2019年5月20日(月)

今日も走ろう(鏑木毅)

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悔しさも苦悩も 講演で伝える競技への「熱」

2019/1/31 6:30
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これまでに最も心を揺さぶられた講演は、中学生の時に聴いたある無名の登山家の話だ。農業を営みながら海外の高峰を何度も目指し失敗した、という講演はお世辞にもうまいとはいえなかった。それでも実直な語り口で、悔しさを乗り越え、何かをやり遂げようという情熱を痛いほど感じた。

その後も著名な方々の講演を多く聴いているが、あれほどまでに心に訴えかけ、大きな影響を与えてくれたものは、私が感受性豊かな思春期の少年だったということを割り引いてもほかにない。

講演で挫折体験を熱く語ることが競技へのモチベーションにつながる

講演で挫折体験を熱く語ることが競技へのモチベーションにつながる

15年公務員として勤めた後に40歳でプロスポーツの選手として独立した経歴のせいだろうか、企業や一般市民向けの講演をさせていただくことも多い。競技ではどれほど大きな舞台でも平常心でいられるのに、元来、人前で話すのが苦手だったこともあって、最初は聴衆を前にすると非常に緊張した。

ある時、知人の女性から「以前よりうまくなりましたね」と声をかけられた。もちろん、講演の素直な感想だったのかもしれないが、なぜかうれしさよりも焦燥感に駆られた。初めのうちはたどたどしい語り口調で必死に自分の経験を伝えようと語気を強めていたが、次第に流れに乗ってそれなりに話せるようになった。決して手を抜いているつもりはないものの、もしかしたら慣れてある種の「熱」が薄れたのかもしれないという危惧を抱いた。

以来、講演の前には話の流れの確認だけでなくその時々の気持ちを呼びおこすことを心がけている。思い返せば今の自分をつくったのは数々の挫折を通しての悔しい思いの積み重ねだ。夢を実現しようと、もがき苦しんだ苦悩の日々など、数十年前の出来事とはいえ、その身もだえするような感情を掘り起こし、心が高揚した状態で演台の前に立つようにしている。

講演では、気軽に笑えるエピソードを交えたり、心に残る教訓やメッセージを伝えるように意識しているが、最も重視しているのはなぜ私がそう考え行動したのか、そこに至るまでの感情の機微を伝えることだ。

自分の体験を振り返ってみても、人生を大きく好転させる契機、大きな舵(かじ)を切る場面においては、得てして誰かの言葉や経験が後押ししてくれた。それは書籍やネットなどのメディアから学んだもの以上に、講演などの直接的な語りかけで真意が「熱」とともにより明確に伝わり、伝えたい経験が聴衆自身のものとして共有された時に大きな波動となってそれぞれの胸に届いたものだ。

とりたてて飾り立てたところのない素の言葉ほど聞き手の胸に響くと私は思う。スポーツ選手の講演が人気なのはその成功体験以上に素の言葉が持つ「熱」ゆえだろうか。

講演は授業やセミナーのように単に知識や考え方を伝えるだけのものでない。挫折や悔しい思いといった負の感情をその後の人生でどう生かしたのか、そのストーリーを包み隠さず、伝えようと思っている。

(プロトレイルランナー)

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