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パウエルFRB議長会見、「状況把握できるまで様子見」

米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は30日、米連邦公開市場委員会(FOMC)の終了後に会見した。

我々の目標は米国民の利益のために労働市場の強化と物価安定をもたらす経済成長を維持することだ。米景気の状態は良好であり、それを維持するために金融政策をツールとして使っていく。労働市場は強固な状態を維持し、失業率は歴史的低水準で賃金上昇率も堅調だ。インフレ率は2%の目標水準近くで推移している。米経済は2018年よりも成長が鈍化しているものの、19年も堅調なペースで拡大するとみている。現在の金融政策のスタンスは適切であると我々は判断している。

こうした前向きの見通しがあるものの、過去数カ月間にいくつかの逆風や我々の見通しに相反する景気のサインも散見される。海外には経済成長の鈍化が目立ってきた主要国もある。とくに中国と欧州だ。また政治的解決策が出ずに不透明感が高まっている問題もある。英国のEU離脱、貿易摩擦を巡る交渉、米国の政府機関の部分的閉鎖の問題がそれだ。18年終わりには金融市場がかなりのレベルで逼迫し、18年の初めまで享受した成長率を維持するのが難しくなった。これまでのところ発表された経済指標は堅調だが、企業経営者や消費者の信頼感を示す指標は低下を示しており、注意する必要がある。

我々の金融政策はデータ次第であるということはいつも強調している。言い換えれば経済の動向や見通しが変化するのに伴い、そうした新しい情報を踏まえて金融政策を設定するということだ。現在、我々は堅調なマクロ経済と矛盾するような状況に直面し、それを証拠づける逆風も垣間見られる。こうした局面での常識的リスク管理のやり方は、状況が明確に把握できるまでは様子見をすべきだということだ。これは金融政策当局者が過去にも経験したアプローチだ。その上で、米連邦公開市場委員会(FOMC)がこうした問題をどう見ているかをここで披露したい。

12月の会合では着実な経済成長と旺盛な雇用増、物価安定という堅調な見通しを示した。また、金利引き上げの規模とタイミングは不透明であり、データと変動する見通し次第であることも表明した。そのため、我々が世界景気の見通しと金融市場の状況を注視しながら我が国の経済見通しを分析するという立場を示した。

本日、過去数カ月間にこうした変化が積み上がった結果、将来の金融政策の変化については様子見のアプローチをとることを決定した。それは本日発表した声明文で次のように強調した。「世界経済と金融市場の動向、インフレ圧力が低い状況に照らして、将来のフェデラル・ファンド(FF)金利の誘導水準をどう調整するかを決定する際にFOMCは様子見をする」

経済見通しの基盤がシフトしたからこの変化が起こったわけではない。多くのエコノミストと同様に我々も「持続的経済成長と強固な労働市場、インフレ率は2%を維持する」という可能性が高いとみている。しかし、前述した逆風のためにやや好ましくない見通しのリスクが高まったといえる。

加えて、金利を引き上げる必要性がやや低下したともいえる。超低金利があまりにも長く続いた場合にもたらされるリスク、とくにインフレ高騰のリスクから経済を守るというのが利上げをする伝統的なケースだ。しかし、過去数カ月間にこのリスクは明らかに縮小した。インフレ率は低下し、先ごろの原油価格の下落によって、今後さらにインフレ率全体が下がることが予想される。さらに声明文で示したように、聞き取り調査ベースのインフレ期待は安定しているものの、ブレークイーブン・インフレ率という金融市場の利回りで測ったインフレ率は低下傾向となっている。同様に金融市場におけるリスク投資への意欲は昨年以降、平常水準に戻っており、金融市場の不均衡のリスクも低下している。

こうした環境の下では、金融政策の変更をする前に現状分析をする上で辛抱強い姿勢で景気をサポートするのが最良の選択だと確信している。

ここでバランスシートの平常化の議論に移りたい。過去3回の会合でFOMCはこのプロセスの最終段階についての詳細な議論をした。きょうの会合では、今後のこのプロセスを明確する上で重要な成果を得た。これはいつもの声明文と一緒に発表した「金融政策実施とバランスシートの平常化についての声明文」で要約した。

FOMCは本日、金融政策の施行のための現行の操作手順を無期限に継続するという基本的な決断をした。これは、準備金の積極的な管理を必要とせず、準備金に対する金利によって政策金利を管理する方法だ。これは「フロアシステム」や「豊富な準備金システム」と呼ばれる。現在の一連の操作手順の下では、連邦準備銀行の準備金に対する金利を適切に設定することとオーバーナイト・レポ金利によって、FF金利を目標レンジ内にとどめており、準備金の供給量の積極的な調整はされていない。

最近のFOMC議事要旨が示すように、FOMCは、このアプローチが様々な市場環境において短期のマネーマーケット金利をうまく管理できる方法だと強く信じている。この点を明確にすることで、バランスシートの正常化に関するさらなる疑問を議論する道が開ける。

 現行の操作手順を維持することは、最終的なバランスシートのサイズが、主に金融機関の準備金に対する需要によって決まることを意味する。準備金に対する需要の予測は不確実だが、危機後の需要は過去の水準をはるかに上回る。調査や市場情報によると、現在の準備金需要は1年前よりもかなり高い。これは、ポートフォリオサイズの正常化が以前の推定よりも早く完了し、(最終的な)バランスシートのサイズもより大きくなることを意味する。

これらの推定と準備金の減少における相当な進展を踏まえ、FOMCは現在、バランスシート縮小停止の適切なタイミングについて審査している。この決断は、我々の義務の達成を阻むリスクを最小限にし、不必要な市場の混乱を避けながら、最終的なバランスシートの目標に徐々に近づく計画の一部となるだろう。

バランスシート正常化のプロセスは前例がない。このプロセスにおいて我々は十分に前もって計画を立てるよう努めてきた。そして、プロセスを学ぶにつれ、計画を変更をすることに前向きだ。今回の正常化と施行に関する声明は、今後我々が計画を変更をする場合の条件を明確にすることを目的としている。

声明は3つの点を挙げている。第1に、FF金利が我々の積極的な金融政策ツールであること。第2に、正常化の詳細について、経済や金融の発展を踏まえて変更することをためらわない。これは、我々がバランスシートを積極的な政策ツールとして使うことを意味するものではないが、時折の変更は正当化される。第3に、幅広いシナリオにおいて、FF金利が我々の積極的なツールであることに変わりはないが、FF金利だけでは不十分となる経済環境が再来する可能性も認識している。この場合、FOMCはバランスシートを含み、全てのツールを活用する準備がある。

経済の不確実性はFOMC政策に対する透明性や予測可能性の重要性を高める。我々は政策金利の見通しやバランスシートの管理について、我々の行動とその理由を説明することにコミットしている。我々はマクロ経済の安定に最も貢献できるのは透明性だと信じている。

――現在の金融政策は中立か、一段の緩和が必要か。

「現在の金融政策は適切な状態で、政策金利はFOMCが中立と推定する水準の範囲内にある」

――国際通貨基金(IMF)は米国と世界経済が悪化するリスクを指摘している。

「我々は景気の基盤やリスクについて広範な議論をした。金融市場の状況は逼迫気味で、世界景気は減速し、英国のEU離脱や貿易摩擦、米政府の一部閉鎖からの影響などもリスクになっている。そうしたリスクを相殺するために我々は金融政策を使うのだ。景気の基盤は堅固であると我々は認識している。リスクに対処するための方策の一つが景気の基盤についての認識を修正することだ」

――現在のインフレの状況についてどうみる。

「一般的にみてインフレ動向は好ましい状況といえる。様々な(景気にとっての)逆風はしばらく続くとみられるが、我々のスタンスは適切だと考える。政策を変更する必要性はなく、決断を急ぐ必要もない。物価安定と完全雇用という我々の使命のために、インフレ動向も含めて総合的なデータを注視していく。インフレ目標は2%を達成することだ」

――金融政策の次の動きは利上げかそれとも利下げか。

「すべてはデータ次第だ。現時点での判断はしない。逆風はしばらく続くとみられ、米景気の見通しに関連してそうした逆風がやむのを見るのが状況を判断する上での重要な側面だ」

――逆風がやむのと低インフレの状態がなくなるまでは様子見姿勢を解くことはできないのか。

「一般論で語るのは難しいが、低インフレに関連していうなら、一段の利上げができるような状態が必要だ。そのためにはインフレ率が上がる必要がある」

――バランスシートの縮小の議論はしたのか。

「FOMCメンバーは、金融政策を構築する上でバランスシートをこれ以上大きくする必要がない水準にするという長期的な目標を達成するための計画を作成することを検討した。しかし、そのためにはその目標が損なわれたり、不必要な金融市場の混乱を招いたりしないことが重要だ」

「例えば当初のバランスシート平常化の計画をした際には時間をかけ、最良のアイデアを優先し、それをテストし、議論し、行動に移すことが問題ないと思えるようになるまで話し合いが必要だということを学んだ。このプロセスを今、実行したいとは思わない。様々な異なる要素からなるこのプロセスを踏む時期はまもなくやってくるだろう。今の時点でどれだけの規模ならバランスシートが均衡した状態かという推計を披露するつもりはない」

――保有債券の再投資の際に債券の償還期限を変更する可能性は。

「バランスシートの債券の構成を考えることは重要で、いずれは議論することになる。これは最優先議題ではなものの、重要事項だ。これについては直近2回のFOMCで議論した。しかし最終的な結論には達していない。異なるアプローチには利益とコストがつきものだが、それ以上のことは言及を控えたい」

 ――インフレ率が金融政策変更の理由になるとしているが、前回の会合の時点から何が変わって今回利上げをしない背景になったのか。

「中国と西欧を中心に世界景気の減速が続いていること、また、少し打撃が軽減したが米政府の一部閉鎖で1~3月期の実質国内総生産(GDP)が影響を受けることだ。また、昨年10~12月期に金融市場の逼迫が始まったこともその変化の一つだ」

――現在の金融政策は引き締めサイクルの中断なのか引き締めの終わりなのか。また、いわゆる"パウエル・プット"を市場に投入したことを認めるか。

「様子見がいつまで続くかはそれが終わった後に振り返ってみなければわからない。様子見の期間はデータ次第だからだ。そのため、現在の金融政策の状態にレッテルを貼ることは難しい。我々は金融市場を広範な見地からみている。金利、リスクスプレッド、為替、信用供与の能力の水準など多くの要素だ。金融市場が金融政策を左右するのは、市場に変化が起きてそれが長期間続く場合に、マクロ経済にも影響するからだ。そうなれば我々の政策にとっても重要になる」

「我々は金融市場の出来事の大半にいちいち反応することはないものの、市場である変化が持続的に起こっている場合には、我々も考慮する必要があるということだ。金融政策は金融市場の変化を通じて稼働するのがその本質だ」

――トランプ米大統領はこれまでFRBに対し利上げをしないように訴えてきた。FRBが大統領の要請に屈したとの意見にどう回答するか。

「FRBが唯一気にかけることは米国民のために仕事をし、我々が持つ政策ツールを適切に使うことだ。我々は常に我々が正しいと思う行動をとる。政治的な意見を考慮したり、議論したりすることは決してない」

――長期的な政策金利は2.8%となっているが、3%以下の水準は次の景気後退期に対応する利下げの余地幅として十分でないとの懸念もある。

「我々は利下げをしたいのに、政策金利が0%になり、必要な利上げができないという状況はあり得ないとみている。もしそうなったら、バランスシートも含め全ての政策ツールを使うつもりだ。しかし、政策金利やフォワードガイダンスなどの従来のツールを使った後になる」

――政府閉鎖の経済的影響について議論はしたか。

「長期の政府閉鎖でも(閉鎖終了後に)支払いが遅れていた給与が支払われれば、第2四半期のGDPに反映されるため、長期的な経済への影響は限定的だ。長期的な影響が出るとすれば、さらに長い政府閉鎖や、2度目の政府閉鎖が起きた場合だ。この場合は、我々の政策決定能力に対する自信低下につながる」

――地区連銀経済報告(ベージュブック)では関税に対する懸念が指摘されたが、今回のFOMCで関税の影響について議論はあったか。

「ベージュブックではここ最近貿易が大きな論点となっている。原料の入手可能性やコスト、報復関税などの懸念がある。長期的な懸念は、現在進行している交渉だ。現時点の関税額自体は中国や米国のGDPに重大な影響を与えるほどではないが、もし交渉が長引けば先行き不透明感につながり、企業の景況感に影響する」

――利上げを一時停止することで社債のバブルに貢献するとの懸念はあるか。

「社債はリスクとして指摘している。金融システムの安定性よりもマクロ経済的なリスクの方が大きい。レバレッジの高い企業は景気の停滞に対する耐久性が低い。顧客にサービスを提供できなくなり、解雇などにつながり、景気の下降トレンドを加速させる。また我々は企業にローンを提供している金融機関の動きにも注視している」

――市場はFOMCの声明と記者会見にポジティブに反応した。市場には"パウエル・プット"があるとの見方があるが、この評価は適切か。

「私の唯一の動機は経済と米国民のために正しいことをすることだ。現在の状況は様子見姿勢を要すると見ている。我々が適切と考える政策をとるまでだ」

――中国や世界の景気減速に対する懸念を示したが、国外の景気減速が米経済にとって恩恵となる可能性は。

「可能性はある。ただ、最終的には堅調な世界経済は我々にとって良いことだ。例えば、2017年は欧州の経済が強く、強いユーロが我々の輸出を支えた」

――米議会予算局は連邦政府の債務が今後10年間で29兆ドルに達すると見込んでいるが、これは合理的な予測か。金利などへの影響は。

「我々は財政政策に関して政府や議会に提言することはしない。連邦政府の予算が持続不可能な道にあり、取り組むべき課題であることは長く知られている事実だ。ヘルスケアシステムや高齢化が背景にある。経済が健全ななかでこの問題に取り組むのに現在に勝る時はない。中期的な観点から言えば、今年の事業や経済サイクルに対する脅威とはみていない。長期的には、将来の世代に必要な政策ではなく利払いに予算が使われることになり、深刻な問題だ。ただ、現在FRBが取り組んでいる仕事に影響を与えるものではない」

 ――現在の金融政策は緩和的なのか。当面は緩和的状態にとどまるのか。それとも足元の株式市場の変動を受け中立金利が下がったのか。

「FOMC参加者が予測する長期金利の範囲は2.5%が下限であり、我々は現在、おおむねその範囲にある。その範囲に入ったら、中立金利は直接観察できないので、それがどこだという従前の考えを脇に置き、データが示すものを見なければならない。私は現在の政策スタンスは経済状況に合っていると考えている。それが正しいか、相反する(経済の)潮流がどのように作用し合い、米経済は今後どう動くのかをデータで見ていくことになる」

――英国の欧州連合(EU)離脱が米経済に与えるリスクをどうみるか。

「もしハードブレグジットが起きれば、英国経済はもちろん欧州経済に混乱が伴う可能性が高く、米国もその影響を受けるだろう。金融面での混乱が起きればその余波が米国にも届くだろう。そうした影響は予測しているが、どのようなものになるかははっきりわからない。おそらく米経済には深刻なものではないだろうが、注視している」

――バランスシートの最終的な規模について。

「準備金はまだ潤沢にある。問題は、緩やかなバランスシート縮小に企業が適応した後にどれくらいの準備金が必要かということだ。準備金の配分およびどれくらい必要かという点についての理解が前年から前進した。プレイブックはなく、だれも実際のところはわからない。市場情報などを調べ、必要とされる規模へ注意深く進んでいることが唯一の方法だ」

――データ中心というが、市場データと経済データのバランスをどうとるのか。市場データが経済データより重視されていないか。

「FOMCの使命は雇用の最大化と物価の安定であり、それは実際的な経済データに関することだ。我々の金利ツールは金融情勢を通じて経済に作用するので、金融情勢は重要だ。金融情勢が幅広く長期的に変化すればそれはマクロ経済に影響する。しかし、我々の焦点は、特定の金融市場や金融情勢ではなく、雇用の最大化と物価安定に向いている」

――バランスシート正常化の議論がこの6週間で大きく動いたことに驚いているか。

「13年のテーパー・タントラムからの教訓で、我々はバランスシート正常化を非常に透明なやり方で設定した。それは非常にうまくいき、その役割分担は金融政策にとってよいものだった。市場は現在、それに関してさらなる明確さを求めており、今回それが提供されたということだ」

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