたいです。

阿部 日曜8時のNHKにたくさんの笑いを持ち込みたいですね。"笑える大河"というと軽く聞こえるかもしれないですが、一生懸命やっている人たちの姿は本当に微笑ましいです。必死な姿を見て笑っていただきたいです。

(ライター 田中あおい、内藤悦子)

[日経エンタテインメント! 2019年2月号の記事を再構成]

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